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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
変則戦闘編
202/271

変則戦闘編 2

 木曜日、今日と明日はテスト期間である。子供達はというと、特にリタが眠そうだ。

 「勉強していて、気付いたら夜の三時だったです。失敗したです。眠気は脳のかいて……ふわあぁーぁ……です」

 話の最中で大あくびを披露しながらも、やる気は充分かな。

 「必ず一度読み直して確認しろよ。特にナオ。お前勉強では自惚れている節があるから、しっかり見ないと簡単な所で失敗するぞ」

 「ふふっ、大丈夫よ任せなさい。必ず百点の答案を五枚並べてあげるんだから」

 「それが自惚れってものなんだがな」

 出かける前に、意地悪としてわざとナオに足を引っ掛けてみた。

 「わあっ!? っぶないわね、なにすんの!」

 「普段のお前ならば避けられたはずだぞー」

 「……言いたい事は分かったけれど、そういうのは嫌いです!」

 睨まれてしまった。悪戯小僧の宿命である。



 そんな三人に視点を変更。

 「怒ってる?」

 「……怒ってないわよ。一理あるもの。でもやり方が間違っているのよ!」

 「やっぱり怒ってるです」

 「怒ってないっての!」

 怒っている。


 教室に入ると、やはり一番に中山が飛んできた。

 「ねーねーナオちゃん今回も満点取るのー?」

 「気が早過ぎよ。まあ取る気ではいるわよ。でも自惚れているって釘を刺されたから、初心に帰って真剣勝負じゃないと駄目よね」

 すると泉が三人にこんな質問をしてきた。

 「あの、三人は帰っちゃうともうこのテストも意味なくなるんですよね? 私達だって大人になれば使う知識は限られるはずだけれど、皆はどう思っているのかなって」

 核心を突く質問に、三人とも中々答えを出せない。泉が申し訳なさそうに止めた。

 「あ、えっと、まずはテストを終わらせて……」

 「……うん、そうだね。まずは目の前にある事を終わらせて、それから考えよう」

 こういう事に関しての切り替えは、サイキが一番早い。二人も追従し、テスト直前最後の追い込みを開始。


 一日目は英語・数学・社会だ。まずはリタの苦手な英語。

 (よ、よーえーがー? あいきゃんふらい?)

 自分で自分が不安になるリタ。一方二人は余裕の表情。

 次に数学である。ここではさっきと打って変わり、リタが一番に全問を解き終わった。

 (えっと、点Pってこんなに速く動くのかな……?)

 数学に問題があるのはサイキのようだ。

 そして社会。こちらは三人とも安定。

 (私にかかれば余裕よ。……なんて思っている暇があれば見直しましょ)

 工藤に言われた一言をしっかりと実行するナオ。


 チャイムが鳴り、学年末テスト一日目終了。

 「出てこなくて良かったねー」

 テストが終わったと思ったらすぐさま飛んでくる中山。

 「本当にね。明日は二時間だけだから、早いうちに出てくるのでなければ大丈夫かしらね」

 「なんて言ったら出てくるんだよねー」

 「……否定出来ないわね」

 などとお喋りをしている間に下校時間。

 「あ、ねえ明日の分を勉強するのに、また集まらない? 三人はカフェの手伝いがあるからそれまでで、どう?」

 この相良の提案に、やはり皆賛成。念の為またナオが長月荘へと連絡を取る。

 「……ご飯はどうするか、だって。皆どうするの?」

 すると一斉に自宅に連絡を取り始める友達一同。

 「ふふっ、つまり食べるって事みたいよ」

 「分かった。そうしたら一人こっちに寄越せ。財布を預けるから、他は先に買出しな」

 「了解……ちょっと待って」

 工藤との通信を終わる前に、木村がナオを手招きしてきた。

 「カフェの時間って二時だよね?」

 「ええそうだけど。もしかしてもっと居着くつもり?」

 「あはは、そのまま泊まればどうだって。さすがに迷惑だよね?」

 「……そうね、迷惑というか、工藤さんも困るわよ」

 という事で、三人がカフェに行くタイミングで解散という流れに決定。



 そして長月荘へと視点変更。

 「ただいまー」「お邪魔しまーす」

 「おかえりといらっしゃい。というか買出しどうしたよ?」

 「三人くらいいれば充分だから、先に全員で帰ってきたのよ」

 なるほど、効率的だ。

 買出しには珍しく三人の陣営バラバラに、最上・ナオ・泉の三人が出発。最上は食材確認役、ナオは財布役、泉は家が近いので一旦帰って荷物を減らしてからもう一度出るためだそうな。

