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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
機動戦闘編
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機動戦闘編 8

 「リタ、そっちはどんな塩梅かしら?」

 登校前に学園周辺に出てきた侵略者四体を迎撃。サイキが青鬼と緑を、ナオが灰色を、リタが赤鬼を担当中。サイキとナオは一体目を撃破し、サイキは緑へ、ナオはリタの応援に向かおうかという所。

 「……今掃除中です。いくら避難していても気を使うですよ」

 そこは宿命のようなものなので仕方がないな。


 「こっちは緑発見したよ! 一気に潰す!」

 毎回思うが、戦闘中のサイキは女の子らしからぬ言動がちらほら見える。しかしそれこそが彼女の歩んできた道のりの険しさを物語っている。

 中型緑の出現場所は歩道付き片側一車線の路上であり、サイキであれば、攻撃範囲内に入れば苦せず……。

 「もらったあっ!」

 文字通り一撃である。そして周囲の人から声を掛けられている。サイキ自身、そんな周囲の相手も手馴れたもので、軽く挨拶を交わすと上空へと位置取り、再度手を振りリタの元へと移動を開始。


 肝心のリタだが、こちらもビットの最後の一体を仕留めた所である。そして丁度ナオが到着。

 「あら、終わったみたいね。リタお疲れ様」

 と、上空からリタに近づくナオだが、素早く振り向いたリタは銃口をナオへと向け、一発の弾丸を発射。焦り回避するナオ。

 「危なっ! ちょっとリタ!」

 「わわわ、ご、ごめんなさいです! 本当ごめんなさいです! ごめんなさいです!」

 また大焦りで何度も謝るリタ。さあナオに怒られるぞ、と思ったのだが、そうではなかった。まるで慰めるかのように優しく叱るナオ。

 「……もう、次からはちゃんと相手を確認してから銃口を向けなさい。こんな事今更言わせないでよね。分かった?」

 「……ごめん……なさい……」

 泣きそうになっているリタの背中に手をやり、軽く三度叩き、そして手を握り学園へと登校していく。サイキも途中からは方向を変え、直接学園へと向かっていた。


 戦闘を終え三人との通信接続は終了。リタの誤射について、気にならざるを得ない事柄ではあるが、今はそっとしておこう。

 「昨日の戦闘といい、妙にギクシャクしている気がするのですが、また何かあったんですか?」

 当然青柳も気になってしまうよなあ。そして”また”であるという事が、何とも苦々しい限りなのである。

 「何かあったのは事実なんだが、その何かが分からないという状況だ。リタが少しおかしくなっていて……ともかく今は何とも」

 「そうですか。こちらはお昼頃にはそちらに向かいます。昨日と今日の分の戦果報告、それとお昼ご飯を」

 「ははは、随分直接的になったな。分かったよ」


 さてリタの諸々の言動について、長月荘第二の参謀であるエリスの意見を聞いてみよう。若干七歳くらいにして、よほど姉よりもしっかりしているこの子ならば、何かしら気が付いた事があるかもしれないからだ。

 「え、ぼく? うーん……もしもぼくが思った事が合っていた場合、リタが何も言わないのは当たり前だと思います。でも、間違っていた場合は、みんなの考えも間違わせる事になるから、どっちにしても今は言わないのがいいかなと思います」

 「決めかねているという事か。念の為参考程度に聞かせてもらえないかい?」

 私の目をしっかりと見てくるエリス。この子の、問題に対しての真摯な姿勢は賞賛に値する。

 「多分、ですけど。リタはおねえちゃんたちを侵略者と勘違いしちゃったんじゃないかなって。昨日もさっきも、おねえちゃん達ってリタの後ろから近付いていたから、それで驚いて勘違いして、思わず……」

 「それで罪悪感を引き摺って、余計に悪化か。だとすると、あの演習からおかしくなったという仮説とも少し符合する。エリスは追いかけていた相手がいきなり振り向いてきたら、どう思う?」

 「びっくりする」

 当然即答である。なるほど、もしも緊張感から二人を侵略者と思い込んでしまったのであれば、演習中に突然振り返ったサイキや、今回背後から近付いたナオに驚き、銃口を向ける事も充分に考えられる。

 唯一妙な点と言えば今回、ナオに向けて発砲した事。振り向きざまに即撃ったのならば、驚いたからという事で分かるのだが、一瞬間が開いてから撃っている。つまりナオだと視認してから撃っている可能性があるのだ。もしも本当にナオだと分かっていて撃ったのならば、それは大問題である。


 うーん、と考えていると電話が鳴った。ナオからだ。

 「学園で機能は使うなよ。それで、リタの事だろ?」

 「ええ、やっぱり少しおかしいわ。リタって普段ならば、嫌な事があったとしても人に当たる事はないし、それを気付かせない子なのよ。でも今のリタは……何て言えばいいのかな、雰囲気が違うのよ。人を拒んで寄せ付けない雰囲気。あのあい子ですらも近寄らないんだから。皆心配しているんだけれど、その気遣いが余計悪い方向に働いていて……どうしよう?」

 「ナオが困るとは、よっぽどだな。今はどうしている?」

 「えーと……私今、聞かれないようにトイレにいるのよ。だから……あ、ごめんなさい、授業が始まるから戻ります。昼休みにもう一回連絡します」

 これは帰ってきたら一対一で話を聞かないといけないな。


 昼前に青柳が来て、昨日と今朝の戦果報告。

 「まずは昨日のですが、軽傷者二名のみ、物的被害もほぼありませんでした。今朝の分に関しては、これも軽傷者二名。物的被害は出現場所の関係で多めですが、四体相手には充分でしょう」

