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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
機動戦闘編
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機動戦闘編 15

 サイキとリタの一戦は、引き分けという形で終わりを迎える……かに思えたのだが、最後の一人、ナオはそれを良しとしない様子である。

 「……エリス、ここからはずっと黙っていよう」

 「うん。ぼくもそう思っていました。ナオさん、二人が自分の武器を使った事に怒っていましたから」

 ひそひそ声にて私とエリスとで協定が結ばれた。


 さて、舌打ちをして出て行ったナオが、リタの視界に入った。

 「……ナオが迎えにきたですよ。ふふっ、ちょっと怒っている……所じゃないですよ!」

 リタはサイキを突き飛ばし、自身も後退。そして先ほどまで二人の居た位置には光の弾丸が走った。驚き唖然とした表情の二人。ナオはリタのショットガンを手に持っている。

 「戦場に引き分けなんて存在しない。あんた達が勝敗を決めないと言うのならば、私が二人を倒してあげるわ! それに約束したわよね? 自分の武器を使った時点で、長月荘にいる二人がどうなるか」

 「え、いや、あれは冗談でしょ? さすがに工藤さんとエリスを殺すだなんて物騒な事は……ね? 工藤さん? エリス?」

 さあ来たぞ。私とエリスは物音一つ立てないという、絶妙な演技でやり過ごす。

 「……ねえ、二人とも、悪い冗談はやめてよ。ははは、分かってるんだからね? ……ねえ、もしもし? 工藤さん? エリス? ちょっと大丈夫? 聞いてる? ねえ!?」

 ナオの目線から、二人がどんどん焦ってきているのが分かる。サイキとリタの二人には悪いが、これは面白い。こちらの意図をナオも汲み取ったようで、話を合わせてきた。


 「残念だけど二人とも、もう動かないわよ。後はこの銃でサイキを殺せば終わり。事前にあんたの機動力を奪っておいて正解だったわ。さあ、覚悟しなさい」

 サイキもリタも青ざめており、何度も必死にこちらへと呼びかけてきている。勿論こちらとしては死んだ演技中なので全て無視である。恐らくは後で我々は二人から怒られるであろうな。

 横のエリスを見ると、申し訳なさそうな顔をしている。笑い声の漏れそうな私とは対照的だ。

 どうやらサイキは腹をくくったようで、再度手に刀を取り出した。それを見てリタも64式を手にした。一方ナオは槍は出さず、リタのショットガンのみである。リタにとっては両手で持つショットガンであるが、ナオは片手で持っており、よほど槍よりも振り回しやすそうである。

 「……リタ、どうする?」

 「本当にナオが二人を殺したとは考えづらいですが……可能性は捨てきれないです」

 「確かめるには、ナオを倒すしかないか」

 サイキがリタの恐怖を理解した事や、リタがその恐怖を克服しつつある事もあるのだろうが、二人は共通の難敵を前にして、共闘を決めたようだ。

 「話は終わったかしら? 先に言っておくけれど、二人がかりでも私は倒せないわよ」

 大きく出るナオだが、こういう時は本当に勝算があるはず。不敵な笑みを浮かべるナオの雰囲気に、どうやら二人は飲まれ始めている様子であり、特にサイキは生唾を飲み込み、緊張の色が見えている。


 掛け声もなしにナオが動いた。並ぶ二人の間に割って入り、まずはリタに一発。さすがにこれは避けられるが、それすらも読んでいたナオはすぐさま二発目を撃ち、命中させてしまった。しかし威力は抑えているようで、リタは跳ね飛ばされ痛そうではあるが、怪我はない様子。つまりこの一発目はあくまでリタへのけん制という事か。

 「ナオ! 本当に当てる事ないでしょ! って撃ってきた!」

 間髪いれずサイキへも発砲。これには堪らずサイキも逃げる。しかし万全ではない状態なので、すぐさまナオに追いつかれた。更には散弾の連射により動きを封じられてしまう。仕方がなくか、反転ナオへと立ち向かうサイキ。

 素早く振り下ろされた刀を、しっかりと防壁を張り受け止めたナオ。

 「……相変わらずあんたの一撃は重いわね」

 そのナオの言葉に、一層力を込めるサイキ。だがこれ自体がナオの罠。サイキが思い切り力を入れる瞬間を狙い、防壁を解き一気に後進。勿論サイキは姿勢を崩してしまう。そして大きな隙が出来、ナオに背後を取られた。ナオはそのまま回し蹴りでサイキを一撃。

