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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
水上戦闘編
198/271

水上戦闘編 18

 「ぷはあ……ふうー……」

 ナオが上がってきた。まずは息を整えている。見た目から無傷である様子。

 「えーっと、お爺さん二人の会話は終わったかしら? 海中に青鬼を見つけたわ。ただ攻撃があって近寄れないの。どうしよう?」

 ナオが困るほどなのか、または演技か。


 さて、どうするかな。まずは見ていなかった分の情報を手に入れるべきか。

 「今は何の槍を使った?」

 「威力重視で投擲特化よ。でも投擲にいい位置に入る前に攻撃が来ちゃって、逃げるので手一杯になっちゃうのよ」

 「相手の位置と水深は?」

 「えーと、周りは岩場だけれど、隠れて攻撃を避けられそうな場所はない感じ。水深は十数メートルって所かな。二十メートルはないわ」

 「……よし、それだけ情報があれば、お前達ならば答えを導き出せるはずだぞ。いいか、今までのあいつらの行動や、自分の武器の特徴も考慮に入れろ。ついでに自分の今の状態もな」

 すると、ずっと私と渡辺との会話を聞いていたサイキとリタが笑っている。

 「あはは、工藤さんそれって投げているだけだよ」

 「何もしていないのと同じですよ」

 「当然だ。俺はお前達自身で正解を導き出せると信じているからな。全て任せる。これも一つの信頼方法だぞ」

 「……そういう事ならば、期待に応えあげようじゃないの。作戦を練り直すわね」

 三人の目の色が変わった。さあどうなるかな?


 「……よし、作戦決定よ」

 とナオが自身が着けていたライトをリタに渡した。

 「二人は海上から青鬼を照らして頂戴。私はライトの範囲に入らないように潜って姿を暗ませる。槍は初期のが正解かな。あれは先端が細いから水の影響を受けにくいはずだし、それに元が漁師の銛だから、恐らくは水中での投擲にこそ真価を発揮する。……これでどう?」

 「上出来だ。よし、行け!」

 私の号令とともに作戦開始。まずはリタが魚探を使い青鬼の位置を特定。サイキとリタで三つのライトを一斉照射。十数メートルの深さではあるが、さすがに三つのライトを合わせれば簡単に青鬼が見えた。

 「そのままでよろしくね」

 そう言い潜水を開始するナオ。足ヒレ等はないが、それでもしっかりと潜っている。翼は仕舞ってあるので、やはり本人の能力という事だな。

 「んー、ん!」

 海中なので口は開けないが、喉で声を出し投擲を知らせるナオ。

 ナオの手から離れた槍は、予想通りに、いや、予想以上に元気だった。まさに水を得た魚の如く、今までのどの投擲よりも見事に一直線に青鬼へと突き刺さった。これで青鬼漁は終了。

 槍を回収しに来たナオも、二人のスポットライトに照らされ、まるで人魚のようである。わざと水中で手を振るあたり、本人も意識しているのだろうな。

 「分かったから、帰ってこい。……っとその前に魚探を返しに行けよ」


 帰ってきた三人に、まずは頭を下げよう。

 「すまん。お前達の事を信用はしていたが、よもや信頼していなかったとは、渡辺に言われるまで気付いてすらいなかった。司令官としても、父親としても失格だな」

 そんな私の頭を、撫でてくる手がある。このしっかりした感じはナオだな。頭を上げれば正解だ。

 「私達が工藤さんの言いつけを守ったり、作戦にもちゃんと従うのはね、心配させるからだとか、迷惑をかけるからだとか、そういうものが根底にある訳じゃない。尊敬と感謝を持っているから、信用信頼をしているから、本物の父親と同じに思っているからこそなのよ。だから、私達を信じてくれるのであれば、自分を失格だなんて言っちゃ駄目よ」

