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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
下宿戦闘編
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下宿戦闘編 18

 警察署での、渡辺とお偉いさん二人を交えた会議は続いている。


 次は彼女達から大人への質問だが、その殆どを機密事項だと言ってはぐらかすお偉いさん二人。

 「……ふーん」

 ナオ、イラついてるのが顔に出ているぞ。

 「我々も協力はしたいが、現状君達とは平行線以上になるのは難しいんだ。国の命運がかかっているんだ、申し訳ないが理解してもらいたい」

 と、理解を求めようとするお偉いさん。

 「私達には二つの世界の命運がかかっていますけれど?」

 返すナオだが、目が怖いぞ。

 「今は皆さんの協力出来る範囲でわたし達に協力していただければいいので」

 サイキの一言でナオも引く。なんだかんだでサイキはリーダーやってるなあ。


 「そういえば階級や実力では三人はどういう順番なんだ?」

 サイキがリーダーという所で、ふと思い付き質問をしてみる。これにはナオが答えた。

 「サイキの役職である隊長補佐、これはただの補佐ではなく隊長と相棒であるという事。それだけで私よりも全然上ね。実力も副隊長と同等かそれ以上でないとなれないわ。私の場合は一番槍だからヒラと変わらない。もっとも、度量と実力のあるメンバーが揃う一番槍、そこいらの一兵卒とは訳が違うけれどね。リタは……」

 「リタは研究所の開発副主任です。ナンバーツーという奴です。皆の装備の半分くらいには関わっているです。でも普段武器なんて使った事のない一般人です。お二人に守られる存在です。……でも守られるだけではいけないと思うです」

 リタも相当な覚悟を以って臨んでいるのだというのが分かる。

 「……新型スーツ開発実験時、兵士さん何千万人という中で、お二人にしか適性が無かったのを見て、試しに自分もテストしてみたです。まさかの適性ありです。最初は本当に冗談かと、テスト機材のエラーかと思ったです。でも三度確認して三度とも同じ結果が出たです。そして急遽二人のスーツを可能な範囲削り、三着目を製造したです。これで顔も名前も知らない幾多の同胞に恩返しが出来る、そう思ってこちらに来たです」

 リタの言葉を聞き抱きつくサイキ。リタは「暑苦しいです」と言いつつも笑顔だ。初めてリタの笑顔を拝む事が出来た。やはり緊張していただけのようだ。


 「最後にですが、昨晩の第四の襲撃における被害をご報告します」

 青柳からの報告が入る。不安な顔のサイキとナオ。

 「まずは死者ですが、ゼロ人です。しかし警官二名がいまだ危険な状態にあり、ICUの中です。重傷者は八名。いずれも警官です。軽傷者は十五名。殆どが病院の窓側にいた入院患者であり、飛んできたガラスによる切り傷が原因となります」

 重体二名、その事実に肩を落とす二人。それを見つめるリタ。耳が下がるので心の変化が分かりやすい。

 「お見舞いに行けますか?」

 サイキの言葉に悩んでいる青柳。

 「……上からの許可が必要です。それに、お三方の髪の色や服装をどうにかしないと、私からも許可は出せません」

 うーむ、下着の事も解決していないし、どうしようかな。


 「それじゃあ俺からも報告を」

 渡辺が手を上げ、立ち上がった。

 「えー、まず俺はマスメディアに対する情報の隠蔽を行ってきた。最初の商店街での襲撃は、規模もそれほどではなかったから俺単独の力でどうにかなったが、二度目の襲撃では俺よりも上の方に力を貸して貰った。三回目の工場地帯ではそもそも目撃者が三名だけだから最低限の介入だけ。駅前の爆発はそのままにしておいた。問題の今回の病院前での襲撃事件だが……漏洩した。テレビ新聞各社は押さえられたんだが、一部週刊誌が止められていない。勿論現在も交渉中なんだが、何せ相手は週刊誌。申し訳ないが、世間に公表される事を覚悟しておいて欲しい」

