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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 19

 「……低気圧が発達して、今日から四日間は天候が大荒れになるでしょう」

 いやあ、まずいな。今日はともかく明日以降は彼女達のカフェの手伝いも再開するというのに、荒れるのは勘弁してほしい。しかもこの時期だと吹雪になる可能性もある。視界不良の中での戦闘ではストレスも溜まるだろうな。

 「所でどれくらい視界が悪くなるのよ? 私とリタはそもそも雪すら見た事がなかったんだから、事前に状況は把握しておきたいのだけれど」

 「わたしが経験した中で一番酷い時は、ホワイトアウトして数メートル先も見えなくなったよ。見えてきた影が敵か味方か障害物かすら分からないし、自分が今どの方角を向いているのかも分からなくなる。結局は戦闘継続不可能と判断されて、天候回復まで戦場を放置する事になったけど」

 「ここは北国じゃないからそこまで悪化はしないと思うけれど、何かしらお互いの位置が分かるようにはしておくべきだろうな」

 「……分かったです。急遽レーダーに細工を施すです」

 早速リタは部屋へと篭る。しかし敵味方の識別くらい出来ないのか? お粗末な出来と言わざるを得ないぞ。

 「識別は出来ます。ただそれ以外も映っちゃうので、街中で使うとレーダーが真っ赤っかになっちゃいます。なので初詣の時には皆にビーコンを持たせました。これならば映るのはわたし達と侵略者だけ。今回もビーコンを持てばいいんだけれど、あれは簡単に反応が阻害されちゃって、例えば地下に入ると、同じフロアにいないと探知出来なくなります。吹雪の中だと多分使えないんじゃないかな」

 「とんでもない技術力を持っている割には、そういう所は何か抜けているよな」

 私の一言に、説明していたサイキではなくナオが推論を述べた。

 「もしも、だけど。私達の世界から武器がなくなったのが意図的なものだとすると、その時に周辺技術も持って行かれちゃった可能性があるわ。だから普段使えそうな技術ですらも発達を阻害されてしまって、変な方向に向かってしまった」

 うーん、とするならば、本格的に自衛隊の持つ軍事技術を手に入れたい所だなあ。総理大臣に泣きつくか。


 昼前にはリタが降りてきた。もう出来たのか?

