水上戦闘編 9
本日は土曜日で休日。四人と友達六人、更に保護者として青柳と孝子先生のカップル二人が、隣の金辺市にある「金辺シーワールド」という温水プール施設に遊びに行く事になっている。
行程などは全て任せており、私は一切触れていない。
「触れていない所か、何で行くのかすら知らないのはどうかと思うんだが」
「あれ、言ってなかった? ごめんなさい。青柳さんが車を借りてくるから、それで行くのよ。晩御飯までには帰る予定だけれど、もしかしたら途中何処かで食べてくるかも。何かあれば連絡するから安心して頂戴」
そう言われても私の目の届かない場所に行くのだから不安はある。
「そうだ、先にエリスに腕輪を返しておくです。翻訳機と同じで、頭でそう思うだけで髪の色が変わるですよ」
「ありがとう。じゃあ早速試してみる」
腕輪を着けてみると、エリスの髪の色が変わった。サイキと同じ茶系であり、それよりも少し黒い。鏡で本人も確認。
「これくらいの茶色ならば普通にいるし、四人の中で一番違和感がないな。目の色だけはどうしようもないだろうから、そこは目立ってしまうけれど」
一方エリスは若干納得が行っていない様子。
「……ねえリタ、ぼくの考える色に変えられる?」
「出来るですよ。色を思い浮かべて変更したいと思えばいいですよ」
するとエリスはほぼ完全な黒髪に変更した。
「あっ、変わった。ぼくこっちにするね」
「さっきのも似合っていたから、変更しなくても大丈夫だったのに。何か理由でもあるのか?」
「うーん……教えない」
「何だよ意味深だな」
結局理由は教えてくれなかった。まあきっと本人の好みの問題だろうな。
青柳が大型のワゴン車で来た。
「おっ、皆揃っているな。忘れ物、酔い止め、大丈夫だろうな?」
車内を覗き全員揃っている事を確認。皆改めて自分の荷物の確認をし、私も全て問題ない事を確認。
「じゃあ行ってきまーす」
「ああ最後に一つ、重要な注意事項な」
早速出発しようとした皆を一旦止める。
「子供達、特に四人は何かと自分達だけでどうにかしようとするからな。いいか、ここからは四人はただの子供だ。何かあれば自分達だけで行動するのではなく、必ず大人二人の指示を仰ぐ事」
「はーい」
まあ軽い返事だ事。何となくだが、このまま行かせては問題を起す気がしてきた。ここは四人の性質を利用する言い方に変えるか。
「これは命令だ。勝手な行動はするな。大人を頼れ。ここまで来て全て水泡に帰しても知らんぞ」
「……はい」
少し溜めはあったが、今度はしっかりとした返事になった。兵士であるサイキとナオは命令という言葉に弱く、リタも主任であるので、この計画がこんな所で頓挫する事などあってはならない事なのは重々承知している。エリスも賢い子なので、これだけ言えばしっかり理解してくれるはずだ。友達一同も私がわざわざ同じ内容を二度も言った理由を分かっている様子。
「よし、それじゃあ気を付けて行ってこい。青柳に孝子先生、くれぐれもよろしく」
皆を送り出した私も、少し思う所があり外出する事にした。
一方こちらプール班。
「命令って言われちゃったねー」
「そうね。工藤さんの言いたい事も分かるし、言い直したっていう事は私達が舞い上がっていて危なっかしく見えたっていう事だから、もっと周りを見るようにしないと」
中山の横に座るナオ。振り返りサイキとエリスを呼ぶ。
「あんた達、昨日みたいな事になるのだけは駄目よ? あれが今日起こったら、本当に笑えない事態になるわ。サイキもエリスも、どちらも必ずお互いの位置や反応を確認してから行動する事。分かったわね?」
「うん、分かった」「おねえちゃんをしっかり監視するよ」
次にリタと泉にも声を掛けた。
「そっちの小さいの二人も、しっかりと相手の位置を確認、把握する事。背が低いんだからはぐれて見失ったら大変よ」
「了解です。気を付けるです」「私も分かりました」
溜め息の出るナオに、通路を挟んだ反対側に座る木村が「お疲れ様です」と一言。
次に孝子先生からも注意事項が告げられた。
「もしもはぐれた場合、歩き回らずに特定の場所で待機する事。そこの三人は水着姿でも通信出来るんだよね? 見えなくなった人がいた場合、三人で情報を共有して、連携して動く事。特に中山! お前は必ず誰かの近くにいなさい!」