 いまいち状況が飲み込めない三人に噛み砕いて説明をする私。

 「世間に晒されるっていう事は皆が注目する事になる。もちろん悪い意味でもな。特に週刊誌はセンセーショナルな記事を書きたがる。ある事ない事適当に書いて、それを鵜呑みにした人達から酷い事を言われるかもしれない。一番まずいのは悪者だと書かれる事だ。世間から悪者だと認識されてしまったら情報収集する所じゃなくなる。侵略者の手先だと思われてしまう」

 事態を理解する三人。特にリタは申し訳なさそうにしている。こちらに来た時の爆発で負傷者を出した事に責任を感じているのだろうか。しかしワープ先を厳密に決める事が出来ないのであれば、彼女の責任ではない。

 「……それについてですが、我々からも手を打ちましょう。非常事態だ、これくらいの協力はさせてもらいます。マスコミ各社には報道協定を結び、彼女達の事は報道させないようにしましょう。週刊誌についても手を回しましょう」

 お偉いさん二人が笑顔で約束してくれた。彼らの地位がどういうものかは分からないが、ここは信用し、お任せしよう。

 お願いしますと頭を下げる三人と私と渡辺。お偉いさん二人は早速電話をかけている。渡辺は私達にも頭を下げるが、今までの功績を理解している三人からはありがとうと声をかけられている。


 諸々の話が終わり、今日の所は解散する事になる。するとサイキがおもむろに立ち上がり青柳に近づく。何をするのか……と思ったら、目にも止まらぬ速さで青柳の腰の銃を奪い、そのまま素早くお偉いさんの頭に銃口を突きつけた。

 「おま、なにやってんだ!?」

 「動かないで下さい」

 あまりにも冷淡なサイキの声色に全員固まる。

 「これ、盗聴器ですよね? 録音は禁止と言いましたよね。回収します」

 胸ポケットに入っている万年筆を取り上げるサイキ。銃を下ろし青柳に返す。ごめんなさいと一言。

 「……どうなんですか?」

 渡辺が問う。頷き白状した。

 「だからと言ってもやり過ぎだ!」

 怒る私。しかしそれを制したのは銃口を突きつけられたお偉いさんだった。禁止事項を破った事を謝罪し、初めて銃口を向けられたよと笑ってみせる。このおっさんすげーぞ。 「本来ならば逮捕もやむなしの非常に危険な行為です。金輪際このような事はやめて頂きたい」

 改めて青柳から厳重注意を受けるサイキ。

 「……それから、銃を撃つ時は安全装置を外さないと弾は出ません」


 帰りはまた青柳の車で送ってもらう事に。昼の三時、商店街で降ろしてもらえないかと頼むと「お腹が空きました」と一言。目的地は決定だな。しかしリタを働かせるにはどうしても問題が出てきてしまう。あの耳だ。

 「カチューシャを付けてカムフラージュしてみるのはどうでしょう。猫耳を付けていると思わせれば案外いけるかもしれません」

 青柳からの提案に乗ってみる。この際やれる事はやってみよう。道中適当な店に寄り、シンプルなカチューシャを一つ購入。付けてみると一気に違和感が消えた。人の耳の位置に何もない違和感も、カチューシャが髪を押さえるので隠れている感が倍増。本人はあまりお気に召さない様子だが、これは大正解だろう。お釣りを協力費として青柳に渡そうとするが、職務中にお金を受け取るのはまずいので気持ちだけ受け取るという。今までおまじない硬貨にあまりいい顔をしなかったのはそういう事か。


 カフェ「ニューカマー」に到着し、リタを紹介。先に来た二人は早速ウェイトレス姿に着替えて仕事を始める。

 「あらっ、まっ、かわいいじゃない。それ猫耳カチューシャ? そういうのもいいわね。メイドカフェって流行ってるじゃない?」

 「あ、なるほど。そういう方面になれば二人の髪の色も気にならないかもなあ」

 等と冗談半分に盛り上がる私とはしこちゃん。そしてその後ろで至極冷静に注文をする青柳。真昼間のカフェに黒スーツの青柳は、ともすれば派手な髪色の彼女達よりも目立っている。

 青柳とはここで解散とし、私はリタの初めてのお客さんとなる。

 「おまたせしました……です」

 笑顔が固いぞ。頑張れ!



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