水上戦闘編 10
「おー来た来た」
全員合流。男性陣は至って普通の海パン。女性陣では相良が一番肌色が多く攻めている。
そして木村中山コンビがそれに続く。サイキ姉妹はどちらも可愛い系であり、小柄な二人はどちらも露出少な目。そして目立ちたがり気質のあるナオが、一番露出が少ないという結果に。
しかしそんな相良の頑張り虚しく、男性陣の目は一点に釘付けされている。
「これは……」「すげーな……」
「うーん、トランジスタグラマーという奴ですね。小柄なのにグラマラスな体型。この場合は年齢に不相応なほどの胸の発達……あ、すみません」
女性陣に白い目で見られている事に気が付いた青柳は、思わず謝った。
「秀二さん……おっぱい派なんだ」
「あ、いえ、こ、これは……」
孝子先生の一言に過去一番の焦りを見せた青柳。
「泉ちゃん、ああいう大人には気を付けるんだよ」
駄目押しの言葉に、更にバツの悪そうな青柳。そしてそれを笑う女性陣。青柳は既に尻に敷かれ始めている。
「はーい、そしたらここからの注意点ね。もしも迷子になったら、ここで待機する事。一応袋に入れて携帯は持ってきているから、三人は何かあれば連絡寄越しなさい。くれぐれも、くーれーくーれーも! 勝手な行動は起さない事! 分かった?」
「はーい」
子供達に混じって、青柳も一緒になって返事をした。
まずはいつもの三班に分かれた。サイキ姉妹に相良と最上、ナオには木村中山コンビ、リタには泉と一条。
「さーて何処に行こうかなあ」
「サイキ、それエリスちゃんの台詞じゃないの?」
「そうだった……よし、ここは全てエリスに任せるよ」
「……そう言ってもおねえちゃん、明らかに目があれに向いているよね」
サイキの目線の先にはウォータースライダー。
「ああいう奴の中には年齢や身長の制限付きのもあるから、エリスちゃんは滑れないかもしれないよ。……俺とエリスちゃんは下で待っているから、二人で偵察がてら滑ってくればいいよ」
「本当最上は大人の対応出来るねー。それじゃーあたしはサイキの監視役で行ってくるよ。エリスちゃん少し待っててね」
「いってらっしゃーい」
ここでも順序が逆転しているサイキ姉妹である。
「ちなみにだけど、エリスちゃんは泳げるんだよね?」
「うん。家のお風呂で練習したもん」
「ははは、確かにあそこのお風呂は広いからなあ」
残された二人は、既に息が合っている。
「こっちはとにかくあい子だね。二人揃って監視しないと危なっかしくて仕方がないんだから」
「えー? さすがに私だってそこら辺は分かってるよー」
木村の言葉に少しふくれる中山。
「どうかしら。普段の行いから見ると、到底安心は出来ないわよ。さて、まずは何処に行こうかしらね?」
「うーん、まずは定番、波のプールかな」
「さんせーい」
という事でこちらも移動を開始。波のプールはメインでもあるので、施設ほぼ中央部にある。そして勿論人も多い。
「やっぱりね。……まあ転ばぬ先の杖として、ビーコン渡しておくわね」
「えっと、何処に付けろと?」
「あ……」
ナオの天然ボケ炸裂により、お互い目視での位置確認の重要性を、改めて感じる二人。そして中山は早速一人でプールの中へと突入し、二人も焦りそれを追う事に。
「俺達はどうする?」
リタ班は一条がお目付け役である。
「とりあえずは足の着く浅いプールからにしよう? 準備運動は大事、だよ」
泉の提案にリタも頷いた。
「そうしたら子供用プールに行くかー。ってか二人とも泳げるの?」
「私は泳げますよ。というか……沈めない……」
顔を赤らめる泉。一条は視線が男の性に抗えていない。残されたリタは淡々と泉の胸のふくらみを恨めしく思うだけである。
「え、えっと、リタちゃんは泳げるの?」
「泳げ……る、ですよ。……多分」
「多分なんだ……」
目と話を逸らすも、こちらも撃沈する一条。研究所暮らしだったリタは、実は人生初泳ぎなのだ。結局リタ班は、背の低い二人でも足の着くプールで、リタの水泳練習となった。
