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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
高速戦闘編
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高速戦闘編 7

 ナオが退院して一安心。背骨が折れたのに一日で退院するだなんて、本当に有り得ない技術力を持っている事を再認識せざるを得ない。そして目の前にいるもう一人にも、リタの計算以上の回復力が備わっている。いつ切り出そうかと様子をうかがっていたのだが、このままでは力関係がサイキ姉妹対私一人になりそうなので、青柳を待つ事にしよう。

 途中、病室の変更を言い渡された。理由は聞かずとも分かる。私もサイキも、そしてエリスも。

 「青柳が迷うと困るからロビーに行ってるよ」

 という事で次の部屋の番号を聞き、ロビーへ。数分の待機で青柳が戻ってきた。

 「付き添いついでに学園長と軽い打ち合わせをしておきました。二人は風邪という事にしてあったようでです」

 「了解した、これで生徒達には気付かれずに済むかな。こっちは病室を移ったから案内するよ。それと青柳、録音機材って何かあるか? これからサイキから隠し事を聞き出すつもりなんだが、後でナオとリタにも聞かせておきたい」

 「携帯電話があるじゃないですか。録音機能付いていますよ」

 探してみると本当にあった。普段必要な機能しか使っていないのがバレバレだな。


 青柳と共に移送先の病室に到着。予想通り一人部屋だ。ドアを開け、ベッドの横に座り一つ深呼吸。わざと目の前で録音機能を使用し、話を切り出す。当人は私の行動に訝しげである。

 「さてサイキよ、リタから、お前自身に関する事で二つ話を聞き出せという依頼を受けている。何の事か分かるか?」

 「……?」

 首を傾げるサイキ。今更ながら可愛い。しかし私は表情を変えずに話を続ける。

 「お前の体はどうやら、リタの計算以上の回復速度で治っているらしいじゃあないか。あのリタの計算以上だぞ。おかしいよな? まだ何か隠しているんじゃないのか?」

 「えっと……」

 その一言で動かなくなってしまった。これはまさか自分でも分からないのか? 随分と長く考え込んでいるが、やはり答えは出ないようで険しい表情で唸っている。


 「あの」

 おっとエリスが手を上げた。

 「考えたくはないんだけど……ねえおねえちゃん、お父さんのお仕事って覚えてる?」

 「ごめん、覚えてない。わたしが今思い出せるのは、エリスの事くらいなんだ」

 エリスの表情が険しくなる。二人の、正確にはサイキの父親が何か鍵を握っているのだろうか?

 「お父さん、お医者さんだったんだよ。でも普通のじゃない」

 「普通のじゃない? もしかしてリタみたいな研究所にいたの?」

 「……多分」

 嫌な予感のする一言。サイキもその後の内容を察してか、苦々しい表情である。

 「ぼくたち家族にも詳しくは話していなかったから、何をしていたのかまでは分からない。でもね、お父さんがよくおねえちゃんを特別だって言っていたのは覚えてる。それで、もしかして……」

 「我が子であるサイキを人体実験の材料にしたと言いたいのか? それで何か特別な施しをされているから治りが早いと」

 「……ごめんなさい」

 「あ、いや。怒っている訳じゃないよ」

 少し口調が強くなってしまい、エリスに謝らせてしまった。だが、エリスの予想は可能性としては充分考えられる。……しかしそんな外道をやらかすような人物が、娘をここまでしっかりした子に育て上げられるのだろうか? それとも我が子だからこそなのだろうか?

 もしも私だったら……例えどのような状況においても、我が子にメスを入れるなど出来るはずがない。子供には五体満足で何事もなく平穏無事に育ってくれる事を祈るのが親心というものだからだ。


 「ごめんなさい。本当に分からない。――でも確かにこの足を失った時も、骨や内蔵の交換手術を受けた時も、治癒速度が普通じゃないとは言われた。足を失って入院している時なんて、普通は装備があっても数ヶ月掛かるのを、私は一ヶ月足らずでどうにかなっちゃったから。でも最初、リハビリが上手く行かなくて。しかも入院中にわたしの悪い噂を聞いてしまって。だから片方の足も自分で……結局半年入院してましたから」

