高速戦闘編 9
火曜日は何事もなく過ぎ、水曜日にはサイキがようやく立ち上がれるようになり、ナオも体の痛みは消えたと言い、カフェの手伝いを再開。
そんな水曜日の夕方、病院からの帰りにカフェに寄り、また二人を拾って帰る事にした。カフェに到着し、私とエリスにいつものを頼む。店内には我々の他には、たまに見る常連さんが数名。もう慣れっこなのでナオもリタも普通に世間話をしている。のんびりしていると閉店間際に男性客が二名。
「いらっしゃいませ」と接客にはリタが付いたのだが、どうやらこの二人、冷やかしが目的の様子。
「おっほぉー本当にいたぞ」「ねえ君リタだろ? 耳触っていい?」等など。
傍から見てもあまりよろしくない態度の二名。リタは嫌がりながらも接客をしているが、私のカンではそろそろいい加減にしないと……。
「なあ銃見せろよ!」「おーどうせだから撃って見せてよー」
「……いいですよ?」
あっ! これはまずい。間違いなくリタの堪忍袋の緒が切れたぞ。
私の予想通り、作り笑顔のまま二丁の拳銃を両手に取り出すリタ。そしてそのまま態度の悪い客の頭へと銃口を突きつける。
「ご注文は、銃弾でよろしいですね?」
リタはわざわざ静かに撃鉄を起こし、引き金に指を掛けてみせる。
「撃ちますよ」
本当に引き金を引くリタ。しかし銃弾は発射されない。まあ、されたら困るのだが。
「ははは、脅したつもりか?」「そんなんじゃ俺達はビビらねーよー」
リタを煽る二人。さてナオとはしこちゃんはと見ると、全く気にも留めていない。よくある事なのか……。
「じゃあ次は本当に銃弾を込めて撃つですよ」
今度は弾を込める動作をしっかりと見せ、そして一発床に向けて撃つリタ。乾いた音と共に一瞬緑の閃光が走った。本当に撃ったぞ。その音と光にエリスも驚いている。再度弾を込め、青くなっている客の頭に銃口を突きつける。未だニッコリ作り笑顔のリタ。
「再度繰り返します。ご注文は、銃弾を頭部に一発で、よろしいですね?」
「い、いや……おい、注文するぞ注文!」「お、おぅ。えっと……」
あの客もいい経験が出来たな。そしてやはりリタを怒らせると怖い。
「実は私もサイキも経験があるのよ」
「うん? 迷惑な客を脅した経験か?」
ナオは笑っている。
「ええ、そう。やっぱり私達は目立つから、冷やかしに来るお客さんもいるのよ。最初はサイキ。喉元に剣を突きつけて”ご注文はお決まりでしょうか?”だもの。やり過ぎだと私が叱ろうとしたら、はしこさんが、いい見世物になったから構わない、今度迷惑な客が来たら存分に脅しなさいって」
「おねえちゃんったら……」
またエリスの怒りに火が付きそうだ。
「ははは……。まあ見世物にしてしまう発想は、はしこちゃんらしいな。だけど俺はあまり感心しないぞ。他のお客さんにも迷惑になるからな」
と、はしこちゃんが来た。
「言わないであげて。それに、常連さんの中にはイベントとして楽しみにしている人もいるのよ。ね? 野間さん?」
私達とは反対の壁際に座る主婦の方が笑顔で手を振った。なるほど、そういう考えもあるのか。
「私達も世間の目がある事は重々承知しているわ。でも、もうこれくらいでは誰も私達を悪だとは思わない。私達がここを辞めたくない理由、分かってもらえました?」
「ああ、なるほどな。しかしナオは場所を考えろよ。槍は長いんだからな」
「それくらい分かっていますよ。大体、目を閉じていても振り回せるくらいじゃないとやっていられないわよ」
「それもそうだな」
二人を拾い、四人で商店街で買い物。
「そういえばエリスの勉強は何処まで行っているんだい?」
「うーんと、もう半分は過ぎたかな。言葉もかなり覚えました」
「そうか。三人も覚えるのが早かったけれど、エリスも負けず劣らず優秀だな」
「えへへ、ぼく優秀なんだ」
という事で、気が早いとは思うのだが、小学二年生用の教材も買っておこう。
本屋に寄ると二人も別々に本を見ている。ナオは何故か航空力学、リタは医療関係。リタは考えている事がすぐ分かる。そしてエリスが手にしたのは料理本。血は繋がっていないとはいえ、さすが姉妹。そして私は……と、店主が本を渡してきた。武器の図鑑か、やるなあこの商売上手め!
リタに中身を確認させてみると、やはり食いついた。そして更にもう一冊出てきた。こちらにもリタは食いつく。
結局はエリスの小学二年生用の教材一式と、せがまれたので料理本、ナオは航空関係の本を二冊、リタは医療関係の図解本、そして武器の図鑑本を二冊購入。多いので後で送ってもらおう。
「所でなんで航空力学なんだ?」
「なっちゃんが言ってたでしょ? サイキの動きがバレルロールだって。それで、もっと効率のいい飛行が出来れば被弾率も下がるかなって。装備の面ではどうしてもサイキが勝つけれど、それに甘んじているほど私は愚かじゃないわよ」
「鍛錬を待ってほしいって言ってたのはこの事か」
「いいえ、もう一つ、本職の人からも話を聞かないとね」
なるほど、本職の人か。