疾走戦闘編 4
二人を今年初のカフェへ送り出し、私も昼過ぎに商店街へ。やはり天気が悪いのであまり人がいない。しかし意外な人物を見つけた。あの廃材屋の店主だ。
「お久しぶりです。あの三人がお世話になりました」
「……!」無言だが私の顔を思い出したようで会釈してくれた。
これは丁度いいという事で、私の奢りでカフェに誘う。相変わらず無言だが、芦屋家の兄ちゃんに鍛えられた無言を読む能力を発揮し、おおよそ言いたい事が分かる。
「気にしないで下さい。俺の知り合いの店で、あの三人も手伝いしているんですよ。今は一人休んでますけどね」
カフェに着くと二人がお出迎え。特にリタは店主の顔を見た途端飛んできた。
「あ、あの、廃材屋さんの店主さんですよね? えっと、今度見つけておいてほしいのがあるです。リタ達に使うものではないのでご迷惑になるかと思うので、絶対にという訳ではないですけど、是非お願いしたいです」
リタは注文を取る事なく話す。もう自分の世界に入ってしまっているようだな。仕方がないので私はナオを手招き、注文を頼む。
「……?」店主はリタの話に首を傾げた。これは私からも説明しなければ。
「えっとですね、今俺の車を修理に出しているんですよ。ただ、かなり古い車でエンジンがもう駄目で、丸ごと別のエンジンを載せようかという話になっていまして、それでその候補を探しているんですよ」
「……車種は?」
「えっと、七十九年式の……」
その後は色々と話を聞いてもらったのだが、可能ではあるが茨の道との事。うーん、難しいなあ。
「……工場の番号を」
「直接交渉という事かな? いいですよ。ええと……」
無口な人ほど自ら動いた時は頼れるものだ。いや、自信はなく、何となくなのだが。
話を聞いていると、よく分からない単語が飛び交っている。恐らくは部品名やその型番かな? そして会話の途中で「行ける」という言葉が出た。
「……期待はしないで下さい」
「それでも充分です。ありがとうございますです」
私が言うより先にリタが頭を下げる。本当にあれを直したいのだな。その熱意を感じ取ってか、店主も笑顔を見せる。
会計を済ませての別れ際、店主さんが「私も感謝しています」との事。是非サイキにも聞かせてやりたかった一言だ。後は商店街で買い物を済ませ帰宅。その後は特に襲撃もなく過ぎた。
夜には青柳が来ての報告と晩飯の手伝い。
「今回も特に大きな被害もなく済みました。特に大型深紅二体、それぞれ一体ずつの連戦ではありましたが、その二体での被害が皆無なのが大きいでしょうね。担当はリタさんでしたか。お見事ですよ」
「えへへ、素直に嬉しいです」
いい笑顔だ。最初の戦闘では生垣に隠れて出てこられないほどだったのが嘘のようだな。さすが伸び盛りといった所か。
「改めて、二回の戦闘での死者はゼロ、重傷者1名、軽傷者が4名とかなり抑えられましたね。物的被害は多めですが、やはり国のバックアップが入るので問題ではないでしょう」
「どうよ、二人だけでも出来るものなのよ。見直した?」
自慢げなナオ。リタも同じく。
「ああさすがだよ。でもその強さの根底にあるものの事は忘れないようにな」
「……勿論よ。そっちこそ、さっさとしないと駄目よ」
「当たり前だ」
我々の今一番の課題はサイキの事にある。長月荘の問題は長月荘全体で解決する。サイキの問題もだ。
……ふっふっふっ、こちらはやろうと思えば総理大臣すら動かせるのだぞ? この街位しか知らない小娘に、最早逃げ場などないのだ。
その後のリタの報告により、方角と到着時間を考えると、やはりサイキは金辺市に潜伏中のようだ。
「それともう一つ、サイキがあまり動かなかった理由ですが、もしかしたらサイキのエネルギーが減少しているのかもです。それも結構消費しているはず。一体目の深紅を横取りした時に、恐らく半分以上はエネルギーを使ってしまっているはずです。そうだとしたならば、リタの予想では次でエネルギーが切れるはずです。場合によっては逃げるエネルギーもなくなるので、捕まえるチャンスです」
「ちょっと待て、更新してエネルギーは自動回復出来るようになったんじゃないのか? それに絆での回復も継続しているのならば、減る事はあっても尽きるとは考えられないぞ」
と言うとリタの表情が曇った。
「理由は分からないですが、どうやらサイキのエネルギー回復機能が全面的に停止しているです。リンクした時に気付かれないように探ってみたですが、明らかにエネルギーが減っていて、しかも回復していなかったです。一番問題なのは、同じ事がリタ達にも起こりかねないという事。もしそうなれば、終わりです」
うーん、これは本格的にまずい事になるかもしれないな。今の所こちらの二人にはそのような傾向は見られないが、懸念が現実のものになりそうである。
「とりあえず、お前達が一人でも減るとこの世界には大打撃だ。もしもあいつが危なくなりそうであれば、いつものように援護をしてやってくれよ」
「……了解です」
「我々も動こうと思えば動けますが、本当に構わないのですか?」
「ああ。これくらい解決出来なければ下宿屋の主人は務まらんよ」
青柳とはここで解散。二人も長時間の戦闘と今年初のカフェの手伝いで疲れているだろうから、さっさと寝かせた。
後はサイキの居場所さえ特定出来れば、張り倒してでも連れ帰るだけだ。リタの予想通りならば、エネルギー切れにさえなればサイキの捕獲は容易いし、もし逃げられても、現在の隠れ場所から動けなくなるのは間違いない。
若干可哀想な気もするが、後のためにはこれが最善だという確信があるのだ。