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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 20

 翌日も悪天候は続いている。特にこの日は猛吹雪であり、三人も相当に不快感を露にした表情をしている。

 「これだけ風が強いと、真っ直ぐ飛ぶのにも一苦労なのよ。補正はされるんだけれど、それでも流されるの。天気にだけは勝てないから仕方がないけれど、こんな日には出てきてもらいたくはないわね」

 「ははは。やっぱりお前達の世界でも天気には勝てないのか。そういえば天候を変える技術はないのか?」

 「可能ではあるはずです。でも存在していないです。これも失われた技術の一つかもしれないです」

 ここ三ヶ月での侵略者の襲撃が、全て悪天候の時にしか発生していないというのを考えると、もしも常に晴れに出来れば襲撃抑制にも繋がりそうだ。しかし代わりに干上がってしまうか。難しいな。


 朝九時頃、はしこちゃんから電話が来た。

 「この天気じゃお客さんも来ないだろうし、私も出たくないのよね。悪いけど今日はお休みにするわよ。明日以降はまた当日に連絡するわね」

 だそうだ。まあ確かにこんな悪天候の中を好んで出かける人などそうそういないだろう。風が音を立てている現状、三人も納得せざるを得ない様子。しかし窓ガラスが直って本当に良かったなあ。もしも遅れていたら今頃大変な事になっていた。いや、昨日被害の出たお宅は今頃大変なのだろうからあまり言えないか。

 「これじゃあ美鈴さんの所にも行けないかな。連絡しておかないと」

 「電話使うか?」

 「ううん、携帯電話の番号教えてもらっているから、わたしから連絡出来るよ。折り返しはやっぱり駄目だけど」

 「うーん、渡辺に言ってお前達に専用の電話番号を割り振ってもらえるか、交渉してみるかなあ……」

 「いえ、今の所不便はしていないし、いたずら電話なんてされたら私達の気が滅入っちゃうわよ」

 なるほど、ならば現状維持にしておこう。


 昼食の料理中、三人から声が上がる。

 「本当に嫌なタイミングで来てくれるわね、全く」

 「まずは青柳とだな。場所と種類は?」

 「えーと、丁度菊山神社かな。そこに……これ何だろう?」

 首を傾げている三人。どういう事だろう?

 「うーん、見た事のない反応なのよ。小型種に近い敵性反応ではあるけれど、弱くて今にも消えそうな感じ。吹雪の影響かしら? ともかく、行って確認するしかないわね。何があるか分からないから、二人とも気を引き締めて行くわよ」

 「うん、分かった」「了解です」

 玄関ドアを開け、外の様子を見て一瞬躊躇する三人。しかしそれでもめげずに現場へと急ぐ。私も青柳と共に三人と接続。飛行中の三人の視界は真っ白であり、各々急造した高光度ライトを頼りに距離を保っている様子。

 「そろそろ菊山神社上空に到着するわ……って、何これ? 神社の周りだけ雲がない。不思議」

 「わたし達には好条件だよ。さっさと終わらせて帰ろう」


 「あ、いたよ! いたけど……人?」

 最初に見つけたサイキの目線映像からは、今までのどの侵略者とも符合しない外観。一見して子供が倒れているようにしか見えない。しかし髪の色が赤系で、一見してサイキに似ている感じ。

 「人に擬態出来る新型という可能性もあるのではないでしょうか?」

 「わ、分からない。分からないけど……何、何なの……」

 「お待たせ!」「合流です」

 二人も現場に到着。

 「確かにただの子供に見えるけれど、でも反応がある限りは敵と認識すべきよ。青柳さんの言う通り、人に擬態している新型かもしれないでしょ、見た目に惑わされて気を抜かないように!」

 「了解です。先手必勝、この場から狙撃してもいいですか?」

 「ま、待って……うっ……頭が……」

 「どうしたサイキ?」

 突然頭を抱え苦しみ出すサイキ。二人も不安そうだ。

 「わたし……あの子……うっ、うぁぁ……」

 「サイキ!? もしかしてあいつの仕業? リタ、さっさと終わらせましょう!」

 「念の為挟み撃ちにするです」


 移動し着地、息を揃える二人。一方の謎の”それ”は未だに倒れたまま微動だにしない。

 「おい、もしかして本当に人なんじゃないだろうな?」

 「……正直判断がつかないわ。でも、レーダーでは敵性反応を示しているのよ。どちらにしろ放っておく訳にはいかないわ」

 サイキは未だに頭を抱えて苦しんでいるが、目線は真っ直ぐに”それ”へと向けられている。

 「あの子……えっと……え……エ……エリ……っ」

 「リタ行くわよ! せーのっ!」

 「待って!!」「なっ!?」

 サイキが謎の”それ”の前に立ち、手を広げ、ナオを制止する。

 「サイキ、あんた!?」

 「お願い、ここはわたしに任せて!」

 「……リタはどうすれば?」

 サイキはナオを睨み付け嘆願している。あのゲル状の敵と対峙した時に近い威圧感がある。一方のナオは困惑した様子。いや、ナオだけではないな。サイキ以外の全員が困惑している。


 「っ……」

 ずっと倒れていた”それ”が動いた。それを見てナオもリタも改めて構え直す。

 「サイキ、退きなさい」「駄目、退かない」

 二人の睨み合い問答は続いている。一方のリタは照準を”それ”へと向け続け、様子を覗っている。更に”それ”が動き、顔を上げた。

 「――?」

 喋った。しかし何を喋っているのかは分からない。聞き取れるほどの音量でもないし、恐らくは私の知らない言語であろう。

 「……リタ!」

 ナオからリタへ指示が飛ぶ。一瞬戸惑うリタだが、しかし引き金に指を掛けた。

 「駄目!」

 サイキが”それ”を抱え上げ、逃げ出した!

