下宿戦闘編 20
「長月荘SNSのメンバーに渡辺っているから、探してみろ」
彼女達の事が不特定多数に知られていたと落胆し、渡辺に謝りの報告をした所、こういう返事が来た。探してみると確かにハンドルネーム”渡辺”がいる。そのまま過ぎないか、というツッコミを入れる気力もない。
「実はそれな、俺が竹口君に作らせたものなんだよ。長月荘の元住人であり、大丈夫だと判断した人にのみ入室IDを発行していてな。外部の不特定多数からの観覧というのは実質的に不可能だ。作られたのは半年前、お前さんが長月荘を閉めた時だ」
前述の落胆とこの形容しがたいオチのダブルパンチで力の入らない私。そういえば今まで頼って連絡をした元住人達は、皆とても協力的で、こちらの事情に気付いているような振る舞いがあった。まさかこういう事だとは……。
「工藤さんのIDは既にあるから、竹口から貰ったパソコンで俺の言う通りにIDを打ち込んでみろ」
言われるがままIDを入れるとあっさりと入室出来た。
とりあえず一言「ただいま」とだけ打ち込む。雪崩のように文字が流れた。
「皆暇なんだな」
すると今度は顔文字が多く流れた。どうやら笑いは取れたようである。
「正体を明かすのは勿論駄目だが、彼女達の普段着の写真を載せるくらいならば大丈夫だよ。みっちゃんに一枚写真を頼んだのも俺だしな」
直後、みっちゃんが写真を一枚投稿。3人並んだ写真だ。とても良く撮れている。
「工藤さん付きのはよ」
という書き込みが入った。長椅子に三人、一人用の椅子に私が座り、私は横を向く形でカメラを見る。女の子三人の写真に冴えないジジイが写りこんでいるとしか見えない。我ながら写真写りは悪いのだ。
「メンバーは皆、工藤さんや三人をサポートする為なら労力を惜しまない。そういう人達を選んで招待しているから当然だがな。はしこちゃん、高橋、三宅、竹口、みっちゃん、もちろん俺もだ。これが工藤さん、あんたの築いた長月荘の”縁”であり、絆だよ」
気付けば泣いていた。心配そうな顔をする三人に大丈夫だと言い、涙を止める。そうだ、青柳にも連絡せねば。と思ったが渡辺から連絡してくれるという。確かに彼のほうが上手く言ってくれそうだ。
みっちゃんに先程怒鳴った事を謝り、そして子供達の服のお礼として五百円硬貨三枚贈呈。初めてこんなにもらったと喜んでいた。実際掛かった金額から考えれば雀の涙ほどもないのに、申し訳なくなる。
「ねえ、話は変わるけどさ、三人って今何年生なの? 平日の昼間から家にいるって、学校でインフルエンザでも流行ってるの?」
どう言おうか迷ったが、秘密のうちの一つとしてはぐらかすしかない。彼女もなんとなく理解したようで、これ以上は聞かないと言ってくれた。三人はというと学校と聞いて顔を見合わせ懐疑的な微妙な表情。何故だ?
「それじゃあ今回のあたしの任務は完了。時間もあるし引き上げるねー。また服が欲しければ声かけて。コーデしてあげるね」
三人と私は頭を下げ、みっちゃんを見送る。
「SNSでよろしくねー」
了解だ。
さあこれで行動範囲を広げる事が出来る。髪の色は多分どうにかなる。というか彼女達の装備に髪の色を変えられる機能はないのだろうか?
「ないです。でも部品さえあれば作れるです。えっと……まずはこの世界の一般的な技術レベルが知りたいです。そういう所ないですか?」
電器屋か、そうでなければもっと大きな街に出るしかないなあ。とりあえずは近くの家電量販店に行くか。
店に着いたのだが、派手な三色の頭はもうそれはそれは目立ちまくりである。しかし意外と誰も気にしない。やはり服装が違うだけでかなり印象が変わるのだろう。ただしリタにだけはフードを絶対に脱がないようにと言いつける。
「分かってるです。万事任せるです」
凄く頼れる……気がする。
「部品って事は分解して使うんだよな。そのために新しいのを買うのは金銭的に厳しいぞ。なるべくならば安いのにしてくれ」
「リタには技術支援用の装備もあるです。中身をスキャンして、そこから必要な部品数を割り出すです。本当ならば部品一つ単位で手に入れたいですが……」
一通り巡った結果、買ったのは安売りの小型扇風機とドライヤーだけだった。
「これだけでいいのか?」
「どうにかするしかないです。どうにもならない気もするです」
「大丈夫かおい。無駄な出費にならなければいいんだがなあ」
あとは髪の色を変えるのだからと、すぐ横のドラッグストアーでヘアカラーを物色。そこでリタが何か閃いたようだ。
「髪の色を変えるのではなく、変えてあるように見せればいいですよね。これならば髪も痛まず、すぐ戻せるです」
つまりは髪を染めるのではなく、色を映し出せばいいと言う事だった。しかしそんな事が扇風機とドライヤーから出来るのか?
帰りに少し遠回りになるが、リサイクルショップにも寄ってみる。三人とも興味津々であり、リタはジャンク品を漁っていた。結局は家電量販店以上の出費になってしまったが、今後を考えると必要経費と割り切る事にしよう。その後帰宅し、リタは早速開発の為に部屋に篭るという。
「絶対にドアを開けちゃ駄目です。絶対です!」
お前は鶴の恩返しかという感じで警告してきた。食事はどうするかと聞くと、少し考えた後、自分のペースで食べたいから部屋の前に運んでおいて欲しいとの事。
「爆発とかさせて家壊すんじゃないぞ」
「爆発したら周囲一体に大穴があくです。壊す程度じゃ済まないので大丈夫です」
それ大丈夫って言わないぞ。まあとにかく無事を祈ろう。
「リタはあんなに小さいのに副主任。サイキも隊長補佐。凄いわよね」
なにやら思う所がある様子のナオ。
「階級だけが全てじゃないさ」
そう励ますが、中学生くらいならば感受性の高い年齢だ、思い悩む事もあるだろう。
「そういえば昼間、学校の話が出た時にあまりいい顔をしていなかったけれど、何か苦い経験でもあるのか?」
ふと思い出し聞いてみる。
「わたし達にとっての学校というのは、兵士の訓練施設でしかないんです。だから毎日のように厳しい訓練が繰り返されて、正直言っていい印象が無いんです。脱落でもしようものなら……。でもこちらの学校は違うようなので、ちょっとだけ興味はあります」
一介の大人として彼女達に一定の教育を受けさせたやりたくなった。しかし十月中旬から転入なんて出来るのだろうか? しかも一気に三人。学校関係者とも連絡を取る必要があるし、青柳から許可を取る必要もある。授業中に襲撃が来たらどうする? 問題は山積だな。
「そういう時にこそSNSを使ったらどうかなあ?」
その手があったか。サイキの提案に乗り、早速学校関係者を探してみる。……が、見当たらなかった。ここは私一人で頑張るしかないかな。とりあえずは明日、近くの私立中学校に聞いてみるか。