 「うあっ!」

 大きく飛ばされたサイキ。体勢を立て直すが、かなり痛かったようで苦痛に顔が歪んでいる。

 「リタはこれをまだあんたに返してなかったからね、代わりに返しておいたわよ」

 「……リタとナオとじゃ力の入れ具合が違うから! 今ナオ本気で蹴ったよね! 凄く痛んだけど!」

 サイキさんお怒りの様子。一方ナオはやはりニヤリと悪どい笑顔。しかしここでナオはショットガンを仕舞い、代わりに最初の槍を取り出した。

 「さあサイキ、本番はこれからよ。あんたの実力見せてみなさい」


 相変わらず煽りには弱いサイキは、あっさりと誘いに乗った。一旦刀を仕舞い、手を上げ状況を止めてリタの元へ。ナオも手は出さず見守っている。

 「これ返すから剣出して」

 ナオが初期からの槍を持った事に呼応して、サイキも初期装備の剣で対抗する気のようだ。リタに拳銃を返し剣を受け取ると、律儀に先ほどの位置へと戻る。リタは銃を構えはしているが、どうやら撃つ気はない様子。それともまた撃てなくなっているのだろうか? ここからでの判別は無理だな。

 「もう一度言うわよ。あんた達では二人がかりでも私には勝てないわ」

 「わたしだって負ける気はないもん。仮にも戦闘狂なんて言われた実力、見せてやるんだから!」

 それを自分で言うのか。さてサイキとナオの、初期装備での勝負が始まった。

 ……だが、私のような素人目に見ても、どちらが優勢かはっきり分かるほどの展開である。サイキの攻撃をナオは軽くいなし、一方サイキはナオの攻撃にたじたじという状況。

 「ちょっ……ナオ強くない!?」

 「どんだけあんたの馬鹿みたいな戦闘を見てきたと思ってるの! 私に同じ攻撃は二度も通用しないよ!」

 サイキ対策はバッチリという訳である。サイキは剣道場で鍛えられてはいても、基本的な動作は変わっていないので、全てナオに見破られているのだな。

 「……これが学習する敵って奴か。最悪の敵!」

 「あはは。ねえサイキ、アドバイスしてあげる。あんたが私に勝つには、あんた自身があんたを学習するしかないよ」

 「これはどうも!」

 と言いつつもサイキはやはり正面突破の様子。この子らしいと言えばそうなのだが、ナオの言った意味を理解していないようにも見える。いっそエリスに教官役を任せてみるといいかも。


 その後も攻防は続いたが、やはりナオ優勢は変わらず、サイキは終始厳しそうである。それから幾許か、決着の時が来た。ナオが上を取り槍を投擲。今までは手持ちだったので油断していたサイキは焦り、ナオから目線を外してしまった。この瞬間をナオが見逃すはずもなく、目線を戻したサイキの視界には既にナオの姿はいない。

 「あれ? どこいっ……やられた」

 ショットガンの銃口を背中にぴたり突き付けられ、身動き一つ出来ないサイキ。

 「サイキ、あんたの戦術は装備ありきで構成されている。あんたは装備に頼り過ぎなのよ。だからあんたの攻撃には癖がある。私はあんたとは違って、自分の実力だけで第三部隊まで来たのよ。そんな私があんたの癖を見抜けないはすがないでしょ」

 「……はあ、わたしの敗因はそこかあ。それじゃあナオには勝てないなあ」

 溜め息を吐き、諦めたサイキ。そんなサイキにナオが更に一言耳打ちし発砲。サイキは気を失ったように落下し、林の中へと消えた。この時何を耳打ちしたのかは、観戦席の私とエリスには聞き取る事が出来なかった。しかしナオやり過ぎじゃないか? サイキが気を失った以上、この先更なる問題が発生しかねないぞ。


 「あっはっはっ、はーいはいはいサイキ撃破完了! さてリタ、あんたはどうするのかしら? このまま尻尾巻いて逃げても構わないわよ?」

 悪役を買って出たナオの意地悪そうな口調に、リタはその真意をはかりかね、困惑している様子。するとナオはショットガンをリタへと放り投げた。

 「気が変わったわ。あんたもサイキと同じになりなさい」

 「……やるしかない、ですね」

 リタも覚悟を決めたようで、ナオから投げられたショットガンを持ち、銃口を向けた。そのリタを、ナオは更に煽る。

 「あんたはサイキに撃ったように私にも撃てるのかしら? それとも逃げ回る事しか出来ないのかしら? どうせ引き金の引けないあんたがそれを持っていても、単なる宝の持ち腐れにしかならないわね」

 サイキはリタに謝り許しを乞うていたが、ナオは全く別の視点からリタを鼓舞しており、リタはこれをどう受け取るべきか迷っているようである。しかし先に動いたのはリタだ。ナオへ向け一発発砲したのだ。だがリタは撃つ直前に銃口を逸らしたので、明後日の方向へと弾は飛んでいった。

