高速戦闘編 20
三人が帰宅。エリスはいの一番にサイキに抱きつく。すっかり見慣れた光景だ。
「おかえり。リタのブースターは問題なさそうだな」
笑顔で頷くリタ。
「身体的負荷もないに等しいですし、サイキので散々弄り慣れていたので安定性もバッチリです。問題があるとすれば動きの速さに慣れていない事くらいです」
「そうか。ならばナオの分も揃えられたら、サイキを教官にして、動作を教授してもらうのもいいかもな」
「うーん……戦闘のない晴れた日ならばもしもがあっても大丈夫だろうから、その時は動きを教えるね」
これでもう一段強くなるという訳だな。
今度は全員揃って高木と会話。内容は主に昔の長月荘と私について。高木はあの事件の少し前に長月荘を出た人間なので、私に対する印象はとても良好だった。一方孝子先生などの事件後の住人は、総じて私に怖い印象を持っていた様子。それでもしっかりSNSで相手をしてくれるのだから、これほどの感謝はない。
その後青柳が登場。今回はいつもよりも来るのが早かったな。高木とは先ほど会話しており、むち打ちサポーターの事も承知済み。再度軽く挨拶を交わし、戦果報告へ。
「今回はですね、見事に人的被害ゼロです。特にリタさんが大型侵略者をあっさりと倒した事が大きいようです。聞いていた限りでは新しい装備を仕込んだようで。一応説明お願いします」
「出力を最小限に抑えた小型ブースターです」
「なるほどそういう事ですか。了解しました」
リタの一言で理解した青柳。
「工藤さんも青柳さんも、すっかり子供達の会話に溶け込んでいますね。僕は専門用語を言われても分かりませんから」
「ああそういえば、そのためにも三人の紹介ページを作っていたんだった。竹口に連絡して公開してもらわないと」
それ自体はサイキの入院中に出来たと連絡をもらっていたのだが、状況が状況なので公開を控えてもらっていたのだ。早速SNSへ行き、竹口に公開許可を出す。数分でページへのアドレスが出てきたので拝見。
「あれ? わたし達こんな写真撮ったっけ?」
ここに掲載するために撮影していた写真とは別に、彼女達の普段の表情も載っている。どれもいい表情だ。その中に一枚、とても真剣な表情の写真もある。これはあの時の出撃時の写真だろう。しかし他は何処で撮影したのだろうか? SNSに書き込んで竹口から聞き出そう。
「ちゃんとしたカメラの他に、普通のデジカメも持って行っていたんですよ。手に隠れるサイズなので、すみませんが一部隠し撮りさせてもらいました。でも青柳さんには許可をもらっていますよ?」
という事で青柳を見ると……大袈裟に目線を外した。こいつ、やりやがったな。
「ははは、でも本当に良い、力の入っていない普通の子供の表情ですね。一般人代表として言わせてもらうと、こういう写真があると、より子供達を身近に感じられて良いと思いますよ」
ここにいる一般人は高木だけだものな。客観的意見がもらえるのは非常にありがたい。
「私の作戦通りですよ」
そしてこういう時の青柳は物凄く胡散臭い。ともかく、三人も嬉しそうなので良かった。
「ちなみにエリスちゃんの紹介ページも用意だけはしてありますよ」
という事で本人に判断を委ねてみる。
「ぼく? うーん、バスでおねえちゃんに間違われたから、そういう事がないようにとは思います。でも、力のないぼくが一緒になってもいいのかな……」
エリス自身は判断に迷っている様子。三人チームの中に自分が混ざってもいいのだろうか、という心配があるのだな。
「また一般人代表として言わせてもらうと、戦えないのならば、そうと知らせてくれるほうが周りも対処しやすいと思いますよ。さっきの話では狙われているような事を言ってましたよね? ならば余計にそういう情報は出すべきじゃないかなと思いますよ」
高木のおかげでエリスも決めたようだ。
「うん、それじゃあ、えっと、でもぼくがおねえちゃんみたいには戦えない事は、分かるようにしてください」
竹口に強い要望だと書き添えて許可を出す。これまた数分で更新をしたと報告。確認すると、きっちり大きい赤い文字で「戦闘要員ではありません」と注釈が入っており、本人も納得のご様子。そして更に分かりやすいように、姉妹で並んで撮った写真も追加されていた。これならば間違う人もいないだろうな。
ついでなので色々とホームページを巡ってみる。驚いたのは侵略者の種類ごとにしっかりと情報が整理されているという事。
「どうやって調べたんだ? 俺達にしか分からないはずの情報もある」
「リタが教えたですよ。ついでに映像の提供もしてあるです。勿論リタが先に編集しておいたので、何かまずいものが映るという事はないです」
しかし映像紹介のページはない。出し渋っているのかな?
また一般人代表として、高木には侵略者の行動内容を見てもらい、どういう相手なのかを想像出来るか確認してもらう。おおよそ我々の経験と合致したので、これならば我々以外の人達でも対処法が分かるだろう。
そろそろ時間だという事で高木は帰る事になった。ならばと選別におまじない硬貨、五百円玉を五枚贈呈。
「これだけでも来た甲斐がありましたよ。……本当に正直な所を言うと、行きたくなかったんです。誰も僕を知らない土地、僕もその土地を知らない。言わば別の世界に放り込まれるようなものですよ。でも、リタちゃんや皆を見て力をもらいました。僕よりも幼い子達が、僕以上に何も見えない状況に立ち向かい、そして自分を確立するに至っているなんて、物凄い事ですから。工藤さんとも最後になるかもしれないですけど、僕はやり遂げますよ。地球の裏側ですから、見ていてくれだなんて言えません。だから、ただ一つだけ。僕の事を覚えていて下さい。それだけで今の僕には充分です」
「リタは忘れないですよ。こんな不思議な出会い、忘れる訳にはいかないです。工藤さんとは五年後にリタ達の世界に招待すると約束してあるです。春明さんもいつかリタ達の世界に招待するです。約束するですよ」
リタの満面の笑顔に少し涙腺の緩んでいる高木。
「俺だってそうそう簡単にくたばってたまるものか。これは今生の別れじゃない。また会おう。ここで会おう。いつでも歓迎してやるぞ」
「……はい。そうですね。僕の知っている工藤さんはそうそう簡単に墓に入るような人じゃないです。いつになるかは分かりませんが、必ず帰ってきます」
「よし、いい顔をしているぞ。それじゃあ行ってこい」
「はい。高木春明、行ってきます」
こうしてリタの血縁者である高木春明は、遠く異国の地へと旅立った。
――それからしばらくして、現地スタッフと笑顔で肩を組む高木の写真が送られてきた。どうやらあいつも自分を確立する事が出来たようだ。