「私達はどうしましょうか」
「うーん……っていうか秀二さん未だに仕事モードだね。せっかくなんだから肩の力抜こうよ」
「あ、ははは。でも工藤さんから監視役を頼まれている以上は、刑事として全うするよ。何せ相手は世界の救世主。怪我でもされたら私の首が飛んでしまうからね」
「もしそうなったら……私達も下宿やろうか?」
「……この顔で?」
自らの顔を指差す青柳に、孝子先生は大笑い。
「あっはははは! 工藤さんは温和そうだからいい雰囲気だけれど、秀二さんだったら留置所になっちゃうね」
「それはそれで傷付きますよ。でも、私も少し工藤さんの生活には憧れがある。私の仕事とは正反対の位置にある仕事だからね」
青柳なりにも、色々と思う所があるのだ。自分は常に気を張って厳しい態度で臨まなければいけないが、下宿屋の主人は明るく優しい人物が相応しいと、自分もそうなりたいと思っているのだ。
「こんな事、本人の前では絶対に言えないけれど、もしも子供達が元の世界に帰って、そしていつか工藤さんが引退したら、私達が長月荘を引き継ごうか?」
「……この顔で?」
再度冗談めかして自分の顔を指差した青柳に、孝子先生は笑わずに頷いた。
「私の目が節穴じゃないなら、出来るよ。私達ならば」
「……やはり私と孝子さんは意見が合いますね」
どうやらこの二人には、新たな目標が出来たようだ。
お昼頃になり、孝子先生が集合を掛けた。続々戻ってくる子供達。
「えーっと……全員いるね。一旦お昼休憩にするよー。水の中って思ってる以上に体力を使うから、皆ちゃんと休みなさいよ」
各々に返事をする。この中で一番体力を消耗しているのはリタだ。遊びに来たつもりが水泳の練習になったのだから仕方あるまい。そんなリタを気づかい、ナオが浮き輪を借りてくると申し出た。
「あんた元々体力ないんだから、自制しないと駄目よ。浮き輪借りてきてあげるから、午後からはそれを使いなさい」
「了解です。ごめんなさいです」
他の一同は、男性陣と相良と木村の五人でお弁当を買いに出た。
「どうせやきそば位しかないんだから何買ってきても文句言うんじゃないぞー」
「はあーい」
一条の忠告に、居残り組は気の抜けた返事を返す。
「……それで、皆は好きな男子いる?」
女子だけになった途端始まる恋の話。振ったのは孝子先生。
「わたしはそういうのは……やっぱり、まずやらなくちゃいけない事があるから」
サイキはいつも通り、作戦遂行優先である。
「私もいないなー。だってまだ中学生だし」
「中山にしては慎重な意見だね。……ふふっ、去年まで私三年生を受け持っていたんだけど、卒業前には女子の半数が彼氏持ちになってたんだぞ?」
驚きの声が上がる一同。
「泉ちゃんは……やっぱり?」
「え、な、なにが、ですか? 一条君の事なんて見てませんよ?」
孝子先生に話を振られ、焦り思わず名前を出してしまった泉。
「あはは、自分で言っちゃったし。一条もその気がありそうだよね。付き合っちゃえば?」
「だから違いますって!」
「ムキになっちゃう所が、ねえー」
ふくれる泉だが、これは照れ隠しである。そして最後にリタ。
「リタちゃんは……どう考えてもいないよねー」
「彼氏いるですよ」
「ははは、やっぱりいな……ええっ!?」
びっくり仰天、椅子からひっくり返りそうになる一同。一番驚いているのは他でもないサイキである。
「え? え? 何? 誰? ってか本当?」
「本当ですよ。研究所の同僚で、リタと同じ種族で、八つ年上です。こっちに来る事を決めた時に告白されたですよ。サイキもナオも会ってるですよ」
お口あんぐり固まる一同。まさか一番小さなリタに、全員追い抜かれるとは思っても見なかったのだ。
「でも返事はまだなので、正式な彼氏ではないです。帰ったら改めて考えさせて欲しいと保留にしてあるですよ」
「そ、そうなんだ。ナオも好きな人がいたって言っていたし、わたしだけ疎いなあ。あはは……」
苦笑しか出ないサイキであった。