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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
高速戦闘編
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高速戦闘編 1

 一戦終えて三人が帰宅。

 「おねえちゃん怪我してない?」「相変わらず格好いいなー」「リタちゃんやるねー」「サイキちゃんとナオさんの動きが早いの何の」

 等など皆大盛り上がり。

 「サイキちゃんバレルロールしてたね。目回らなかった?」

 「目は回ってないけど、ば、ばれ……って何?」

 木村からそんなよく分からん言葉が出てくるとは思わなかった。

 「うーんとね、バレル、つまり樽の側面を舐めるような飛び方の事。私ちょっと飛行機に興味が湧いた時期があって、それで少し知識があるの。あい子にすら言ってなかったけどね」

 「でもなんとなーく分かってたよ。なっちゃんの部屋に行ったら飛行機の本が一杯あったからねー」

 意外な伏兵だな。どうやら皆私と同じ事を思っていた様子。

 「最初はライト兄弟の歴史から興味を持って、気付いたらゼロ戦とかの戦闘機まで調べてて。ふと我に返ったらあんまりにも女っ気がない趣味だったから自分にもびっくりしちゃって、それで一旦その趣味はお預けにしてたの。まさかこんな所で知識が出るとは思わなかったけれど」

 「ははは、最上は銃に詳しいし、木村は飛行機に詳しいのか。お前達本当に普通の中学生か?」

 私の疑問に、子供達ではなく竹口が答えた。

 「今はネットもありますし、ゲームも随分と進化しているんですよ。工藤さんの頃はインベーダーですか? 今じゃあの頃とは比べものにならないくらい綺麗で、実写と見紛うグラフィックだし、その知識量も半端ないですから」

 なるほどなあ。納得だ。


 随分と遅くなってしまったが、子供達の撮影会を開始。

 「どう撮りましょうか?」

 「俺にそういう才能はないからな、そちらに全て任せるよ」

 まずは証明写真のように普通の表情で、その後は着替えて何枚かという感じ。

 撮影の途中で青柳が到着。カメラマン以外とは全員面識があるな。

 「撮影快調でしょうか?」

 「そうだな。三人とも嫌とも言わずに従順だよ。以前も造型堂だっけ、あの人達に撮影されているから、少しは要領が分かっているんだろう」

 「あれとは違うわよ。あの時はその……結構恥ずかしかったんだから」

 「ははは、まあ今回は足の裏まで撮影される事はないからな」

 子供達も見よう見まねで機材を動かして協力をしている。面白い光景だ。青柳は竹口とホームページの確認と打ち合わせだな。こういう時に何もする事がなくなると凄く寂しい。

 「あの、ぼくは?」

 「エリスは……載せるかは別として撮るだけ撮ってもらおうか」

 という事でエリスも参加決定。しかしやはり緊張しているのが見て取れる。ここは一つ、お姉ちゃんを投入しよう。サイキと手を繋ぐと、やはりエリスの表情が和らいだ。

 その後は四人並んだ写真を撮り、私を入れて五人になり、椅子を持ってきて前列に四人、後列に六人で子供達の集合写真を撮る。皆嬉しそうで、これは本当にいい記念になった。


 「ホームページは概ね問題ありませんでした。と言っても内容はまだこれから追加されていきますからね。私から注意点は話しておきましたが、工藤さんからも何かあれば世間に発信される前に言っておくべきですよ」

 青柳のチェック完了。私からの注意点か。

 「俺としてはプライベートを侵される事は避けたい。勿論長月荘もそうだし、学園もそうだし、彼女達の友達関係もそうだ。でもそれ以外は、三人が嫌だと言わない限りは特に制限する気はないよ。俺よりも三人のほうがしっかりしているからな」