 「以前に少しは聞いていたが、これはもっと詳しく聞き出しておくべきだったな」

 途中、私とサイキの会話を聞いていたエリスが泣きそうになってしまった。

 「おねえちゃんはもう傷付かないで。もう無理しないで」

 その言葉にサイキの瞳も潤む。

 「うん、分かった。お姉ちゃん無理しないから。約束」

 仲間殺しの戦闘狂と言えども、妹には全く歯が立たないな。


 「それからもう一つ。お前のブースターとサーカスの事だ。リタ曰く、一介の兵士であるお前がそれを手に入れて、しかも装備として使えるようになっているのは有り得ないと。正直俺にはお前達の世界で、それがどれほど突拍子もない事なのかは分からん。しかしリタが言うほどだ。これもしっかりと白状してもらうぞ」

 サイキの表情が憮然とした物になり、私から顔を背けた。

 「ぼくのど渇いた。食堂に行ってくるので、工藤さんお金貸してください」

 唐突にエリスが口を開き、私に向けて手を出してきた。

 「飲み物代くらい俺から出すよ。一人で行けるか?」

 「うん。ぼくは大丈夫です」

 あからさまに気を使っているくせに。妹に気を使わせるなんて、お姉ちゃん失格だぞ。

 「でもエリスは髪の色変えられないから、一人ではお姉ちゃん心配だなあ。だから青柳さんと行ってきてね」

 まるで青柳も一緒に追い払いたいかのようだ。これは一対一を望んでいるのか、又はまともでない手段を使っているか。それを察し、青柳とエリスは手を繋ぎ部屋を出て行く。


 どれほど大層な話がサイキの口から飛び出すのやら。ここは本人から切り出すのを待ってやるか。

 「……言わなきゃ駄目……です、よね?」

 「隠しても皆からの信用がなくなるだけだけれどな。リタははっきり言って怒っていた。あいつの今後の開発方針にも関わるってさ」

 「ただでさえあんな事をして信頼をなくしておいて、更に信用までなくしたら、わたしもうやっていけないな。……分かりました。ブースターとサーカスを手に入れた時の事を話します。先に言っておきますけど、わたしの秘密は本当にこれで最後です。……うん、これが最後の秘密」

 最後の一間の後の小さな呟きは、本当にそうなのかという、自分自身に対する確認だな。

 「まずは特殊装置六つ、姿勢制御装置・アンカー・トラバーサー・重力制御装置・ブースター・サーカスを手に入れた時の話。これらは全て同じ船から借りて……ううん、盗みました。正確には、捨て置いてあった小型船から密かに盗み出し、勝手に自分の装備品として使っています。最初は一つずつ、最後の三つは一気に、合計で四回盗みました」

 「悪い奴だなあ。おまわりさんここに泥棒がいますよー」

 「……青柳さんに捕まっちゃいますね」

 棒読み声の私に、サイキはうな垂れながらも少し笑う。エリスと青柳を遠ざけようとした時から予想はしていたので、驚きはないな。


 「それで、わたしには自分でそれを組み込むなんて出来ないから、アンカーやトラバーサーを組み込んだ時に頼った、とある人物に頼みました。最初の三つでもかなり頼み込んでどうにか、だったんですけど……」

 嫌な予感がしてきた。この先は危ない事に手を染めているのではないか? サイキの表情はどんどん暗くなっていく。

 「えっと、前に、当時のわたしは相当に荒んでいたと話しましたよね? 後の装置三つを頼んだ頃は特に酷くて、自分でも思い出したくないんですけど……その人の娘さんを、捕まえて……」

 開いた口が塞がらないとはこの事か。危ない所ではなく完全にアウトだ。私も溜め息が出るというものだ。

 「はあ……。そりゃあエリスにも青柳にも。ましてやチームの二人にも言える訳ないよな。そんな危ない奴と一緒だなんて真っ平御免だろう」

 「……はい。わたしもそう思う。あの頃のわたしは狂っていました。あの時は何よりも早く雑魚を掃討して、大型とやり合って死ぬ事しか頭になかったから、人道を踏み外した悪行も平気でやってしまった。これ以外にも、人質以上の行為もしています。謝って許されるような事ではないけれど、本当にごめんなさい」