 「待てよ、しっかりしている三人がいないっていう事は……」

 と不安を感じ子供達を見ると、意外と皆しっかり勉強している。空気は読める子達なのだな。


 「あ、工藤さん!」

 とサイキが言うと、悲鳴音。友達も慣れたもので、皆で声援を送る。私も準備を終わり、青柳と接続。

 「今日も賑やかな様子ですね」

 というのん気な青柳に対し、サイキが強く吼えた。

 「そんな事言ってる余裕ないよ! 敵は商店街に赤鬼と青鬼、西の外れに青鬼と大型の深緑。先に商店街を掃除します!」

 人の多い所に青鬼とは、相性最悪である。するとナオからの通信。

 「商店街の二つは任せて! 二人は西!」

 そうか、丁度三人が買い出し中だものな。

 「最上と泉ちゃんは?」

 「二人は避難済み。……いた。まだ攻撃態勢に入る前ね」

 青鬼の出現位置は魚屋の目の前だ。という事は魚屋は……やはり魚を投げつけんばかりだ。あの赤い姿はタイだな。そうだ、晩飯はキンメダイの煮付けにしよう。

 ナオは発見からすぐに槍を投擲。商店街のお客は皆避難済みなので、見た目に一切被害なく青鬼撃破。これで最大の脅威はなくなった。

 「次行きます!」

 すぐさまきびすを返すように商店街を北上。

 「今回は俺達の出番はないね」

 「お前達は勉強優先だろう」

 「ははは、そうでした」

 ボケている一条。何のために集まったんだか。


 一方サイキとリタはまだ時間が掛かりそう。

 「西の端だから遠い……工藤さん、サーカス使ってもいいですか?」

 「俺じゃなくリタに聞け」

 「……試運転代わりの直線移動だけならば許可するですよ」

 「うん、分かった。それじゃあ飛ばします!」

 リタ目線ではものの数秒で見えなくなるサイキ。まるで弾丸である。どんだけ速度が出るんだか。

 「あれでも一割も速度を出していないですよ。というかリミッターを付けてあるので、現在は単なる高速移動装置になっているですけどね。本気を出せば月までも一瞬ですよ」

 「相変わらずとんでもないな。勿論そんな速度を出せば体がバラバラになるんだろ?」

 「中型の白の時でも一瞬であれですから、それを継続して使えばどうなるかは火を見るよりも明らかですよね」

 「そしてそんなものを戦場で死にたいがために装備した馬鹿がいると」

 私とリタの会話は本来部外者にはチンプンカンプンであろうが、友達六人は何となく理解している様子。


 「こちらナオ、商店街はクリアしたわよ」

 「よし、そうしたらナオは買い物の続き。西側はサイキとリタだけでもどうにかなるだろうからな」

 「どうにかなるですよ」

 「ふふっ、了解よ。でも二人とも気を付けなさいよ」

 という事で一足先にナオは我々との映像接続を終了。そうこうしているうちにサイキは既に戦闘を開始していた。さすがに戦闘中にサーカスを使う事はない様子だが、それでもやはり二人とは動きの精度が違う。そしてまるで赤子の手を捻るかの如く青鬼を撃破。