 「分かりました。えっと、三人さんはメール使えるんでしょうか?」

 手の空いてそうなリタを呼び、竹口のパソコンにメールを送ってもらう。

 「一文だけですが送信したですよ。工藤さんの携帯電話にも届いたはずなので大丈夫だと思うです」

 「えーっと、あー来ました。来ましたけど……アドレスがこれじゃ折り返しには使えないですね」

 アドレスを見せてもらうと数字の羅列になっている。リタ曰く、プロテクトスーツの製造番号だそうな。

 「そういえば一番最初に電話で試してみた時も同じような数字が出たなあ。リタはあの時まだ来てなかったはずだから知らないか」

 「あーそれなら普段使ってるツールにも同じ数字が使われていたはずですよ。ちょっといいですか……ほら」

 竹口が私のパソコンを少し弄り、スパイクという普段使っている通信ツールの設定画面を開き、そこにあるリタの連絡先を表示した所、本当にさっきの数字の羅列がそのまま入っている。

 「普通だったらこれでは繋がらないはずなんですけどね。何故なのかは僕にも分かりません。ははは」

 「まあ使えているんだからいいさ。……そうだ、そっちにも同じようにすれば文字でのやり取りならば出来るんじゃないか?」

 「あ、それもそうですね」

 という事で再度リタに協力してもらい実験。

 「……文字通信の傍受成功を確認したです。これで相互に文字でのやり取りか出来るです。二人にも後で教えておくですよ」

 「ではそういう事でよろしくお願いします」


 撮影も終わり、竹口とカメラマンは帰って行った。青柳も一旦車に戻り、先ほどの襲撃の情報収集に当たっている。時間的にそろそろ買い出しに行きたいので青柳に乗せて行ってもらおうかな。

 「お前達、ちょっと買いものに行くから留守番頼んだぞ。二戦目があった時はお前達だけでどうにかして見せろよ」

 「えー」という否定の声と「はーい」という肯定の返事が交差した。否定は別世界の三人、肯定は友達六人。面白い構図になった。

 青柳にこちらの状況を説明し、買いものに付き合ってもらう。夜の自分の分も買うというので、それならばと夕飯を一緒に食べる事にした。買いものの途中、私の携帯電話が鳴った。この意味不明な番号は……リタだな。先ほどの会話もあり、わざと彼女達の装備を使って電話を掛けてきたのだろう。