 「……ははは、負けたよ。お前達には敵わないな」

 「当然でしょ。父親は愛娘の言う事には弱いものなのよ」

 「自分で愛娘って言うか? まあ、正解だけどな」

 何というか、私の中で一つ肩の荷が下りた実感がある。これは……どこかで彼女達に遠慮をしている部分があったのかもしれない。それこそ借りてきた道具として見てしまっていた部分があるのだろう。我ながら恥ずかしい限りだ。


 「そうしたら俺は帰るとするよ。工藤さんや子供達とも会えて良かった。いい思い出になったよ」

 「……渡辺、その言い方じゃ先が長くないように聞こえるぞ?」

 「あーこれは俺とした事が。いや、至って健康だし病気もないから何にも問題はないぞ。……本当だぞ」

 怪しいな。ただでさえ怪しい人物が、こうも隠し事がある風な言動をすると、最早嘘としか聞こえなくなってしまう。

 「まあ、そういう事にしておくよ。お互い長生きしようや」

 「はっはっはっ、お互いな」

 という事で皆揃って渡辺に手を振った。

 「その後渡辺さんの姿を見たものはいない……」

 「冗談でもそういう事は言うなよ。俺だってそろそろ、そういう事に敏感になる年齢なんだからな」

 「えへへ、ごめんなさい」

 全く不謹慎な赤い頭だ。しかし渡辺の事だ。本当にその時期が近ければ、包み隠さず言うはずだ。あいつは人に心配を掛けさせる事はあっても、迷惑をかける事はしない。過去あいつが下宿していた頃に、それを嫌というほど叩き込んだからな。


 その後少しして、青柳から電話。今日は遅いので報告は明日だそうな。

 「ついでだから聞くけど、お前渡辺に対してどう思っているんだ? 前は嫌いだと言っていたが、本心は?」

 「嫌いですよ」

 一切の間を置かず切り返してきた。

 「ああいう全てを見透かしているくせにそれをはぐらかしている感じが嫌いなんですよ。まるでマジックミラー越しに顔を見られているようで、自分が取調室にいるような気持ちになるのが嫌なんです」

 「職業病の一つじゃないか? それ。ともかくあいつにしてみれは青柳は信頼の置ける相手なんだよ。それは分かっておいてくれよ」

 「私は刑事ですよ。それくらい分かっています。話は以上ですね? それでは」

 あっさりと電話を切られた。つまり自分を知り過ぎている事が嫌いではあるけれども、それも含めて信頼関係は構築されているという事だな。


 次にナオがサイキに詰め寄った。

 「あんた、中型の群れに突っ込んで何したのよ? まだ隠し事があるんじゃないでしょうね?」

 「ないよ。隠し事はない。わたしがやったのは、相手の攻撃をギリギリで、ピンポイントで防いだだけ。あの頃に身に付けたエネルギーの節約方法の一つなんだ。最低限の大きさで一瞬だけ防壁を張る。ただそれだけだよ」

 「……理屈は分かるわ。でもそれをあっさりと言わないでよね。それを出来るのはあんた位のものよ? よくそれで実力がないだなんて言えたものね」

 「ご、ごめ……ん? わたし謝らなくてもいいんだ」

 謝る事の多いサイキだからこそだな。その光景にナオとリタは笑っている。しかしエリスは……後で怒られるぞ、お姉ちゃん。


 しかし今更ながら疑問が沸いてしまった。

 「はい、ナオ先生質問です」

 「な……はい、工藤君」

 一瞬戸惑った様子だが、乗ってきた。

 「皆の使うバリア防壁って、いつも手を前に出して使っているよな? あの時のサイキはそういう動きをしていなかったのに防壁を張ったっていう事だろ? もしかしてあの動作って不要なのか?」