 「そうか。今朝の戦闘を見ていた限りでは、皆もう分かって動いていたな。ナオを見つけた学生は周囲を警戒して下手に動く事はしなかったし、リタの担当した地点では近くの民家やビルにお邪魔して避難していたみたいだ」

 「慣れとは恐ろしいものですね」

 恐ろしい、か。……まさかあいつ、自分が慣れてしまっている事に怖がっているんじゃないだろうな。ともかく今は可能性を並べるしか出来ない。

 「ちなみにですが、昨日の黄色い閃光、色からしてナオさんでしょうけれど、あれに対する通報は六件で、全て”どちらのものか”という問い合わせでした。出来る事ならば彼女達のホームページを使って、その事も開示すべきでしょうね」

 そうだな。という事でSNSに行き、竹口にお願いしておく。数分で返事が来て、彼女達を紹介したページの備考欄には、追記がしてあった。


 青柳を含めた三人での昼食。エリスはすっかり青柳とも打ち解けており、色々と内部機密に接触しかねないような事まで聞き出していた。

 「そうだ青柳、この後は予定あるのか?」

 「何ですか藪から棒に。この後は署に戻って報告書の作成ですよ。このまま襲撃がなければ、ですけれど」

 ふむ、ならば我々の青柳お誕生会計画には支障はなさそうだ。はぐらかしついでに、私の運転教習の事もお願いしておこう。

 「実は車が来週頭にも出来るっていう話でな、それで俺は十五年もハンドルを握っていないから、やはりペーパー教習は受けておこうかと。それで村田に聞いたら、警察関係者を横に乗せればいいじゃないかと言われてな」

 「それで私に協力をして欲しいと。うーん……平日は無理ですが、日曜日ならばいいですよ。私の車をそのまま使いましょう。でも傷付けたりしたら……」

 私を睨む青柳。この男が睨んでくると、例え冗談であろうとも、本当に怖いから困る。

 「ははは、分かっていますって。そうならないようにするし、もしも何かあったら、ちゃんと修理代は払うよ」

 そこまで甲斐性のない大人ではないのだ。

 「そういえばまた黒いセダンなんだな」

 「所謂4ドアが好きなんです。色は選んでいる時間がなかったというのが本音でして、本当ならばシルバーにしたかったんですけれどね。工藤さんのあの車も早く運転してみたたい所です」

 途端に子供のような雰囲気を纏う青柳。表情はいつも通りである。

 「なるほどなあ。それならば、教習費用を俺の車を数日貸し出す事で支払うのはどうだろう?」

 「ええ、問題ありません。ただ、もしも襲撃があって急行する必要がある場合、そのまま車をお借りする事になりますが、よろしいでしょうか?」

 「それくらい構わないよ。ただし壊すなよ」

 という事でこちらの算段もついた。


 昼食を終え青柳は帰った。そして今度はサイキから連絡が入る。

 「リタの事だな? 今回は特別だ、ナオにも聞こえるようにしておいてくれ」

 「うん……うん、いいよ。それでリタの事だけど、昼休みに入って、ようやくいつもの雰囲気に戻って安心していた所なんだ。リタが言うには反省していたから、それが刺々しい雰囲気になっちゃったんだって。さっきは泉さんに笑顔も見せていたし、もう大丈夫かな」

 私もほっと一安心。しかし問題の根本的解決にはまだ遠い。

 「それで、青柳さんは報告に来ましたか?」

 「さっきまで来ていたぞ。報告としては、昨日も今朝も怪我人は軽いのが二人ずつだそうだ」

 「良かったあ」

 何とも安心した声で胸を撫で下ろしているサイキ。しかし話の着地点はそこではないと思うのだが。


 「……えっとそれで、青柳さんの誕生日ならば孝子先生も呼んじゃおうかなって思って。どうかな?」

 「あっ、そういえばそれがあったか」

 すっかり忘れていたのだが、二人は付き合っているのだった。

 「うーん、もしも青柳と孝子先生の二人だけで誕生日を祝う事になっていたら……ここはナオだな。返事はいいから、孝子先生に今晩の予定だけを聞いてみてくれ。何もないって言ったら誘うように。予定があると言った場合は、我々は引き下がろう」

 「……文字で了解だって。そうしたら、今日は雰囲気を壊さないようにリタにはもう何も触らないのがいいよね」

 「そう……だな。本当ならば問題を先延ばしにはしたくないから早急に聞き出したい所なんだが、かと言って祝い事をぶち壊しにはしたくない。それとエリスの考察では……細かい事は省くが、お前達、特にサイキは、リタが自分に気が付いてから近付くように」

 「エリスが言ったの? ……分かった。そうします」

 連絡を終わる。エリスの考察をサイキに詳しく話さなかったのは、サイキが余計な気を回し、それがリタに気付かれる可能性を考えての事だ。サイキは自分に対して吐く嘘は上手いのに、人に対しての嘘は下手だから、やらかしてしまう可能性は十二分にあるのだ。


 夕方になり、雨は一旦止んだ。今日はこれ以上の襲撃はなさそうだ。三人も帰宅。

 「孝子先生も来るわ。現地集合で、私達が家を出る前に連絡を下さいって。もう何度か家には遊びに行っているみたいよ」

 「そうしたら次は剣道場のあるサイキだが、どうするんだ?」

 「わたしは先に少しだけ食べて稽古に行きます。それで終わったら直接合流する予定。場所は三人がいれば分かるから大丈夫」

 リタも今は問題なさそうであり、子供達の準備は万端のようだな。私も事前に三宅と連絡を取っており、青柳が帰り次第連絡を寄越すようにと言ってある。


 そして夜七時前に三宅からの連絡が入った。青柳は無事定時で仕事を終えた。やはり出来る男である。

 「よし、それじゃあ我々も出発しますか」



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