 「技術があー……足りないですっ」

 大袈裟にがっくりと肩を落とすリタ。失敗の様子。

 「ははは、やっぱりそう簡単には技術の溝は埋まらないか。それじゃあ今回は光るものを取り付けて行こう。吹雪の中でも光は結構遠くまで届くからな」

 と言うとまたリタは大急ぎて部屋へと篭る。しかし技術が足りないというリタの嘆きは結構重いな。彼女達にとっては、それこそ死活問題だ。

 「ああそれから、雪は音を吸収するから、あの悲鳴のような音はここまで届かない可能性がある。二人ともレーダーへの注視をよろしく」

 「はい!」

 戦闘の事となると、相変わらずいい返事が返ってくる。私は笑顔でそれに答える。


 「来ちゃった。リタ間に合わないか」

 時刻は昼の二時半を少し回った頃。やはり音がしなかった。慌てて青柳と全員接続。すると更に大慌てでリタが降りてきた。

 「ギリギリ間に合ったです。それぞれの色で強い光を発するので、タイミングを考えて使って下さいです」

 「じゃあ行きます。二人とも、強くなったわたし達を見せるよ!」

 早速三人出撃である。

 「青柳すまんな、正月休みだったろうに」

 「いえ、警察ですから。それと神社では髪の色を変えていても目立っていましたよ」

 見られていたか。まあそっちも子供達に見られていたのだからお互い様だな。

 「侵略者だけど、結構まずいよ。一体はあのゲル状の奴で、もう片方は大型拠点防衛型が三体揃ってる。位置も街を挟んだほぼ真逆」

 三人は上空でどうしようか決めあぐねている様子だ。

 「じゃあリタとサイキでゲル状に対処、大型セットは私が時間を稼ぐから、さっさと合流して。待ち時間はないよ」

 ナオの指示で各々向かおうとするが、私には引っかかる事があった。

 「ちょっと待った。ゲル状はリタだけで対処。大型にサイキとナオだ。リタ、ゲル状の倒し方は分かっているな?」

 「衣を剥いでコアを叩く、です」

 「ちょっと工藤さん、サイキの因縁の相手よ? リタ一人じゃ危ないわよ!」

 「いや、恐らくはリタ一人で充分だ。あの時とは全ての状況が違うんだよ。気温も違えば雪も降っている。お前達の武器や装備も違う」

 「わたしは工藤さんに賛成。でもリタ、あれとは充分距離を取ってね」

 私の指示にリタとサイキは賛成。リタは先に現場へと向かう。

 「……ちっ、じゃあリタ任せたわよ」

 舌打ちをされてしまった。私は苦笑いを一つ。


 先に到着したのはサイキとナオ。海沿いで建物があまりない、これから造成されると思われる地区だ。そこに固い胡麻プリンのような概観の大型拠点防衛型が、南北に並んで三体綺麗に整列している。まるでこの野原が拠点だとでも言いたげ。

 天候は非常に悪く、海沿いなので風もかなり強い。凄く寒そうであるが、彼女達のスーツはマイナス五十度までは体温調節出来るはずだ。

 「復習すると、真上からの攻撃に一番弱いはずよね。そして一体になって上部が破壊されると自爆を開始する」

 「じゃあわたしがナオのサポートに入るね。ナオは一体ずつ確実に仕留めて」

 「オーケー、背中は任せたわよ」

 サイキはまず三体の気を引く事から始めた。ナオは大回りで上空へ。三体はサイキにしか気が付いていない様子。サイキの動きはさすがといった所で、三体の波状攻撃もひょいひょいとかわし続けている。

 「まずは北のを潰すわよ。サイキ、大丈夫ね?」

 「問題ない。やっぱり更新のおかげで動きが軽い。リタに感謝」

 「……ねえ、ちょっと待った。新しい槍を投げてみてもいいかしら?」

 「うん、わたしには当てないでね」

 早速試してみるようだな。取り出したのはリタ考案の投擲用の槍。いざ投げるのは初めてであり、どういう挙動をするのか計り知れない。吹雪の中なので二人の表情も確認出来ない。

 「せーのっ!」

 投擲された槍は急加速し真っ直ぐに、かつ回転し螺旋の渦を描きながら侵略者へと突き刺さる。いや、突き刺さる所の話ではなく、隣の敵にまでもダメージを負わせている。狙われた北側の大型侵略者はあっさりと一撃で消滅。その威力にサイキもナオも唖然。

