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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
疾走戦闘編
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疾走戦闘編 19

 水曜日は何事もなく過ぎた。木曜日には竹口から連絡があり、土曜日に彼女達の写真を撮影したいとの事。

 「うーん、今週の土日は雨みたいだし、どちらにしろ市外には行けそうにないね」

 そして金曜日。朝の天気予報では、週末は雨又は雪。そこまで荒れる事はないようだが、間違いなく襲撃があるな。前回の襲撃時にエリスが感じていた不安が当たらなければいいのだが。登校時間になり、三人仲良く家を出る。

 「それじゃあ行ってきまーす」

 「おねえちゃん達いってらっしゃーい」

 すっかりエリスも、この生活に慣れたようだ。



 視点を三人へと向ける。

 「おはよー。ねー天気予報見た? 週末雨だってねー。ざんねーん」

 いつも通りの中山である。

 「こればかりは私達でもどうにもならないから仕方ないわよ。遊びに行くのは来週以降にしましょ」

 「サイキちゃんの妹さん、エリスちゃんだっけ、早く見たかったな」

 残念がる木村。三人は写真も見せていないので、友達はエリスの容姿を知らないのだ。


 昼休みになり、話が再開される。

 「わたし達は多分戦闘でいなくなるけど、それでもいいなら週末に遊びに来る?」

 「来たらきっとまた司令役をやる事になるですよ」

 「という事は泉さんの出番だな」

 一条の言葉に皆泉を見る。

 「え……でも私迷惑かけちゃわないかな。前だって遅いって怒られたし」

 「あれは怒った訳じゃないわよ。そういう気持ちを持ってねって事。確かに展開の遅さはあったけれど、でも泉さんはしっかり皆の意見をまとめて司令官としてやっていたわよ。自信持って」

 「そうそう。それにあの時はわたし達もちょっと意地悪してたし。工藤さんとの時は、基本的に現場判断なんだ。それにプラスして、工藤さんがアドバイスや気付いた点を教えてくれるっていう感じ。今度は一から十まで泉さん任せっていう事にはしないよ」

 二人のフォローにも煮え切らない表情の泉。最後にリタが締めの一言。

 「泉さんは、工藤さんよりも才能あるですよ」

 これにはサイキとナオも笑う。

 「あはは、リタ酷いんだ」「ふふっ、まあ私も否定はしないわ」

 「えっと……そう言われると、ちょっと嬉しい、かな」

 ようやく満更でもない表情になる泉。


 「それじゃあ土曜日、学校が終わったらそのまま皆でお邪魔しようか」

 最上が予定を決めたが、相良が止める。

 「あーちょっと待った。土日は昼に稽古があるから、多分無理。三人も確かカフェの手伝いあるよね?」

 「ええ、土日は二時から六時半まで手伝っているわよ。そう考えるとちょっと難しいかもね。カフェがなければ午後から遊べるんだけれど」

 考えてしまう一同だが、サイキは悪そうな顔をする。

 「……カフェ休んじゃおうか」

 「駄目よ。ただでさえ色々あって一週間きっちり働けた事なんて稀なんだから。それに、隣町まで遊びに行くのに休む事を、工藤さん経由で無理矢理に了承してもらってるのよ? その上今週も遊びたいから休みますだなんて言える訳ないでしょ!」