 「何だ、どういう事だ!? サイキ! 説明しろ!」

 「ごめんなさい。でもここは引いて下さい、お願いします!」

 そう言うとサイキは私との接続を切断した。何がどうなっているんだか。

 「あいつ、私達とのリンクも切断した! 信じらんない!」


 吹雪の中逃げ始めるサイキ。それを追う二人。

 「サイキ止まりなさい! さもないとあんたごと攻撃するよ!」

 ナオも警告にも馬耳東風。仕方なくナオは投擲姿勢へ。

 「おいおい本気か!?」「本気よ!」

 こうなると私や青柳はただ見ているしかなくなる。歯がゆい思いをするしかない。

 投擲された槍はサイキへと突き進む。ギリギリの所でサイキはそれを避け、そしてようやく止まった。リタはナオとサイキの横をかすめ、反対側に回り込み、サイキは挟み撃ちの態勢となった。

 「サイキ! あんた何考えてるのよ! 早く”それ”をこっちに渡しなさい!」

 「……ごめん、でもこれはわたしの問題なんだ。分かって! 今はわたしに任せて!」

 鬼気迫る強い語気のサイキにナオも迷っている様子だ。しかし”それ”が完全に目を覚まし、サイキと”それ”が何か喋っている。吹雪の中なので声も表情も読み取れない。そして”それ”自身がサイキへと強く抱き付く。

 「ナオ、リタ、お願いだから引いて。わたしは二人とは戦いたくないんだ」

 片手の空いたサイキが剣を取り出した。日本刀でも月下美人でもない、一番軽い最初の剣だ。恐らくは片手で扱うためだろう。


 「サイキ、あんた本気なの!? 二対一だよ! こっちはリンクしているんだよ! あんたに勝ち目なんてない!」

 「……じゃあこうすればいいっ!!」

 振り返り急加速しリタへと切りかかるサイキ。一瞬の事でリタは防御を間に合わせるだけで精一杯。64式を盾にどうにかサイキの斬撃を防ぐも、体格や経験の差から明らかに押されている。

 「サ、サイキ……なんで……」

 「リタごめん」

 一瞬離れたサイキの動きに付いて行けずリタが姿勢を崩した。そしてサイキは体を回しかかと落とし。

 「うぁっ……」

 リタは地面へと墜落。ナオの視点からは視界不良のためにリタがどうなったのかが分からない。リタの視点映像は途切れている。

 「リタ! リタ!! あいつ本当にやりやがった……。ナオ、気を付けろ! あいつ本気だぞ!」

 「言われなくとも!」


 「サイキいいーっ!」

 ナオがサイキへ攻撃を開始。しかし避けられる。何度も攻撃を加えようとするが、素早い動きに翻弄されがちだ。

 「ちっ、相手にするとこんなに厄介だとは!」

 自らリンクを断ち、更には”それ”を抱えながら、かつ片手しか使えない状況のはずなのだが、ナオの槍撃を全て防ぎ逃げ切っている。私ですらサイキの化け物ぶりが分かるほどだ。

 「ごめん!」

 サイキの剣が光る。仲間相手にFAを使うとは。それに驚きナオは槍を両手で横に持ち、防御姿勢を取る。サイキの剣が振り下ろされるが、槍へと当たる直前でFAを止めた。やはり本気ではないのか? しかしサイキはそのまま力で押し通る気だ。徐々にナオが押されていく。腕一本で体格差のある相手を押せるとは、何なんだこいつは。

 「あんた……何……考えてん……の、よ……っ!」

 「ごめん、落とし前はつけるから、今は引いて! じゃないとわたし、ナオを倒さないといけない!」

 「私を……倒すっ……何を……」

 サイキは一層力を入れた。強く押し飛ばされるナオ。姿勢が乱れた一瞬の隙を突かれ、回し蹴りを食らい大きく吹っ飛ばされてしまった。


 「おいナオ! 大丈夫か!」

 「……ったあーい! あいつ、絶対に許さないんだから!」

 しかし視界には既にサイキの姿はなく、吹雪の中なので余計にその姿を捉える事は困難だ。元の辺りまで来たが、やはり姿はもう見えない。

 「仕方がない、戦闘中止。リタを拾って一旦戻れ」

 「あいつーっ! ……はあ、リタ探すわね。リタどこー!」

 高度を取ったナオの視点に緑の光が見える。あれだな。降りてみるとリタは民家の庭先に倒れていた。枝が落ちているので、木が緩衝材の役割を果たしたのだろう。

 「息はあるわね。リタ? おーい」

 頬を叩くとリタが動いた。どうやら気を失ってるだけのようだ。

 「ナオ、そのまま抱えて戻ってこられるか? 無理ならば青柳に頼むが」

 「大丈夫よ。あいつが出来た事を私が出来ないはずがないじゃない。すぐ戻ります」



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