 「もう少し近かったら巻き込まれる所だった! ナオ! 範囲広過ぎだよ!」

 「わ、私に抗議しないでよ! 私だってびっくりしているんだから!」

 するとリタから通信が入る。

 「言っていなかった事があるです。攻撃範囲は最大で半径五十メートルです」

 「遅い!!」

 二人声を揃えてリタを怒る。リタの照れ笑いの声が聞こえるが、これは間違いなく本当に怒っているぞ。


 「という事で到着したです。確かに中型ゲル状、前に見たのと同じです。でも……固まっているですよ?」

 襲撃場所は運良く畑の中だ。見ると確かにゲル状の敵は動かずじっと固まっている。

 「油断はするなよ。今の所小型黒の次に危険な相手だからな。そこからでもコアを狙えそうか?」

 「うーん……」

 例の新しい対戦車ライフルを出し、スコープを覗くリタ。

 「行けるです。まずは周りの溶解液の衣を剥ぐです」

 すっかり戦場の兵士の貫禄を見せるリタ。これも一つ調子に乗っているのかな。

 「一発目、撃ちます」

 引き金が引かれ、今までので銃とは全く違う、まるで爆発音のような銃撃音がする。放たれた弾丸だが、残念ながら外れ。

 「あ、あれ?」

 更にもう一発撃つが、やはり外れる。私はその理由をすぐに推測出来たが、リタは訳が分からないという様子。

 「リタ、風を読め。弾丸は小さくても風があれば流される。少し風上を狙うか、風に水平に対峙しろ。それで当たるはずだ」

 「分かったです。少し風上……撃ちます」

 再度放たれる弾丸。私の予想通り、ゲル状の敵へと命中……したのはいいのだが、衣を剥がす前に一発でコアに命中してしまった。

 「あっ!」

 思わず声の出る私とリタ。急いでリタは距離を取る。爆発音の後静寂。

 「……よ、様子を確認するです。えっと、ごめんなさいです」

 しょぼくれた声を出し、現場を確認するリタ。

 「えっと、うん? 氷の破片が散乱しているです。それだけ……クリア確認、です」

 「後の現場処理は我々に任せて、リタさんはお二人の所へ」

 「リタそのまま帰っていいわよ。こっちは今の感じだと、リタが着く前に終わるわ」


 同時刻、サイキとナオの現場。

 「次は南の奴。ナオ、わたしが離れてから投げてよ!」

 「もう、分かったわよ!」

 一旦投擲した槍を取りに降りてくるナオ。それを見てダメージを負っている単発型がナオへ向けて攻撃を開始。ナオは早速サイキと同じになった統合姿勢制御装置の試運転。私から見てもその動きはサイキと同等と言って差し支えない。

 「あはは、当たらない当たらない。サイキ、あんたこんな動きしてたんだね。壮快だわ! よくもまあ思いついたものね」

 「……うん」

 本人は自身の動きの軽さに浮かれて気が付いていないようだが、サイキの地雷を踏んだようだぞ。

 「そろそろ行くわよ」

 「ちょっと待って。……うん、大丈夫」

 「そーれーじゃーあっ!」

 二度目の投擲。やはり急加速し風が螺旋を描く。しかし今度は丁度強風が吹き、若干狙いが外れた。

 「あっ!」

 こちらも二人して声が出てしまっている。刺さった場所は器用なもので、台形の敵の北側斜面中央部だった。しかし攻撃範囲の広さが幸いし、問題なく一体撃破。そしてもう一体も運良く巻き込み撃破。一回の投擲で大型を二体撃破だ。

 「えーっと、南東クリアね。何か締まらないわ」

 「倒せたんだからいいんじゃない? でもそれ強いけど危ないよね」

 「ええ、場所を考えないと駄目ね」

 各々課題を残しての強敵撃破である。


 「リタ何処にいる!」

 帰ってきて早々にリタに噛み付く二人。最初は笑って誤魔化していたリタだったが、さすがに反省したようで最後は耳が下がり小さくなっていた。特にナオから「主任の自覚が足りない」と言われたのが効いているようで、半ば涙目になっていた。

 夕食前に青柳が来た。勿論夕食の予約電話は貰っている。食後に戦果報告。

 「先に南東の大型三体から。人的被害ゼロ、物的被害は侵略者の真下に空のプレハブ小屋があり、それが完全に潰されていました。他は何もありません。一方西のゲル状の敵ですが、こちらも人的被害はゼロでした。もしもお正月の商店街にでも現れていたら大変な事態になっていた事でしょうが、問題なくて一安心ですね。それから物的被害ですが、最後の爆発で民家一軒の窓ガラスが割れました。それだけです。視界不良な上に強敵という非常に良くない状況でしたが、運が味方してくれましたね」

 「よかったよかった。くじ引きでハズレだったのは正解だったな」

 三人、特にリタは安心した表情。

 「そしてゲル状の敵ですが、やはり凍っていました。そこまで気温が下がってる訳ではないので、恐らくは元々寒さに弱いのではないかと。凍っている破片を一つ解かしてみたのですが、結構温まらないと溶解しませんでした。もしも相手を凍らせる武器が作れたのならば、恐るるに足りぬ相手になるという事ですね」

 因縁の相手であったはずのゲル状の敵が、こうもあっさりと倒された事に、サイキは落胆の色を隠せない。

 「強くなる度に、わたしの過去って何なんだろうなって思っちゃって。消せない過去なのは分かっているけど、その価値が希薄になっていくようで……」

 しかしそれに喝を入れたのはリタだった。真剣な表情でサイキを一点に見つめる。

 「技術とは進歩して当たり前の世界です。でも進むためには過去が必要不可欠です。その価値が希薄になったと感じているのであれば、それはサイキ自身が過去を後悔し、進むのを何処かで拒否しているという事です。それは過去をしっかりと認め切れていないという事です」

 そのリタの言葉に涙ぐむサイキ。

 「……リタに言われるとは思わなかったな。やっぱりわたしもまだ過去に甘えているんだね。これじゃあ駄目だよね。頑張らなくちゃ」

 手を伸ばし、笑顔でサイキの頭を撫でるリタ。さすが人心掌握に長けているだけはある。


 「でも、連絡事項は忘れないようにしてね」

 「うっ……ごめんなさいです」



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