「はーい」と全員声を合わせて返事。
「こういうのが修学旅行っていう奴なのかしら」
とナオが一言。最前列に座る男子二名から、最上が振り返った。
「先生もいるし人数多いし、当たらずとも遠からずって感じだよ。後は皆で宿泊すれば完璧かな?」
すると青柳。
「宿泊はしませんよ。どうしてもと言うのであれば……犯罪を犯せば留置所に宿泊出来ますよ」
この警察らしい答えには笑いが起こる。
「あはは、たまにこういう事を言うから青柳さんは好きだなあ」
サイキの好きだという発言に思わず反応する最上だが、所謂ラブではなくライクの意味である事は、誰の目にも明らかである。
目的地までは二時間近く掛かるので、道中一旦休憩。コンビニに入り、各々飲み物を購入する事に。
「四人は、もうここからは変装お願いします」
青柳の指示に従い四人とも髪の色を変え、リタはウィッグ、ナオは眼鏡を装備。そんなナオを見て一条が食いついた。
「おーナオさん眼鏡っ子になるのか」
「似合うでしょ? サイキ達には委員長や先生みたいって笑われたけれど」
「分かるわー。凄く分かる。けど俺は大人しい性格のほうが好みだなー」
「……それって私が荒っぽいって言いたい訳?」
「いやいやいやいや!」
冗談めかしたナオの言葉に、全力で否定する一条。
「そこまで否定されるのも何だか、ねえ。でも戦闘での私の役割は知っているでしょ? 弱い精神ではやっていけないのよ」
「俺達もネットの紹介サイト見たけれどさー、まるでゲームみたいで実感が沸かないんだよね。勿論ナオさん達が命張って頑張ってるのは物凄く深く理解しているけれど、一歩離れれば現実味がなくなっちゃう。ナオさん達が悪いんじゃなくて、俺達がそういう世界に生きていないからなんだろうな、と思う」
語る一条をじっと眺めていたナオが笑った。
「ふふっ、一条君に真剣な話は似合わないわね」
「あれ? それはそれで酷くない? 確かに柄ではないけどさー」
文句を言いつつも、自分自身で納得している一条。
「到着しましたよ。忘れ物ないように降りて下さいね」
十時丁度に目的地である金辺シーワールドに到着。
「もっと混んでるかと思ってたけど、これなら迷子にはならなさそうだね」
「しかし工藤さんも言っていましたし、油断は禁物ですよ」
大人二人は慎重姿勢。しかし後方の十人の子供達ははしゃぎたくて仕方のない様子。そんな子供達を見て孝子先生がポツリ一言。
「……うん、何かやらかしそうだ」
車から降りた所で早速はしゃいで走り出そうとする中山とサイキを孝子先生が怒鳴りつけた。
「お前ら! 集団行動出来ないならこのまま引き返してもいいんだぞ!」
「ご、ごめんなさい……」
しゅんとする二人。それを見ていた子供達は、各々に自分は気を付けようと思うのだった。
料金を支払い、いざ入場。
「そしたら中でねー」
着替えるために一旦別れ、更衣室へ。
「リタが一番気を付けなさいよ。目立つ耳なんだからね」
「勿論分かっているですよ。それにナオだって髪が濡れたら耳が見えるかもですよ」
「……すっかり自分の事を忘れていたわ。でも大丈夫じゃない? 皆あれだけ気が付かなかったんだから」
「そう言ってすぐ気付かれちゃったりしてね」
三人は仲良く固まって着替え。一方のこちら世界の女子は、泉の胸に視線が集中。
「ちっちゃいのにおっきいよねー」
「私と交換して欲しいなあ、なんて」
「あたしの場合は小さいほうが動きやすいけれどね」
そして孝子先生までも参戦。
「私Cだけど、泉ちゃんはDあるよね?」
「えっと、この前測ったら……Eありました」
その告白に絶句する一同。一方あちら世界の四人は分かっていない。
「泉ちゃんは背に行く分が胸に行ったのか……」
孝子先生の一言に皆納得。そして臆す事のないリタが、後方から泉の胸を鷲掴み。
「ひゃっ!? ちょっと、リタちゃん!? や、やめて……」
「羨ましいだなんて思ってないですよ。思ってないですよー」
そう言いつつも、思わず赤面する泉の豊満でマシュマロのような柔らかい胸を、更に何度も揉みしだくリタなのであった……。