高速戦闘編 15
「ただいまー」「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい。君達もすっかり慣れたな。相良さんは後で来るんだったな」
「うん。お昼ご飯の事は聞いてないんだけど、用意だけして余ったら工藤さんが食べればいいよ」
という事で昼食のオムライス製作スタート。既にある程度準備はしてあるので、最後の玉子以外は若い二人に任せた。他の友達は今回もエリスを囲んで可愛がっている。本人も満更でもないご様子。
「包むのもやりますよ? 俺これでも器用なんですから」
「いや、普段は俺も包むんだけどな、今回はちょっと別の方法を使うよ。一皿ずつ持っていくから、後は大丈夫だよ」
ここでサイキと最上は皆と合流。私が作るのは例のふわとろオムレツ。さて子供達はどういう感想をくれるだろう? 楽しみだ。
一皿目を用意し持って行くと、一番に中山が手を上げた。
「あっ、これ見た事あるー!」
「ははは。じゃあ割るぞー」
銀色に輝く神の匙が、黄金色の山頂へと降り立つ。少しの力で匙は殻を破り、中からは半熟で黄金の溶岩が流れ出す。とろとろの溶岩は裾野まで広がり、瞬く間にケチャップご飯の原野を覆い尽くす。こうして白く乾いた皿という地表は、神の匙による一手間により、黄金の大地へと姿を変えた。
「待って待って! 写メ撮る!」「開ける所から動画だろ!」「本当にレストランみたいだ。すげー」「普段もこれやってほしい!」
等などお褒めのお言葉をいただきました。少し時間は掛かったが全員分を用意し、そして全員大満足のご様子。特に最年少のエリスは、よほど嬉しかったのか、物凄い早さで完食していた。
「やり方教えて下さい!」「あ、俺も知りたい!」
と、料理の出来る二人にせがまれてしまうものの、後は私の分だけだが……と思ったら来訪者。青柳と一緒に相良も到着した。
「ウチの近くのコンビニ前で丁度見かけて、あたしから声掛けたんだ。青柳さんも長月荘に行くって言うから乗せてもらったの。ありがとうございました」
「いえいえ、ついでですから」
という事で二人合流。青柳の首のサポーターはやはり目立つ。すぐさま中山からの質問が飛んでおり、友達はその武勇伝に沸いていた。
「ねえ美鈴さんと青柳さんはお昼食べたの?」
「あたしは結局食べずに来ちゃった。余りものでいいから、よかったらもらえますか?」
「私はコンビニのおにぎりは買ってありますが、こちらでいただけるのであれば、そちらを優先しますよ」
「という事で工藤さん?」
食事に期待の二人と、技術に期待の二人。四人の目線が交差している。
「……はあ、分かったよ。でも結構食費かさむんだからな」
改めて後から合流した二人と、そして私の分を作る。やはりサイキと最上に挟まれたのだが、物凄くやり辛い。ふと後ろを見ると、サイキの頭越しに青柳まで覗きに来ている。
「やり辛いんだが……」
と言っていると一つ目を失敗。そして青柳が一言。
「弘法も筆の誤り、ですか」
「うるせえお前達のせいだろ! まあいいや、これは俺が食べる。……いいからもう少し離れろよ」
三人を邪険に扱いながらも、どうにか残り二つは成功し、食した二人も楽しんだ様子。全く、とんでもない目に遭った。
「本題ですが、三人と工藤さんは一旦こちらへ」
二日前の報告だな。私の部屋に入り、結果を聞く。三人の友達には直接関係する訳ではないので私達だけでいいという判断だろう。
「まずはリタさん側の深紅から。こちらは軽傷三名のみです。人的よりも物的被害のほうが多いですね。次にナオさん側。到着まで時間が掛かった事もあり、少し被害が多いですね。重体一名、重傷四名、軽傷九名ですが命に別状はありません。物的被害も多いのですが、こればかりは仕方がないでしょう。最後にサイキさん側ですが、軽傷二名のみ、私とエリスさんだけです」
ナオは少し気落ちしている。
「こればかりは慣れないわね。と言っても慣れちゃいけないんでしょうけど」
「しかし、怪我だけならばあまり重く受け止める事はありませんよ。怪我をした本人が言うのだから間違いありません」
「いつもすみません」
青柳は三人に対しては悪い事は言わない。大人の気遣いという奴だな。勿論それを三人も分かっている。
「もう一つ、工藤さんと少しお話が。お三方は戻っていて下さい」
「何? またあの時みたいに何か企んでいるの?」
「俺は知らんぞ? 本当だぞ」
じーっと私の目を見るナオ。本当に私は知らないぞ? 次に青柳の目を見るナオ。
「……どっちにしろ私達には関係なさそうね。大人しく戻ります」
「それで?」
「……エリスさんのDNA鑑定の結果が出ました」
青柳の手には鍵付きの頑丈そうな鞄。
「でも前にも言った通り、サイキとの血縁関係はないから無駄だろ。わざわざ三人を退かせて報告するような事でもないだろ」
すると青柳が改めて誰にも聞かれていない事を確認。
「これを」と鞄から書類を一枚。
