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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
疾走戦闘編
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疾走戦闘編 20

 土曜日は短縮授業なので昼前には三人が帰ってきた。そしてその後ろには彼女達の友達六名。

 「ただいまー」「お邪魔しまーす」

 「おかえり。そしていらっしゃい。皆そのまま来たのかな」

 「はーい、そうでーす。そしてサイキちゃんの妹さんがお目当てでーす」

 やはり中山は元気だ。

 「はっはっはっ、やっぱりな。しかし……逃げたぞ」

 「えっ!?」

 「何となく察したんだろう、部屋に篭ってるよ。何、恥ずかしがっているだけだから心配はいらないよ。まあ上がりなさい」

 とりあえずは全員居間へ。サイキはエリスを呼びに部屋へ。

 「分かっているとは思うけれど、相手はまだ小さいんだ。皆ほどほどにな」

 「はーい」

 うむ、良い返事だ。


 サイキがエリスを連れて二階から降りてきた。きっと後ろに隠れているんだろうと思っていたのだが、案の定きっちり真後ろに張り付いて離れない。その光景に微かな笑いが起こる。

 「えーと、今わたしの後ろに隠れているのが、妹のエリスワドです。わたしはエリスって呼んでます。ほら、挨拶」

 皆でエリスの名前を呼ぶが、余計に恥ずかしがっている様子。すると妹のいる最上が動いた。サイキの横に行き屈んでエリスと目線を合わせる。さすが慣れている様子だ。

 「初めまして。俺は最上重って言います。よろしくね」

 目を細め、笑顔で接する最上。それを間近で見ていたサイキが笑う。

 「あはは、最上君そんな顔出来るんだ。へえ」

 「惚れた?」

 「ふふっ、それはないなあ」

 どうやら最上の行動はサイキへのアピールも兼ねていたようだが、残念ながら玉砕の様子。大袈裟に落ち込む素振りを見せた最上を見て、改めて笑うサイキ。エリスはそんなサイキの顔を見上げ、そしてようやく皆に顔を見せた。

 「えっと……はじめまして」

 「初めまして」「よろしくねー」


 そして始まるエリス談義。

 「やっぱり髪はそういう色なんだね」「そっくりだなー」「サイキさんを小さくしただけですね」「妹いるの羨ましいなー」

 「ねえそういえば、皆には兄弟姉妹っているの?」

 ナオは一人っ子なので、同じ境遇の相手を探してしまうのだろう。

 「あたしは兄が一人」「俺は妹がいるよ」「私は三人姉妹の末っ子なんだー」「私は一人」「俺も一人だよー」「私は三年生にお姉ちゃんがいます」

 相良には兄、最上には妹、中山は末っ子で木村と一条は一人っ子、そして泉には姉か。私にも兄はいるが、一体何処で何をしているのやら。そもそも五十数年会っておらず顔も分からないので、会った所で赤の他人である。


 エリスはリタに手招きされ、その横に座った。皆に囲まれるが、リタが手を握っているので不安な顔ではない。それに皆強引な態度は取っていない。

 挨拶も済んで一安心。しかしサイキと相良には稽古の時間がある。

 「そろそろ行かないとね。ちょっと早めに切り上げて帰ってくるかも。エリス、お留守番頼んだよ」

 「うん、いってらっしゃーい」

 恥ずかしさで駄々をこねるかとも思ったのだが、そんな事は一切なくあっさりと見送った。本当に聞き分けのいい子で助かる。


 エリスに対する皆の反応だが、私の予想以上に良好であり、あれから三十分ほどで既に馴染んでいる。特に最上がうまく立ち回っており、エリスの困りそうな質問は切って捨てているし、少しでもエリスが嫌そうな表情をすればすぐに察知して止めに入っている。これは大切な妹を取られかねないぞ、お姉ちゃんよ。

 さて、時間的に昼飯を作らなければな。私が台所に向かうと、先ほどまでエリスの面倒を見ていた最上が、次は私の手伝いに来た。

 「悪いな、エリスの事も食事の事も手伝わせちゃって」

 「いえいえ、こっちもお邪魔してる身ですからこれくらいはしないと」

 一方盾を失ったエリスだが、代わりにナオとリタが挟み込む形で防衛に当たっていた。これはこれで鉄壁の布陣だな。といっても随分落ち着いたようで、中学生の会話に普通に参加している。

 「エリスちゃんは学校に行かないんですか?」

 最上が聞いてきた。

 「本人に決めてもらう事にしているよ。行くと決めたのならば、俺の伝を使えばどうにか出来るからな。今は三人の手解きを受けつつ、小学一年生の勉強中だ」

 「あの三人も別の世界から来たっていう事は、こっちの勉強はしてなかったはずですよね? どれくらいで追いついたんですか?」

 「うーん、確か一ヶ月もなかった気がするな。リタなんて一日で算数を一年分終わらせてたからな」

 「ほえー、すげーなあ」

 改めて思い返せば、本当に凄まじい伸び方だった。しかしリンカーで教え合っていたという事実もあり、それが全て実力かと言えば若干の疑問符が付く。だからこそ二学期の期末テストの結果がとても楽しみだったのだ。そして結果は素晴らしいものだった。唯一リタの国語を除いて。


 料理中、呼び鈴が鳴り竹口ともう一人若い男性が来た。カメラマン役だな。時刻は正午十二時を少し回った所。

 「おっ、初めましてこんにちは」

 挨拶と簡単な説明が終わり、まずは昼食をという事になる。竹口の連れてきたカメラマンはプロではなく、彼の社内で一番カメラが上手く、会社のホームページに使う写真も撮った人だという。わざわざお金を掛けてやる事でもないので充分だ。

