下宿戦闘編 14
「く、工藤さん! これなんですか!?」
朝から素っ頓狂な声を上げるサイキ。
何だと思えばテレビの特撮ヒーロー番組だ。どうやら現実の映像であると勘違いをしている様子。子供の夢は壊したくは無いが、事情が事情なのでネタ晴らし。二人して食い入るように見ており、終わると二人で相談を開始。なんとなく読めるその内容。その後竹口から教わったユーストローという動画サイトを使い、彼女達が食いつきそうな動画を幾つか選定。予想通り物凄い眼力で見つめており、話しかけづらい雰囲気さえかもし出している。
「サイキの武器は剣、というよりも日本刀に近かったけれど、ナオの槍はどんな物なんだい?」
「エネルギーは消費したくないけど、これくらいならいいか。お見せします」
カーテンがふわりと揺れる程度の風が吹き、ナオの使う槍が出てきた。その形状は確かに槍ではあるが、素潜り漁で使われる銛や矛のようにも見える。突き刺すのにはいいが、薙ぎ払うのには少々足らないか。重量はまるで羽毛のようにとても軽い。
「そうね、あまり横に攻撃する事は考えていない形状ね。横方向への攻撃か……」
「わたしのもどうぞ」
話の流れに乗ってサイキも武器を取り出す。やはり日本刀にかなり近い。こちらもまるで玩具のように軽く、目で判断する重量との違いに焦ってしまう。
「しかしここまで軽いと逆に扱いにくくないか?」
すると二人して頭の上にハテナマークが出た。
「ああこれは間違った方向に技術を注いだな? 威力を増すには鋭いだけじゃなく、ある程度の重量が必要なんだよ」
これは物理学者を探してきたほうがよさそうだ。
今日は彼女達の出勤時間よりも早めに商店街へ。服屋に寄って二人の普段着を物色。もう十月は上旬なので冷えてきているし、さすがにあの服装のまま色々な所をうろつかれるのも困る。
そしてとんでもない事が判明。彼女達は所謂下着を持っていなかった。着替えてみようかと言った私の目の前で一瞬で裸になったサイキ。
「お、おいすぐ戻せ戻せ!」
さすがに私も顔を隠すぞ。しかし、初日に靴は脱げないと言った理由がまさかこういう事だとは……。ナオに怒られるサイキと私。サイキはようやく事態を理解して、顔が真っ赤だ。恐らく私も。
女性用の下着の専門店はこの商店街には無く、一番近くでも駅前のデパートまで行かなければいけない。しかしこの格好の彼女達を連れて行く訳にもいかない。
……いざとなればはしこちゃんに頼もうか。
「えー駄目よ。そういうのは本人が行って、自分に合った物を探し出さないとー」
という事だ。本当にどうしよう。
いつも通りコーヒー一杯を飲んで彼女達と別れ、夕飯の買出しをして帰宅。すっかりこの生活にも慣れたなと思いつつ、パソコンの勉強を開始。夕方四時ごろナオから連絡が入る。エネルギーが貯まったのでビーコンを打ったという報告だ。さあ来い三人目。すると早速遠くで大きな音。
いや、これは……悲鳴のような高音、奴らだ。三度目の襲撃だ!
すぐさま青柳からも連絡が来た。例のスパイクというソフトを使い、私、サイキ、ナオ、青柳の四人を同時に繋ぐ。はしこちゃんにも電話連絡を入れ早退の了承をもらおう。
襲撃場所は北部工業地帯。幸い今日は休日なので工場も殆どが止まっており人気は無いはずだ。ナオは先ほどビーコンを打った事を後悔している。サイキに掴まり二人は空から現場へ。また悲鳴のような轟音……合計で四回も鳴った。これは非常にまずい。二対四だ。ナオに至ってはエネルギーはほぼ無いだろう。大丈夫だろうか。
ドーン!
