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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
高速戦闘編
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高速戦闘編 13

 サイキの心の問題が解決し、これで我々の不安点は一切なくなった。

 翌日には退院する旨を聞いていたので、頃合を見て迎えに行く。昨晩は相談を受けた通り、エリスを病院に泊まらせた。エリス自身もそれを望んだからだ。一応青柳にもこの事を伝えておいたのだが、昨日の今日なので別の迎えを寄越すという。恐らくは三宅だろうな。

 「お迎えに上がりましたよ」

 正解、三宅だ。

 「また仕事の合間にすまないな。後で送料出すから」

 「いいっすよ。今は何も追いかけていないんでゆったりしてるんすよ。あーそれでですね、前回もらったおまじない、効いたっすよ。轢き逃げで逃亡中の犯人があの後すぐに捕まって事件解決」

 「あはは、それは俺の力じゃないだろ。まあともかく、犯人捕まってよかったな」

 轢き逃げ犯、そう聞いて一番に浮かんだのが私の家族を轢き殺した犯人の顔であった。私も車が直って戻ってきたならば、気を付けなければ。


 病院に到着し病室へ。サイキとエリスは笑顔で会話中。すぐに佐々木医師も来た。

 「まさか一週間掛からずに、生死の境をさまよった患者さんが退院するとは夢にも思いませんでしたよ。でも、もう二度と私の患者になんてならないで下さいね」

 「はい。本当にありがとうございました。先生はわたしの他にも、エリスと工藤さんと青柳さんも救いましたから。この御恩は忘れません」

 うん? 私の命も救ったとはどういう事だろう。

 「ははは。私は道を照らしただけですよ。その道を信じて進んだのはサイキさん自身ですから」

 「……あっ、相談してきた時のか」

 「ええ。でも私はただ、工藤さんに頼まれた通りにサイキさんを引き止めただけなんですけどね」

 「それでも、おかげで一歩踏み出せました。今は歩き出せています。本当に感謝しています」

 サイキにここまで言わせるとは、さすがだなあ。


 その後一旦廊下へと呼ばれる。二人には聞かれたくない事か。

 「多感な年齢の子ですから、あまりこういう話を大っぴらにはされたくないだろうと思いまして。実はサイキさん、一人で寝るのが怖いと言っていました。意外と言うと失礼かもしれませんが、あれだけ強くしっかりしていても、中身は年齢以上に幼いようです。しっかり見ていてあげて下さいね」

 「そうですね。今まではずっと気を張っていたようで、昨日あの後遂に折れて、孤独になるのは嫌だと泣き付かれましたから。あいつが来て四ヶ月ですけど、おかげでようやく心の内を見せてくれましたよ」

 「お互い大変ですね」

 「ははは、全くです」

 大人の愚痴も終わり、二人を連れて引き上げる。

 「分かっているとは思うけどな、数日は過度な運動と戦闘禁止。俺の許可があるまでは二人の戦闘を指咥えて黙って見ている事」

 「……うん。あの二人なら、わたしが休んでいても大丈夫。諸々の事は月曜日からにします」


 三宅の運転で帰宅途中、エリスが三宅に青柳の状態を聞いていた。責任を感じてしまっているようだ。

 「至って元気っすよ。今日迎えに来れなかったのは車がなかったからっすから。あの車、青柳さんの私物なんすよ。あーでも気にする必要はなくて、昨日も乗り換え時期で丁度いいなんて言ってましたから。工藤さんの車はどういう塩梅なんすか?」

 「俺のか。うーん、村田とリタに完全に任せてあるから、正直どうなっているのか知らないんだよなあ」

 「なら寄っていきましょうよ。自分も見ておきたいっすから」


 強引ながら、村田自動車工業へ。話だけのつもりなので長居するつもりはない。

 「あれ? リタちゃんから経過報告は受けてないんですか? えーっとですね、もう既にエンジンさえ入れば動かせる状態ですよ。本当にリタちゃん凄いですね。これに使えるパーツをきっちり持ってきて、しかも寸分の狂いもなくぴったりですから」

 「あいつ、いつの間に持ってきてたんだ? しかし問題はエンジンかあ。やっぱり大変なんだろうな」

 「一番大変なのは車検ですよ。エンジンを載せ換えるので、形式に”改”が付きますから。そうすると保険料も変わってきますからね。まあ、そもそもこれだけ古い車だと維持すら大変でしょうけど」

 「怖い事言わんでくれよ。お金の話は頭が痛くなる」

 というお金の話の最中に電話が鳴った。渡辺からだ。

 「おまたせ。お前さんの口座への振込みが終わったぞ」

 「おっ、丁度よかった。今修理工場で俺の車の様子を見てたんだよ。車検だとか保険だとか考えて頭が痛くなっていた所だ」

 「そういえばあれを直すんだったな。完成したら俺にもハンドル握らせてくれよ」

 「皆そう言うなあ。まあ構わないよ」

 電話を切ると三宅が羨ましそうにこちらを覗き込む。

 「いいなー、自分も運転したいっす」

 「ははは、お前もか。何であれをそんなに運転したがるんだ?」

 「事件前後で理由は変わると思うんすけど、自分は興味っすね」

 確かに、あの事件で私の人生は大きく変わった。それは住民も同じなのだろうな。


 長月荘に帰宅。サイキにとっては五日振りか。三宅は私達を送り届けるとすぐに帰っていった。何だかんだで忙しいようだ。玄関の鍵を開け、ドアを開く役はサイキにしてもらうか。

 「ただいまー。帰ってきたよー」

 とても嬉しそうだ。

 「お帰りなさい」「お帰りです」

 「あれ? 何でお前達がいるんだ?」

 「エリスのビーコンでそろそろ帰ってくるのが分かったから、カフェに行く前に寄ったのよ。驚いた?」

 するとサイキが二人に抱きついた。

 「ごめんなさい。何か、色々、ごめんなさい。……ううん、違うな。この場合は、ありがとうだ。二人とも、こんなわたしに付き合ってくれて、本当にありがとう。感謝しています」

 「ふふっ、よく出来ました」

 「サイキもようやくリタ達を認めてくれたですね」

 何度も頷き、ごめんなさいとありがとうを繰り返すサイキ。その表情は泣いているように見えるのだが……いや、私は何も見ていない。

 一息ついた所で最後にエリスが一言。

 「あの、姉がご迷惑をおかけしました」

 一瞬の間を置き、皆大笑い。そしてこの一言でエリスの事も分かった。この子はこれが普通なのだ。姉には甘く、姉以外には大人びた言動をしているが、そういう性格なのだ。両親を失った悲しみを、我々には悟られまいとしているが、それすらも彼女の性格のなせる業なのだ。


 「これでようやく本当のスタートラインに立った気がする。皆、改めてよろしく願いします」

 「こちらこそ」

 「待ってたわよ」

 「頼りにしてるですよ」

 「お姉ちゃん頑張れ」

 これが今の長月荘である。



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