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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
疾走戦闘編
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疾走戦闘編 18

 サイキが剣道場に行っている間に、二人から今後の予定を聞いておこうか。

 「まず、隣町に遊びに行く時の引率を孝子先生に頼んでおいたわ。最初は渋っていたけれど、青柳さんも行く予定だと言ったらすぐ返事が返ってきた。これってやっぱり……まあいいか。厳密な日程は決めていないわ。天候次第では私達は動けなくなるからね」

 まあそこは仕方がないな、

 「それから早いうちに自衛隊の駐屯地にもお邪魔したいのよね。今更な話ではあるんだけれど、私達の世界には戦う乗りものっていうのがないのよ。そもそもが剣と槍と銃、しかもそれぞれ一種類のみだったじゃない? だからそういう存在があるのならば情報を得て、またリタに一旦帰ってもらいたいのよね」

 「リタも自分の持ち帰った情報が、どれほど効果を上げているのか気になるです。それにエリスが来て分かった事もあるですから」

 「うーん、冬休み中にどうにかなれば良かったんだけど、そんな余裕はなかったからなあ。そっちの予定はそれだけか?」

 頷く二人。

 「ならばこちらからも一つ……なんだが、サイキがいる時にしよう。四人全員に関係する事なんだよ。と言っても難しい事じゃないから構えなくてもいいぞ」


 それから一時間ほどでサイキが帰宅し全員揃った。

 「それじゃあ改めてこちらの予定な。サイキとナオは竹口はじめって覚えてるか?」

 思い出そうという様子はあるが、まず分からないだろうな。

 「SNSの管理人で、この携帯電話とパソコンをくれた人だよ」

 「あ! あの人ね。思い出したわ」

 「そうだ。その竹口にな、お前達の紹介ページの製作を依頼しておいた。あいつはそういう事が本業だからな。そして侵略者の特徴も載せる。確かクリスマスに孝子先生が提案していただろ? あれを作るんだよ」

 「……言ってたっけ?」

 「言ってたわよ」

 「サイキは忘れっぽいです」

 「おねえちゃん……」

 まあまあ。色々あって記憶から抜け落ちていてもおかしくはないからな。

 「それでだ、そこに載せる写真を撮るのにお前達の協力が必要なんだ。侵略者に関してはパソコンで録画映像が見られるようになったからそれを使うとしても、お前達自身のちゃんとした写真はないからな。予定を立てるのが難しいのは分かるが、考えてくれないだろうか」

 三人で顔を見合わせている。そしてリタが提案してきた。

 「そしたら、カフェに行く前に一旦帰ってきて、そこで撮影するです。終わり次第カフェに向かえば、いつでも撮影出来るですよ」

 なるほど、その手があったな。二人もそれでいいようだ。エリスは……載せるのは待ってもらおうかな。


 早速SNSに計画を書き込んでおく。すぐさま竹口から「OK」との書き込み。

 「それで、新しい子の写真は載せないんですか?」

 おっと、そういえばSNSの面子にはエリスを見せていなかったな。その場で改めて写真の投稿方法を教えてもらい、四人揃った写真を携帯電話から投稿。

 「ちっちゃい子が増えてる!」

 「可愛いな。工藤さんうらやまー」

 「サイキちゃんと似てるね。姉妹とか?」

 「他の子も随分表情がやわらかくなったよね」

 「大人っぽくなったなー」

 等など。改めて最初の頃に撮った三人と私の写真と見比べてみると、確かに皆成長のあとが見える。

 「あはは、本当だ。わたし緊張してる」

 「私も随分と固い表情してるわね。リタも耳こんなに下がって」

 「だって、こっちに着てからまだ数日しか経ってない頃ですよ? 何をされるのかと凄く不安に思っていたですよ」

 そんな三人の思い出話についていけないエリスは若干不満そうである。そして眠そうでもある。


 「エリス眠そうだよ。寝よっか?」

 「それじゃあ私もそろそろ部屋に入るわね」

 「あ、ちょっと待って。リタ、機械の事だけど、工藤さんみたいなので頼めますか?」

 「了解です。そうしたら携帯電話の形に作るです。工藤さん、一応スキャンさせて下さいです」

 という事でリタに携帯電話を手渡す。そしていつものようにすぐに返ってきた。

 ……そうだ、リタに一つ聞かなければいけない事がある。他の三人には聞かれたくないな。気付くかどうか、リタに目線で合図を送る。リタは耳を動かした。恐らくは分かったという合図だろう。

 全員二階に上がり、しばし待つ。

 三十分ほどしただろうか。とつとつと階段を下りる足音がする。

 「リタだけに用事、ですよね? 他の三人には聞かれないようにしてあるですよ」

 「さすがリタ、しっかり気付いてくれたな。実はだな……」

 ソファの定位置に座ったリタに私の疑問をぶつけようとしたのだが、本当に聞いてもいいものかと迷ってしまった。先延ばしにしてしまうべきではないかと。

 「エリスの事ですか? それともゲートの?」

 「エリスの事だ。ゲートにも関係するな。……正直、迷ってる。この疑問を聞いてしまうと、戻れなくなる気がする」

 「それでも、言ってくれないと分からないです。すっきりしないままは嫌ですよ」

 リタの声は催促している訳ではなく、ましてや怒っている訳でもない、優しいものだ。


 私は一つの覚悟を決めた。恐らくこの質問は、今後ずっと私を縛り付ける事になる。

 「単刀直入に聞くぞ。エリスにゲートを渡る適性はあるのか? お前達の世界に帰れるのか?」

 私の質問を聞くや否や、リタは固まってしまった。文字通り思考停止状態。思わず不安になる。

 「……リタ?」

 リタはようやく瞬きを一つ。

 「何も聞こえなかったです」

 そう言い捨て、無表情のまま階段を上がり消えた。これが答えだ。

 帰るためにはゲートを渡る必要がある。そしてゲートを渡るためには適性が必要だ。しかしエリスにはその適性がないはず。恐らくはこちらの世界と血が繋がっていないために適性を持っていないのだろう。例え三人と同じスーツを手に入れたとしても、適性がなければ世界は渡れないはずだ。では何故こちらの世界に来られたのか? 答えは単純だ。侵略者世界の技術によって、自分の意思とは無関係に飛ばされて来たからだ。そしてそのような事は、もう二度と起こらない。つまり現段階において、エリスが元いた彼女達の世界に帰る事は出来ないのだ。


 しかし、エリスが二度と帰れないのかというと、そうではないだろう。以前、リタは私に明確な期限を付けて言い切って見せたのだ。五年で私を彼女達の世界に行けるようにすると。その強い希望の言葉を、私は心から信じている。そして私の別世界への旅行時に、一緒にエリスを連れて行けばいいのだ。

 問題は彼女達三人が帰る”その時”に、どうするかだな。遠い別の世界で奇跡的に出会えた姉妹を、また引き離す事になるのだ。これほど気が重くなる事はないぞ。……その前にまずは”その時”を迎えられるように全力を尽くさなければな。



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