 「……そういう事ね。リタ、ただ引き金が引けるだけじゃ私は倒せないわよ。怖がらずに私を狙いなさい!」

 「怖がってなんかない! ……はずです。リタはもう引き金を引けるです!」

 つまりまだ怖がっているという事だな。まだまだ嫌味な笑顔を見せる余裕のあるナオは素早く槍をリタへと向ける。この威圧に一瞬リタが怯んだ。こちらの意味での恐怖心もまだ克服しきれていないようである。


 ほぼ動きなく、睨み合いの状態だった二人だが、遂にナオが突撃を開始。その不敵な笑みのままの突撃に、リタは戦意喪失とも取れるほど早い段階で防壁を展開した。勿論そんな早くに防壁を出してもあさっりとナオにかわされるだけである。

 その後もナオは終始攻撃の手を緩めない。サイキは攻撃の間隔を空けて、ギリギリの手加減をしていたのだが、ナオは一切手加減なし。リタの表情がどんどん怖がり怯えていくのが分かる。更にリタは、先ほどまでのサイキとの戦闘で既にかなり体力を消耗している様子であり、もう息が上がっている。

 「リタ、狩られる者の気分はどうかしら? 逃げるだけじゃ食い殺しちゃうわよ?」

 まだまだ余裕綽々という感じのナオ。するとリタが普段とは違う声を出した。先ほどは子犬が鼻を鳴らすような泣きそうな声であったが、今度は威嚇し唸るようだ。表情も精悍なものへと変わっている。

 「ナメてんじゃないよ! あたしだってやれば出来るんだ! 狩り返してやるよ!」

 「ふふっ、ようやく段階を超えたわね」

 ナオが小声で呟いた。恐らくはリタの恐怖の段階の事だろう。すると防戦一方だったリタが、唐突に、しかし正確にナオを狙撃し始めた。そのリタの変貌振りにナオは歓喜の声とも取れる雄叫びを上げた。

 「あはははは! 来た来たああっ! そうこなくちゃね!」

 傍から見れば、よほどサイキよりも狂気じみているぞ。しかしこれはリタが恐怖を乗り越えた事に対する嬉しさなのだろうな。事実、先ほどまではあれだけ怯えていたリタが、ナオを追いかける側に回っている。さすがに体力が残り少ないようで安定性はないが、それでも食らい付き、しっかりと狙いを定めている。これはリタが暴走状態ではなく、冷静な状態でいる事の証拠でもあろう。

 ナオが直線的に飛び速度を落とした。追いつくリタだが、恐らくこの先どうなるのかは予想が付いているだろうな。

 「よしっ!」

 とリタが声を上げた。やはり我々も含めた皆の予想通り、ナオは急反転したのだ。リタは冷静にナオに照準を合わせている。しかし今までとは違う事が一つある。ナオはそのままリタへと槍を向けたのだ。だがそれでもリタは一切怯む事なく引き金を引いた。


 「……やるじゃない。合格よ。でもねリタ……威力、抑えて……よ……」

 至近距離でショットガンの散弾を食らったナオは気を失い墜落を開始。

 「今のあたしにそんなの期待しちゃ駄目だから!」

 どうやらリタは一から十まで全てにおいて本気でナオを倒すつもりであった様子。急ぎ落下中のナオを追うが、そこに赤い光が飛んできてナオを掴み、抱きかかえた。

 「ナオ大丈夫!?」

 「……」

 どうやら本当に気を失ってしまったようだ。これには全員焦ってしまう。

 「工藤さん聞いてる? いるんでしょ? どうしよう!?」

 演技を続けようか一瞬迷ってしまった私だが、すぐさまエリスが反応。

 「みんな帰ってきて。ナオさんが起きたら話の続きだよ」

 「エリス……良かった、やっぱり演技だったんだ。んもうっ! 今の今まで、本気で殺されたかと思ってたんだから!」

 やはり悪戯っ子は怒られる運命にあるのだ。しかし今は優先すべき事がある。

 「それは謝るが、まずはナオだ。体に穴開いてないだろうな?」

 「ちょっと待って下さいです……体に異常はなしですが、恐らく瞬間的な激痛に脳がシャットダウンしてしまったと思うです」

 リタの口調が戻った。戦闘終了の合図とも言うべきか。

 「えっと……」

 「話は全て後でするから、今はそれ以上言わない事」

 「……了解です」

 仮にも味方を、しかも同一人物を二度も撃ってしまったのだから負い目を感じて当然ではある。しかし元々これらを仕掛けたのはナオであり、言わば自業自得である。リタは悪くない。



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