 「目を離した隙にこれだよ」

 「え? わたし悪い事した?」

 「いや、あっさりと倒していて感心しつつ呆れていただけだよ。この分だとリタも不要だな」

 「どうにかなっているですね」

 「うん。あとは深緑だけだから一人で充分」

 リタの言葉遊びに気付かず、そしてその事を全く否定する気のない辺り、さすがは戦闘狂である。そして宣言通り深緑を高速で翻弄しつつ、こちらも一切危なげなく撃破。


 「せっかく出てきたのにリタは何もやる事なかったですね」

 という事でサイキとリタは一足先に長月荘へと帰ってくる事に。

 「はあ……」

 リタは一つ溜め息。いや、これは自身が戦闘に参加しなかった事への安堵だな。するとそんなリタの横を飛び抜ける赤い頭。

 「うわっ! ……サイキ! 調子に乗ってると怒るですよ!」

 「えへへ、これだけ速度を出しても負担がほとんどないのが面白くって」

 「……やっぱり没収すべきですね」

 「ご、ごめん」

 この二人はいつも通りだな。そして聞かれている事にも気付いていない様子。

 「いいからさっさと帰ってこい」

 「あ、聞かれてた。っていう事は……」

 「おねえちゃん!」

 そしてこの流れもいつも通りである。友達一同には、私の知識でサイキの持つサーカスという装備を説明しておいた。まあ詳しくはリタから聞け。


 先に二人帰宅。それから少しして買い出し班の三人も帰宅。

 「少し時間がずれていたら巻き込まれていたよ。危ない危ない」

 「私の家に寄らなければ良かったですね……」

 「泉ちゃんは責任感じる必要ないよ」

 最上と泉も結構仲がいい様子。というかこの子供達は全員それぞれと仲がいい。

 「大丈夫、私が一緒にいる限りは安全よ。いざとなったら盾になってあげますからね」

 「ナオさんがそれを言うと、矛盾の話みたいだな」

 「矛盾の話……ああ、確か商人が矛と盾を同時に売ろうとして、話の辻褄が合わなくて失敗する話よね。でも私達の場合は盾が勝つわよ。何せ元は隕石用ですからね」

 ナオがその話を知っている事に少し驚く私。一方子供達は隕石用という所に驚いている様子。

 「隕石用っていう事は、宇宙船とかを守るのをそのまま使ってるっていう事?」

 「大体その通りです。つい最近まではそれを改良してすらいなかったので、物凄く非効率だったですよ」

 木村の質問に、やはり技術的な話になるとリタが答えた。

 「あ、私分かったー! それ改良したのがリタちゃんでしょー?」

 「……正解です。えへへ」

 中山大正解。そして皆に褒められ恥ずかしそうにしているリタ。可愛いぞ。


 「お喋りに集中するよりも先に、お勉強に集中してはいかがかな?」

 と促すと、皆話を切り上げ勉強の態勢に入る。サイキと最上はお昼の準備。相変わらずこの若夫婦は料理となれば先頭に立つなあ。そのお昼ご飯だが、今回もカフェのランチメニューを模したものだった。相変わらず中々の出来であり、私が言うのも何だが、将来店を出せばいいのにと思ってしまう。

 お昼ご飯を終えた頃に青柳到着。子供達とも何度目かの顔合わせなので、すっかり知り合いという感じ。昼食は済ませてあるそうだ。

 「先に報告させていただきますね。商店街での被害は、風で商品が倒れたというようなものを除けばゼロでした。もう一箇所でも負傷者ゼロ、建物への被害も軽微でした。つまりは満点ですね」

 「すごいねー。テストよりも先に満点取ったねー」

 「これは明日も頑張らないといけないわね」

 青柳はどうやら意味が分かっていない様子。学年末テストの期間中だと言うと、懐かしいと一言。そういえばこの男の成績はいかがなものだったのだろうか?

 「お恥ずかしながら、赤点は取らない程度でした。本格的に勉強に熱を入れたのは高校に入って、漠然としていた将来像を明確に描いてからですね」

 「という事は猛勉強した訳か」

 「ええ。おかげで昔はかなり丸い体格だったのが、こうなりましたから」

 人に歴史あり、という所か。しかし意外だったのはこの青柳が昔は丸かったという事だな。そしてこの話には子供達も触発されたようで、より勉強に熱が入っていた。



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