別方向でまさかの爆発音。駅前か? 青柳が指示を飛ばしてきた。
「我々は駅前に向かいます。お二人には北部の敵をお任せします。各個撃破後、余裕があればこちらへ」
「はい!」
二人ともすごく気合の入った良い返事をする。さすが歴戦の兵士だな。私はどうするかと尋ねると、その場で待機との事。口調からして邪魔をするなといった所か。
「任せるという事は、我々はあなた方を信頼しているという事です。あなた方を知る人物は複数おりますが、皆応援しています」
青柳から粋な言葉が発せられ、かすかに微笑む彼女らの声が聞こえた。数分後、外に一台の車。青柳だ。
「行きますよ」
と言い私を乗せて走り出した。
「邪魔だから自宅待機じゃないのか?」
「私が見ていないとあなたは何処に行くか分からない。これも一つの監視です」
ならば仕方が無いな。
大人班は駅前に急ぐが、爆発の影響か混雑していて中々進まない。彼女達が先に北部の襲撃現場に到着。
「こっちだけ雨が降ってる……あ、いた!」
「敵発見。小型の侵略者……という事は、侵略を本格的にする前段階かもしれないわ。しっかり叩いておかないと」
「勝てそうですか?」
青柳の言葉は、少し不安を感じさせるものだ。
「速さはあるけど弱い相手、これならいけるわ」
ナオの判断では大丈夫という事か。
「しかし油断は許可しません」
「……ごめんなさい。よし、いっちょやってやりますか!」
謝り気合を入れ直すナオ。早速サイキが一体撃破を報告。エネルギーはまだあり、こちらへ応援に来る事も出来るだろうという事だ。
我々も駅前に到着。爆発位置が地上に近かったようでガラスが散乱しており、かなりの混乱が見て取れる。警官が十人ほど先着して誘導に当たっている、救急車消防車も到着。しかし敵の姿が見えない。
「ステルスタイプの敵は確認されていますか?」
青柳が可能性を探るために二人に質問。
「すてるす……って何?」
まさかの回答。レーダー索敵に引っかからない技術だと言うと、そういうのは聞いた事がないらしい。ならば考えられる可能性は二つ。彼女達の知らない新型の侵略者か、それとも三人目か。
「三人目ならば信号を発しているはずですけど、その様子は無いです。新型……かも」
不安な声を出すサイキ。
「二体目撃破!」「一体もらったあ! あと一体!」
間髪いれずに、ほぼ同時に撃破報告が入った。
我々も急がねば。三人目の風貌を聞くと、緑の髪だそうな。これまたすごく目立ちそうだ。
青柳は手の空いている警官に周囲の捜索を指示。しかし時間が経っても見つからない様子。そうこうしている内に、先に彼女達が戦闘を終わらせた。
「三体目撃破! 周囲に反応無し。クリア!」
撃破数はサイキ三体ナオ一体。エネルギーの差かと思ったが、踏んだ場数が違うらしく、サイキは実力で隊長補佐まで上り詰めたようだ。
「戦闘数……本当なの? それ」
「う、うん……」
何かありそうな言い方。二人はすぐさまこちらへ応援に来るという。
「情報が入りました。爆発発生後すぐに子供が走り去っていくのを見たと言う人がいました。フードをかぶっており詳細は不明ですが、恐らく三人目ではないかと」
なるほど、警戒をして身を隠せるようにしていたか。とすればあえて信号を発していないという可能性も見える。二人には目立たないようビルの屋上で待機してもらおう。あの格好でこれだけの観衆のいる中、空から降りて来ようものならば、とんでもない事になるのは火を見るよりも明らかだ。
「これ……誰も死んでないよね……」
サイキの泣きそうな声が聞こえる。
「意識不明者一名。今の所死亡は確認されていません」
淡々とした青柳の報告。だが彼なりに彼女達を安心させたかったのだろう。
「例え死者が出たとしても、既にあなた方はそれ以上の人の命を救っています。それをお忘れなく」
青柳、いい奴だ。
結局三人目は発見できず、ステルス侵略者という線も薄くなりその場は収まった。