 「ごめんごめん、冗談だって」

 ナオに怒られて謝るサイキ。


 「そういえばさー、カフェってお休みの日いつなのー?」

 「……ないわよ?」

 「えー!」

 友達一同驚きの声を上げる。

 「そんなに毎日働いたら体壊すって。お休み貰いなさい」

 三人を心配し、まるで母親のように諭してくる木村。

 「でもわたし達の世界では……」

 「そっちはそっち、こっちはこっち。郷に入っては郷に従えって言うでしょ。ちゃんとカフェの人に言って、休日を貰いなさい。さもないと遊びの予定は取り消しにするよ」

 「わ、分かりました」

 木村の強い口調に思わず声を合わせ敬語になる三人。


 「あ、でも土曜日は竹口さんが来るって言ってたよ。帰って撮影して剣道場にカフェだったら遊ぶ時間ないよ?」

 「それもそうね……日曜日は?」

 「私無理。雨で行けないだろうと思ってもう予定入れちゃった」「悪いけど俺も」

 木村と最上は日曜日は駄目だ。すると中山が手を上げる。

 「はーい。土曜日の撮影ってのが何なのか分からないけど、私達も参加しちゃえばいいと思いまーす。剣道の稽古は途中で二人抜ければ問題なーし」

 「無茶だよ」「さすがになー」「それはなあ」「うーん」

 さすがに皆否定的。

 「……それで行きましょ」

 「ええーっ!」

 しかし中山の強引な計画にナオが乗った。それには皆驚き。

 「と言ってもまずは許可を貰わないとね。後でまた連絡するわね」


 下校しカフェに着いた三人は、早速休日の交渉へ。

 「あの、はしこさん……」

 「何? あ、当ててあげる。うーん、そうねー。また休みが欲しいのかしらね?」

 あっさりと正解を当てられ、溜め息の出る三人。ナオがその顛末を説明した。

 「やっぱり全てお見通しですね。友達に、週に一日は休みを貰いなさいって叱られちゃいました。私達は大丈夫なんだけれど、さもないと遊びに行かせないって言われちゃって」

 それに対して大笑いのはしこさん。

 「あはははは、そうねーいい機会だし、そうしましょ。前々から工藤さんには土日は客が少ないから休んでもいいとは言っていたのよ。でもあなた達が嫌がるからって言われていてねー。あ、ほら本人が来たわよ」



 視点を私、工藤一郎へと戻す。

 週末の分の食材も買ってしまうことにしたので、三人が着く頃を見計らいエリスを連れてカフェへ。予想通り、まだ仕事に入る前の三人がいた。

 「ナイスタイミング。丁度三人から相談を受けていた所なのよ」

 「相談? 何だ、まずい事じゃないだろうな。その前にいつものをよろしく」

 「あ、かしこましました」

 という事で三人は手伝いを開始。私とエリスは定位置へ。はしこちゃんも座り、話を始める。

 「あの子達、遂に観念したわよ。友達に叱られて、週一の休みが欲しいって」

 「あはは、ようやくか。それで、何曜日にしたんだ?」

 「週休二日にするわ。明日から週末はゆっくり休んでもらいますよー。ああでもサイキちゃんは剣道場に行ってるって話よね。それも休みなく行ってるの?」

 「休みなく行ってるよ。ただしこっちは俺が無理矢理に始めさせた事だけど、あっちは自分で希望した事だから、俺はとやかく言える立場ではないんだ」

 という所でサイキがコーヒーとココアを持ってきた。はしこちゃんは仕事へと戻る。

 「聞いたぞ。これからは土日は毎週休みだ。お前は剣道の稽古があるけれどな」

 「分かりました。後もう一つ。明日皆が長月荘に遊びに来たいって。撮影の邪魔はしないので、いいですか?」

 「うーん、竹口に聞いてからだな」


 「……という事なんだけど、どうしよう?」

 「分かりました。こっちは僕とカメラマン一人なので問題ありません。到着は十二時ごろになるので、良ければ奢って下さい」

 「皆俺に昼飯を奢らせようとするよなあ。まあ楽しいからいいんだけど」

 「それはそうですよ。あーどうせだからその友達の写真も撮りましょうか。集合写真を記念としてプレゼントしますよ」

 「それは喜びそうだ。ありがとう、伝えるよ」


 電話を切り、丁度そこに居たナオを手招き。

 「サイキから聞いたろ? これからは週末は休み。それと竹口からオーケーが出たから、明日は友達も一緒に連れてこい。集合写真撮ってくれるってさ」

 「良かった。これで皆とも会えるし、週末は自由時間が取れるわね。……カフェの手伝いは楽しいんだけど、やっぱり拘束される時間が長いからね。中々友達と会えないのが少し、もどかしかったのよ」

 「お前達は無理しなくてもいいんだぞ。長月荘の家賃なんて一週間も手伝えば払えるんだし、それに援助金がもらえれば食費の問題もなくなる」

 「……実は結構自分達のためにお金使ってるのよ。何を、っていうのは内緒ですからね」

 「ははは、それはお前達が自分で努力して手に入れたお金だから文句は言わんよ。そういえばお前達が自分で掃除するようになってから、部屋の様子を一度も見た事がないなあ」

 「そこは乙女のプライベートよ」

 私も無理に見せろと言う気はない。ただ、最初の殺風景な部屋から女の子らしい部屋になっていると思うと、嬉しさを感じる


 「あの、ぼくも働いたらお金もらえるんですか?」

 「エリスはさすがに年齢が低過ぎるよ。ほしいものがあったらお姉ちゃんに頼むか、三人で出し合うようにしてもらいなさい」

 私の提案に、やはり申し訳なさそうなエリス。

 「でもそれって迷惑に……」

 「ならないわよ。そんなに気を使わなくていいの。私達は血は繋がっていないけれど、家族なのよ? 家族に遠慮なんてしないでしょ?」

 ナオの言葉に静かに頷くエリス。もしもほしいものがあったとしても、この子の事だ、高いものを要求する事はないだろうな。

 さて、つまり明日は……九人も来る訳か。これは大変だ。今長月荘にある備蓄だけでは到底追いつかないので、私が両手に持てる分の他に、三人にも買い物をしてもらおう。



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