 「おうリタどうした?」

 「あれ? バレちゃっていたですね。えっと、暗くなる前に皆帰る事にしたです。その連絡だけです」

 「了解。ああちょっと待て、青柳に代わる」

 という事で携帯電話を青柳に渡す。

 「お友達が帰る前に戦果報告を。今回は展開が早かったので少数の軽傷者のみです。……はい。そういう事です。それでは」

 あっさりとした会話の後、また私に代わる。

 「こっちはあと少ししたら帰るよ。それじゃあよろしく」


 そうだ、帰宅前にサイキとエリスの姉妹の秘密を青柳にも教えておかなければ。

 「青柳、驚くなよ」

 「突然何ですか? 今更驚くような事もないと思いますが」

 念の為赤信号で停車中に切り出す事にした。

 「サイキとエリスなんだがな、血が繋がってないんだ」

 「血が繋が……えっ!?」

 「ははは、お前のそんな驚いた表情初めて見たぞ。……眼鏡ずれてるぞ」

 やはり停車中に言って正解だった。何せ青信号に変わっても動かないので、後続車にクラクションを鳴らされるほどの動揺だ。

 「失礼しました。……本人がそう言ったんですか?」

 「正確には、リタが最初に気が付いてサイキから証言が出た。エリスには知らせてないから、絶対に口を滑らせるなよ」

 「分かりました。警察として約束しましょう。……本当ですか?」

 「本当だよ。そして血が繋がっていないという事は、あの子は帰れないかもしれない」

 「……本当、ですか?」

 結局青柳は長月荘に到着するまでずっと疑ったままだった。


 帰宅したのだが、まだ木村中山コンビと泉が残っていた。

 「おかえりなさーい」

 「ただいま。皆帰ったんじゃないのか」

 「私は戦闘機の知識を教えて欲しいって言われちゃって。あい子は付き添いで、泉さんは……何で?」

 「えっと、工藤さん、二人だけで少しお話が……」

 おっと、まさかの中学生から愛の告白か? なんて、まず有り得ないな。今までの泉から考えるに、料理を教えてほしいといった所か。とりあえず私の部屋へ。

 「料理を教えてほしいならお母さんに言うべきだぞ?」

 「ううん、あの……司令官ってどうやるんですか?」

 「そっち!?」

 と思わず声に出して驚く私。

 「私って、運動神経が良くなくて、頭もナオさんみたいに優秀じゃなくて、声も小さいし背も小さいし。私のお姉ちゃん、学園の三年生なんですけど、生徒会長なんです。それもあってずっと自分にコンプレックスがあって……」

 うーん、まさか泉から人生相談を受ける事になるとは思いもしなかったぞ。

 「話は分かったけれど、それで目指すのが司令官ってのもなあ。人の上に立つ仕事ならば他にも色々あるだろうし、わざわざ狭い所を狙わなくてもいいと思うよ」

 「……でも、私も何か、役に立ちたいんです。それに皆に、ナオさんにも向いてるって言われて」

 「ああ、それで火がついた訳か。うーん……ちょっと待ってなさい」

 私よりもこういう話には強い人物がそこにいる。


 「司令官……ですか。そうですね、課長にでもなれば一斉に部下に指示を出す事は出来るので、ある意味で司令官ですが、しかしそこまで行くとなると、半端な覚悟では無理ですよ。私だって中身はヒラの刑事ですから。それを渡辺さんの強い推薦でこの職に就かせて頂いているという訳で」

 青柳も困ってしまったか。

 「……司令官、という訳ではないけれど、学校の先生はどうだろう? 生徒達を統括する立場だし、孝子先生にも話を聞けるから参考にはなるよ」

 「先生……そういえば幼稚園の頃、少し憧れていました。司令官よりは現実的ですね。ありがとうございます。少し考えてみます」

 「ああそれと、一度お姉さんと話してみるのはどうだい? 口に出さなければ分からない事ってあるからな」

 「今ならばメールがありますからね。それに部屋に手紙を放り込んでみる、なんていう古風な手もあります」

 「……そうですね。それも考えてみます。何か、お騒がせしてすみません」

 頭を下げる泉。解決という訳ではないだろうが、どうにかなった、かな?

 時刻を見ると夕方五時半。そろそろ子供達を帰さなければ。

 「ほら、もう外が暗くなってるぞ。青柳、悪いけど三人を送ってもらえるか? 泉さんだけ別方向だから遠回りになるけど、いいだろ?」

 「ええ、分かりました。晩御飯は頂きますよ」

 という事で子供達は解散。青柳はその後戻ってきて我々と一緒に晩飯。


 「そういえば今回の戦闘、周囲が逃げるのが随分上手かったなあ。やっぱり皆冷静に見るようになったんだろうな」

 「そうですね……戦闘の映像も一部公開しましょうか。画像一枚だけでは、侵略者がどういう動きをするのかまでは分かりませんからね」

 するとサイキが笑う。

 「なんか、街の皆が統率されて行くみたいで可笑しい。手を振ってくれた人もいたし、本当にわたし達の頑張りが評価されているんだなって思う。最初の頃はわたし達のせいで、わたし達が来なければ、って思ったけれど、今は来て良かったって思ってる」

 「俺はお前達が来なければ良かっただなんて一度たりとも思った事はないぞ」

 「代用品だからよね?」

 「いや、まあ……ごめんって」

 一笑い起きた所で青柳も帰る事に。エリスも一緒に手を振ったので、もう青柳にも慣れたのだな。

 「ねえおねえちゃん、だいよーひんって?」

 私の傷はまだまだ抉られるようだ。



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