「うん? サイキとの比較か。そんなものもう見なくても本人がだな……ん!?」
「こちらも」ともう一枚。
「相良との比較……嘘だろ? サイキ自身が否定した事だぞ?」
「しかし結果は雄弁に語っていますよ。恐らくは何代も前に枝分かれして、そしてまた偶然にも繋がったという事でしょうね」
奇しくも現在、全員が揃っている。これは今知らせておくべきなのだろうか。
「工藤さんに一任します」
部屋を出て並んで座っている姉妹を見ると、どうしても難しい表情になってしまう。そんな私を見て皆少し不安そうだ。一考し、私は長月荘の”縁”に賭けてみる事にした。
「……よし、悪い事ではないから皆にも聞いてもらおう」
静まり返る一同。どう伝えようか迷ってしまうが、ここは直球かな。
「サイキとエリスは本当の姉妹ではない」
ざわつく一同。
「ちょっと工藤さん! 今それを言うのはどうなのよ! 幾らなんでも酷くない?」
激怒するナオ。まあ仕方がないか。
「……ぼく知ってたよ」
「えっ!? エリス本当?」
「うん。おねえちゃん覚えていないだろうし、隠している感じだったから言わなかったけど、あの日家族で出かけたのはね、お母さんとお父さんが、改めて思い出を作ろうって言ったからなんだ」
これには私も含めた皆絶句。まさかそんな日に襲撃されて、こうなってしまうとは。正直少し後悔した。もっと包んだ言い方をすべきだった。しかしもう遅いな。
私は深呼吸を一つ。
「それで、エリスのDNA鑑定の結果が出たんだが……」
「もういいよ、どうせ姉妹じゃないんだ」
すっかり落ち込んでふて腐れているサイキ。そしてナオに睨まれる私。ナオだけではないか。それでは答えを出そう。
「サイキとエリスが血縁関係にある確率は、87%」
一同反応なし。理解が及んでいないな。
「二人は直接的な姉妹ではないが、血縁関係にあるという事だ」
「……どういう事?」
やはり分かっていないな。突然の話だから仕方がないだろうな。
「サイキの先祖である佐伯トミが、もしも彼の世界で二人以上の兄弟を授かっていたとしたら? そして二つに枝分かれした一族が百年間かけて、また一つの家族として合流していたとしたら?」
「それがわたしとエリス? でもそんな事……」
「ちなみにエリスと相良さんとの血縁関係も71%ある」
エリスと相良が見つめ合っている。お互い何を考えているのだろうな。二枚の書類をテーブルに置き、皆にも確認させる。皆無言で、穴が開きそうなほど二枚の書類を凝視。
「……リタの意見を聞きたい」
サイキは書類から目を離さず、ぽつりと一言。皆の目線がリタ一人に集まる。リタの耳が動き、そして無表情に一言。
「おめでとうです」
一瞬で緊張感の解ける一同と、抱き合う姉妹。良き光景だ。
歓喜も一息ついた所で、改めて相良が確認してきた。
「再確認だけど、あたしとサイキとエリスちゃんは親戚っていう事で、サイキとエリスちゃんは、親は違って血は繋がってないけど血縁関係のある歴とした姉妹っていう事でいいんですよね?」
「そういう事だ。良かったな、三人とも」
「うん。エリスは間違いなく私の妹!」「おねえちゃん大好き!」
姉妹の絆が、これでより強くなったようだ。
「じゃあエリスちゃんも私の従姉妹だね」
「うん、美鈴おねえちゃんも大好き!」
「あはは、あたしずーっと妹欲しかったから念願が叶った気分だよ」
相良も本当に嬉しそうだ。ナオに睨まれた時はどうなるかと思ったが、終わり良ければ全て良しだな
その後青柳は引き上げ、友達も暗くなる前に解散となった。エリスは最後に相良にしっかりと抱きつき、相良もエリスの頭を撫でていた。そしてしっかりと血縁関係の確認された二人は、今まで以上にくっ付いて離れなくなっている。
「そうだリタ。エリスの適性って確認出来るか? エリスにもこちらの血が入っているならば可能性はあるだろ」
「ぼくの適性って、何ですか?」
あ、しまった! 舞い上がっていたのは私も同じだったか。
「エリスが戻った時に、体がおかしくならないかの適性ですよ。リタ達の世界に戻って、また目を覚まさなくなったら嫌ですよね? そういう事です。でも今は必要な道具がないので確認出来ないです」
やんわりと本筋を避けたリタの説明に、エリスは納得してくれた様子。そして私はリタに思いっきり睨まれた。ごめんなさい。
「……どちらにしろ来週にでも一旦戻りたいです。サイキの事もあるですし、それにエリスから手に入れた情報を渡す必要もあるですから。学園をお休みはしたくないので、土日を使って帰りたいです。ナオ、いいですか?」
「うーん、天候次第ね。私一人は不安だけど、それ以上にサイキの体に詰まった爆弾のほうが不安よ」
「結局迷惑掛けちゃう事になってごめん。あとエリスは残していくけど、こっちもお願いします。エリス、その時は工藤さんとナオの言う事をよく聞くんだよ」
「うん。おねえちゃんよりはちゃんとするよ」
中々に辛辣である。そしてその言葉に笑ってしまう我々なのであった。