 「相変わらず美味しいですね。本当にお店出せばいいのに」

 「ははは、他の奴にも同じ事を言われたけれど、その気はないよ。それにまずは目の前の問題をどうにかしないと。あと今回はそこの最上も手伝っているから、正確には俺だけの味じゃないよ」

 ちなみにカメラマンはしっかりと料理の写真も撮っていた。そしてこの写真が、私の意思とは関係なしに一人歩きするとは思っても見なかったし、一人の男の子の将来を決定付ける事になるとは、全く予想だにしていなかったが、それはまた別の話。

 食事も終わり、さてどうするかといった所で、丁度二人が稽古から帰ってきた。

 「ただいまー」「もう一回お邪魔しまーす」

 「おかえりー。いつもよりかなり早いな」

 話の最中にエリスが私の横をすり抜け、お姉ちゃんに抱きつく。頭を撫でるサイキだが、私との話は続ける。

 「うん、皆の事もあるし、早く切り上げさせてもらっちゃった」

 「代わりに明日はみっちりと扱くよー」

 カフェの手伝いを土日は休みにして正解だったな。


 二人の食事をさっさと済ませると、撮影開始となった。最初は外で撮る気だったのだが、あいにく雨が降ってきたので長月荘の広い居間を使う事にした。

 「ほらお前達も手伝えよ」

 友達も借り出して居間の椅子とテーブルを移動し、撮影スタジオを急造。背景は使っていない染みのない白いシーツを代用し、明かりは手持ちの蛍光灯ライトを有効活用。結構様になっているのが逆に可笑しい。

 「ちなみにホームページですが、叩き台ですがこんな感じになっていますよ」

 竹口が自分のパソコンで見せてくれた状態では、かなりシンプルな作りになっており、見やすさに重点を置いたようだ。

 「ゴテゴテした装飾が多いと印象が悪くなりますからね。そしてプロフですけど、一人一人見られるようにして、中身はあまり飾らない感じで。僕が知ってるだけの情報は載せていますけれど、書き換えはすぐ出来ますから。侵略者のページも予定地としてデザインだけは作ってあります」

 三人それぞれ、後は写真を載せるだけという感じだな。エリスの分は余白だけ取ってあるので、いつでも追加出来るという事だろう。そういえばこれを青柳にも確認させないといけないな。


 「えっと、それ所じゃなくなりました」

 「来たか。詳細は?」

 サイキの一言で一瞬で空気の変わる我々四人。周囲も事態を察する。

 「場所は北西、大型と中型が一体ずつでどっちも灰色。すぐ行きます」

  言葉の通りすぐさま飛び出して行く三人。私はいつも通りパソコンを点け、三人と青柳と接続。

 「俺達はどうすれば?」

 「今回は時間がないから全部あいつ達に任せる。だから皆は待っていればいいよ。大丈夫そんな顔するな」

 いかにも不安げな表情の友達六人。しかしこの相手ならばそう難しくはない。カメラマンが私のパソコンを覗き込もうとしたのだが、竹口に制止されていた。見られるのはもう構わないのだが、それでも気を使ったのだろう。

 「という事は今日もお友達が来ているのですか?」

 「そうだよ。あと竹口も来ているから、すまんが後でこっち寄ってくれ。青柳にもあれの確認をしてもらいたい」

 「分かりました。これからそちらに向かいますね」


 「見つけた。病院に近いから被害が広がる前に速攻で片付けよう!」

 「サイキは中型、私とリタは大型。三分で済ませるわよ!」

 「二分で充分です!」

 大きく出るなあ。上空を行く二人の視点から、低空飛行しつつ中型に近付くサイキが見える。そして丁度大通りなので車が全てUターンし逃げ始めているのだが、意外と混乱もなく順調に逃げている。そして一部歩行者は三人を発見し手を振っている。そんな暇があれば逃げろと言いたくなるのだが、三人の励ましになっているので、ありがたい事に変わりはない。

 遠距離攻撃の出来る灰色は射程に入ったサイキに光弾を撃っているのだが、素早い動きであっさりと回避。その回避軌道が赤い光の線として浮かび上がるのだが、これが何とも綺麗だ。

 「もらったあ!」

 サイキは一切止まらず、そのまま中型灰色を一刀両断。武器は刀を使っているが、これは相良に見せつけているのかな?


 次は大型深灰。何かと病院と縁のある敵だな。最初は東病院前、次はすぐ後の戦闘でフラックが使われ三人とも一日入院、そして今回は市立病院のすぐ近くだ。

 気付けば私の後ろに皆団子のように固まっている。思わず苦笑。

 「ああそうだ竹口、パソコンの画面をテレビに映す方法はないか?」

 「ありますよ。ただケーブルが必要なので今すぐは無理ですね」

 残念。でも出来るのであれば、用意しておくに越した事はないな。

 「前はリタちゃんが援護してたけど、今は逆になっていますね」

 三人は既に戦闘を開始しており、遠距離からリタが狙い、サイキとナオがそれを援護する陣形を取っている。

 「泉ちゃん見抜くの早いな。リタは今、一撃に重点を置いた装備を使っているから、それを邪魔されないように二人がこいつの気を引く役をやっている訳だ。最初は頼りなかったけれど、今ではすっかり攻撃の要を演じているよ」

 「褒めても何も出ないですよ」

 「ははは、いいからさっさと終わらせて帰ってこい」

 「了解です。……撃ちます」

 やはり撃つ時だけは”です調”の口癖がなくなるリタ。それだけ集中しているという事だろうか。大きな音と共に弾丸は深灰の中央を貫き一撃で撃破。

 「周囲に敵影なし、クリア。病院への被害もなさそうに見えるわね。さて帰るわよ」

 戦闘時間はおよそ二分。まさに宣言通りである。



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