 「あれは一種の範囲指定方法なのよ。だから手を使わなくても、目測や感覚から防壁を張る事も可能ではあるわ。でもそれはかなり難しい事なの」

 というとナオは手を使わずに私の目の前に六角形をした板状の防壁を張って見せた。

 「私の腕前ではせいぜいこの程度ね。サイキだったらもっと難しい図形を描く事も出来るんじゃない?」

 「出来るよ。やってみるね」

 すると手を使わずに、簡単な人の輪郭をした板状の防壁を作ってみせた。

 「……もう一度だけ言うわね。この化け物め」

 「えへへ。これだけは装備に頼らない、わたしの努力の成果なんだ。わたしの自慢!」

 どうだと言わんばかりに、にっこり笑顔のサイキ。


 「うーん、なるほど。こういうのって触っても大丈夫なのか?」

 「ええ、防ぐだけですからね。触ってみる?」

 もう一度、ナオが手を使って板状の防壁を展開してくれた。

 「はい、どうぞ」

 という事で触ってみると、確かに壁がある。しかし温度は何も感じない。本当にただ何かに遮られている感覚だ。

 「うん? でも中型の白い奴の攻撃を防いだナオは、背骨をやられたよな?」

 「それはね、文字通り盾で防いでいる感覚なのよ。だから強過ぎる衝撃は使用者にも影響を与える。あんな広範囲高威力の衝撃波を何発も防げば、ああなって当然なのよ。むしろあの程度で抑えられて良かったくらい。我ながら自分の頑丈さに感謝よ」

 そうだったのか。私はてっきり、衝撃波が貫通していたのだとばかり思っていた。普段使うだけでも、少しは衝撃を受けているのだな。


 「……ならば余計に、サイキお前大丈夫なのか?」

 「大丈夫だよ。前にも言ったけれど、わたしは千に等しい敵と対峙して、全部倒して回る生活だったんだよ。あれくらいで音を上げていたら今頃もう死んでるよ」

 「音を上げていたらって、そういう事じゃ……」

 「分かってますって。今回のは緊急性があって、それでいて無傷で切り抜けられると確信したからやったんだよ。それこそ、わたしを信頼してもらいたいな」

 若干すねた声を出したサイキ。しかしなあと、やはり少し疑ってしまっていると、横からリタが口を開いた。

 「工藤さん、リタはサイキほど動ける訳でもないし、ナオほど実力がある訳でもないですけど、今回のサイキは、あれでも充分に安全を確保していたのが分かるですよ」

 すると間髪いれずにナオも口を挟んできた。

 「といっても、工藤さんに見る目がないって言いたい訳ではないのよ? もう少し自信を持って私達を使ってね、っていう事。渡辺さんとの会話は私達にも聞こえていたわ。正直、道具として見ていたなんて言われたのは残念だけれども、私とサイキは兵士。戦闘では敵を倒すための道具なのよ。リタはともかく、私達に遠慮はいらないわ」

 「戦闘に参加する限り、リタにも遠慮はいらないですよ」

 すっかり私が励まされる側になってしまっている。ならば、それに答えてやるべきだな。

 「分かったよ。渡辺も言っていたが、心配はするが自分を責める事はやめよう。……そうだな、俺がお前達に遠慮するのをやめるんだから、お前達も俺に遠慮するのはやめろ。サイキは自分の判断でサーカスを使え。ただし必ず帰ってこいよ。ナオは俺の作戦承認を待つ必要はない。ただし命を優先だ。リタも己が最善と判断した行動を取れ。ただし暴走だけは駄目だぞ」

 「はい!」

 うん、綺麗に三人声が揃った。


 さてと一息ついた所で、遂にエリスが口を開いた。

 「……おねえちゃん」

 普段のエリスとは違う、低音で発せられたその一言に、一瞬ですくみ上がるサイキ。まあそうなるだろうな。

 「怒られると思ったなら、ちゃんとして。分かるでしょ?」

 「はい。分かります」

 「ナオさんもだよ」

 「え……あ、はい。ごめんなさい」

 リタにも一睨み。呼応するようにリタの耳が下がった。

 「……でも、みんな帰ってきて、よかった」

 すると、小さく泣き出すエリス。なるほど、これは本当に心配していたのだな。私も三人もそれを痛いほど理解し、三人はエリスに抱きつき謝っていた。

 ここまでされては、さすがに三人もエリスをこれ以上心配させるような事はしでかさないだろうな。



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