高速戦闘編 2
日曜日。サイキは稽古があるが、ナオとリタは久しぶりの何もない休日だ。
「エリスに注文の品を渡しておくです」
という事でリタが取り出したのは、私のと似ているが、エリスの髪の色に合わせたオレンジ色をした、携帯電話っぽい何か。形状は確かにそっくりだが、中身は果たしてどんな超技術が詰まっているのだろうか。
「身に付けている限りは充電不要で、これ自体にビーコンの役割を持たせたです。もしも何かがあっても、これでエリスを救出しに行けるですよ。自動翻訳機には学習機能も付けて、それからリタ達と工藤さん、青柳さんの五人にはすぐに連絡出来るようにしてあるです。ついでなので、使わないとは思うですが、少量ですがエネルギー保持機能も付けてみたです。防壁の展開や、武器さえあればFA可能です。ただしリタ達と比べると5%しか容量を確保出来なかったので、使い所は考えるですよ」
「機能は増やさないと言っていた割には色々詰め込んだな」
「エリスが侵略者のターゲットにされるかもしれないと聞いて、ならばと付け足したです。サイキの言う戦闘に巻き込みたくないという意味も良く分かるですが、自分を守る事すら出来なければ、いざ巻き込まれた時にどうする事も出来ないですよね」
二重の意味で防壁を張った訳か。リタらしい判断だな。
「しかしエリスにもエネルギー付きの攻撃が出来るなら、俺にも可能じゃないのか?」
「無理です。スーツは着ていなくても、リタ達の世界の住人である証拠があるから使えるのであって、それがない工藤さんではどう足掻いても使えないです。……不可能ではないですが、脳手術が必要ですよ?」
「うわあ……それは嫌だな」
と言いつつもリタの表情から冗談であろう事は分かる。私に無理をさせたくないのと、技術の流出阻止が目的だろう。
ならばという事で色々と試してみる。まずは私の所に電話を掛けてみてもらうと、確かに繋がった。電話番号は相変わらず数字の羅列であるが、いつものツールに繋げば問題なかった。
翻訳機能も問題なく動いているのだが、エリス自身が自分の口で日本語を発声していきたいと言うので、いつかは使わなくなりそうだ。
最後にエネルギーの事なのだが、試しに私がリタからもらった短剣を持たせてみると、白く光らせる事に成功。しかし数秒でエネルギー切れで終了。そもそも受け皿は作ったが、回復はさせていないという事なので、持続時間がなくても仕方あるまい。
「ぼくも戦う、とは言いません。それってきっとおねえちゃんたちに迷惑がかかると思うから。だから本当に危ない時だけ使います」
相変わらずのしっかり具合に感心するばかり。
「じゃあエリスには、工藤さんを守る任務を与えましょう」
「はいっ! がんばりますっ!」
という姉妹の会話に笑いが起こる。
「でも本当に危険がある時は、エリスだけでも逃げるんだぞ。まずは自分の命が優先。分かったね?」
「はい。分かりました」
サイキは剣道の稽古へと出発。ナオとリタはいざ休みとなった途端、暇を持て余している様子。そしてエリスはというと、何かを言いたげ。
「どうした?」
「……あの、さっきの剣、もう一回貸してください。それで、少し動きを覚えたいんです。ダメですか?」
使えるようになった以上は、しっかり使い方を覚えたいという事か。どうしようかなあ。
「いいわよ。私が見てあげる」
「サイキに無断はまずいだろ。後で怒られても俺は知らないぞ」
「大丈夫よ。気付かれなければいいのよ」
無理矢理な論法に押されそうになり、そしてエリスも私に訴えかける目で見てくる。折れるべきか突っ撥ねるべきか……。
「試しにやらせてみればいいです。エリスなら、駄目だと感じたら自分からそう言うですよ」
最後の牙城たるリタすらもそちら側に付くとは。
「……はあ、仕方がないなあ。ただし無理はしない事。教官はナオだ」
「任せなさい。じゃあエリス、早速やってみましょうか」
正直言って全く期待していない。怪我さえしなければいいのだが。
さすがにいきなり剣を持たせるのは危ないので、同じような長さの孫の手で素振りをさせている。しかしその動きは剣道場で見た子供達のそれと比べても、明らかに危なっかしい。
「最初だとしても、ちょっと危ないですよね」
エリスには聞こえないように私の耳元でリタが呟き、私も頷く。そしてやはりというか、持っていた孫の手がすっぽ抜けてしまった。
「あ! ご、ごめんなさい」
「ははは、怪我はしてないな? 今度は気を付けてな」
「……ごめんなさい。やっぱりぼくには合ってないみたい」
リタの予想した通り、自らの判断で素振りを止めるエリス。
「じゃあこれでもう剣を振ろうだなんて思わないわよね? 実際にやってみて、自分に戦闘の才能が無い事が身に染みたでしょ?」
「……うん。やっぱりぼくが戦闘に出ると、邪魔にしからならないと思います。ごめんなさい」
何度も謝る所がまさにお姉ちゃんそっくりだな。そしてナオが素振りをやらせた理由が、しっかりと自分には出来ない事を分からせるためだったのだな。そしてエリスはナオに頭を撫でられ、座ればリタとナオに挟まれ、しょぼくれるのであった。
昼の二時半を回り、サイキが帰ってきた。相変わらずお姉ちゃん一直線のエリス。
「ただいまー……ってエリス、いつも以上に強いね。怒られでもした?」
無言で首を横に振るエリス。サイキは私達を見て一言。
「どういう事?」
これは千載一遇のナオを弄るチャンスだな。
「ナオがいじめたー」「いじめたです」
「ちょっと! ち、違うわよ!? ただ、あの、えっと……違うってば!」
ナオを睨み剣を取り出すサイキ。さすがに冗談であるのは分かるのだが、前科があるだけに怖いぞ。
「まあきっと、自分も武器を持ちたいって言ったんだよね。それでナオに素振りさせてもらったら失敗した感じかな」
「大方正解だ。それでエリスには戦闘の才能はないのを分からせたって事だ。無理をするのも困るからな」
「あはは、そうだね。エリスは聞き分けはいいけれど、結構頑固な所もあるから、実際にやって分からせるのが一番だよ。だからエリス、そんなふくれちゃ駄目だよ」
「……うん」
返事はするものの、表情は変わらずだな。さてサイキも少し遅い昼食を食べ、後はのんびり何もない一日を満喫……したかったのだが、小型黒以上にまずい事態が発生してしまう。