 「人質以上って、お前は手を血に染めた訳か」

 「ううん、それだけはやっていません。それだけは絶対に……」

 しかしそれ以外は色々とやってきたのだろうな。……私の頭の中に、今までの流れから一つ嫌な予想が浮かんでしまった。

 「なあ、お前が人質にした娘さんって、まさかリタじゃないだろうな?」

 「え!? いや違うよ! リタとは関係ない! 本当だって!」

 この強い否定具合は信じてもよさそうだな。もし当たっていたら今頃こいつを殴っていた所だ。

 「わたしが組み込みを頼んだ人は、そもそもリタのご家族みたいな立派な人じゃなくて、闇医者みたいな違法改造専門。ただ、わたしの一件以来姿を消したらしいけど」

 良くも悪くも犯罪の温床を一つ潰した訳か。


 「ついでだから聞くが、お前の骨や内臓の手術をしたのも、そういう違法業者か?」

 「ううん、これは正規のちゃんとした……正規だけどちゃんとしてないな。代替内臓器官そのものは、病気の人のために存在しています。わたしは最初にサーカスを使って潰れた臓器以外の、無傷で健康的な臓器を研究用に提供するという名目で、駄目になった臓器も一緒に交換しました」

 「研究用か。……さっきよりはまだいいか。しかし親としては見逃せないな。例えどんな理由であれ、自分の体にメスを入れる事を親が許すとは思うなよ」

 私の叱責に更に小さくなっていくサイキ。

 「それで、わたしのは一般的な代替内臓ではなくて、兵士向けの強化型のテストモデル。わたしはその被験者になりました。これは兵士を、内臓器官に回復不可能なダメージを負いながらも戦場に復帰させるためのもので、わたしが被験者になってすぐ、人道的ではないという理由から計画は破棄。わたしには何も言ってこなかったので、他のものに交換する事もなく、そのまま勝手に使っています」

 「待て待て、もし故障したらどうするつもりなんだよ?」

 「……前は死ねるならばそれでもいいかなって。今は……どうしよう」

 溜め息しか出ない。これはリタに早急にどうにかしてもらわないと駄目だ。

 「そして、そこで出来たコネクションを使って、骨の交換もしました。本当は骨全部を取り替えるつもりだったんです」

 「全部!? 頭蓋骨や骨盤や指の骨も?」

 頷くサイキ。

 「……いい加減にしろよ。お前何処まで俺を呆れさせれば気が済むんだよ」

 「ごめんなさい。でも、折れた部分から取り替えていたら、遂に第二十七剣士隊に正式入隊して、わたしの意識は変わった。それからは今日まで含めても一切体に手は加えていません。本当です。これでわたしの秘密は全部です」


 これは私のサイキに対する慈悲を改めなければいけない。

 「俺は今まで、家族を全員殺され、初めての隊長経験で二十四人を殺され、足も失い、いわれのない酷い渾名を付けられ、死ぬしか考えられなくなっていたお前に、少なからず同情の念を抱いていた。だがそれらは全て捨てる。お前はただの馬鹿だ! 同情の余地は無い!」

 私の言葉に、サイキは必死に涙を堪えている。

 「そもそもお前に同情なんていらなかったな」

 私は同情という言葉は好きではない。相手を見下している感覚があるからだ。今のこいつは私の娘だ。娘を見下すなど父親として失格だ。

 携帯電話での録音を止め、そのままデータを消す。

 「サイキ、体の事と、今の事。これはお前の口から直接二人に話せ。こんな話を俺からあいつらにさせるな。分かったな!」

 「はい。すみませんでした」

 その場で二人と接続。授業中であろうから相手の返答は期待しない。

 「……下校次第病院に来い。遠いから飛んで屋上に降りて構わん。部屋変わってるから、時間になったら食堂で待ってる」

 さっさと切り、一旦エリスと青柳を呼びに行く。二人にはどう言うべきかなあ……。



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