快速戦闘編 18
今日の私は朝からテレビにかじりついている。箱根駅伝を見るためだ。昔はどうとも思っていなかったのだが、年々良さが分かってきたというか、私の中での決まり事と化している。一方の三人は何が面白いのやら、という表情。駅伝では山登りが開始される。
「リタも潜在能力ではこういう事が出来るはずなんだけどなあ。お前動きは早いけど体力が付いてきてないから、体力作りしたほうがいいぞ」
「カフェのお手伝いだけでは足りないですか?」
「一日十キロくらいは走り込みしないと駄目だな」
耳が下がり頬が膨れる。やはり運動は嫌か。
「二人もこっちに来てから体力落ちてるんじゃないか?」
「快食快眠でむしろ体力がついてきているわよ。私達の世界では体力を削る事はあっても、完全回復する事なんて中々なかったから。例えば怪我して入院でもしない限りはね」
「本当、休むのも大切だっていう事を実感しているよ。わたしの場合は少し特殊ではあるけど」
「うーん、まあいい方向に向かっているならば文句はないよ。ただしリタの持ち帰った中間報告が整理されて、帰ってみたらお前達は相対的に弱くなっているかもな」
「それこそ歓迎すべき事よ。そのための私達ですからね」
最後の一言で笑顔になる三人。結び付きの固さには感服しきりだ。
昼の二時頃、三人を連れて商店街へ。
「写真の現像が最初だな。その後は買い物と福袋とくじ引き。年の初めで安売りもしているだろうな」
「はーい、福袋って何ですかー」
やる気のなさそうに質問してくるナオ。正月に疲れたか。
「中身の見えない袋に色々な商品を詰め込んで売ってるんだよ。一種の賭けだ。これも風物詩の一つだな」
「中身……スキャンすれば見えるです」
「絶対にするなよ」
冗談である事は分かっているが、否定のために首を横に振るリタ。そういえばスキャン出来るのってリタだけなのだろうか。
「リタは専用の装備を積んでいるです。技術者用なので戦闘にはあまり役立たないですが、何かに使えればとは思っているです」
「うーん、さすがに投げつける訳にもいかないし、割り切るべきじゃないかな」
やはり商店街では三人はよく声を掛けられる。と言っても年始の挨拶程度で警戒なんてしていないのだが。私は写真館へ現像をお願いした。すると年代物が来たと喜ばれてしまった。現像するのにも時間が掛かるので、その間に買い物を終える。するとくじ引き券が三枚。どうせならば福袋も含めて三人に全て託そうか。
「五千円分から選べよ」
「あの、お年玉使っちゃってもいいかな?」
「それは自由にしていいぞ」
買い物袋と、三人が厳選した五千円の福袋と、サイキが個人的に買った三千円分の福袋を手にいざくじ引きへ。
「緊張するなあ、わたしこういうの初めてなんだ」
「私は今の分隊に配属された時、くじ引きだったのよ。何処に入っても変わらないっていう意味でだけど」
「リタは運には頼らないです。だから運は貯まっているはずです」
各々期待に胸を膨らませている様子。さて結果はどうなるかな。
「……」
「あっはっはっ、そういうものだよ。そう残念がるなよ」
荷物に箱ティッシュが三つ増えた。
サイキは元気に回したが、白がハズレだと聞いて、傍から見てもがっくりとしていた。ナオは自信満々ではあったが、同じく白い玉に玉砕されていた。最後のリタは物凄く慎重にゆっくり回していたのだが、姑息な手段は通用せず、ふくれっ面で帰ってきた。
「リタ、あれ本当に当たりが入っているのか調べてよ」
「えっと、多分怒られるのでやめておくです」
「まあこの運は戦闘に使いましょ」
その後再度写真館へ。
「すみません、全部駄目になっていますね。感光したという感じではないんですけど、うーんこんな事初めてです」
「駄目元だったので気にしないで下さい」
やはり世界の壁は越えられなかったか。これはやはり私自ら乗り込むしかないな。
帰宅した所でトラックが一台止まっている。荷台にはガラス。でも業者を呼んだ覚えはないぞ。
「ああ渡辺様からからご依頼がありまして、既にお金も頂いています」
また渡辺か。ブルーシートを外し、サイキに持たせていた窓枠を取り出し、後は業者にお任せ。あまり驚いた様子ではないのは事前に渡辺から聞いていたのかな? しかしブルーシートがないと家の中が寒いな。
「一時間も掛からないと思いますので、すみませんがその間はご辛抱下さい」
相変わらず作業と聞くやリタは興味津々。しかしすぐに飽きたご様子。それよりも興味は福袋にあるようだ。ガラスの取替え作業は一時間所か三十分程で終わった。
「いやあ儲からせていただいています」
と言うので何の事かと聞いたら、襲撃によって窓ガラスがよく割れるので、売り上げが伸びているそうだ。
「喜んじゃいけないのは分かっているんですけどね、商売人としては笑いが止まりませんよ」
悪そうな笑顔を見せ、帰っていくガラス業者。三人の胸中は複雑そうだ。
「さて福袋の開封式を始めますか。先に言っておくけれど、あまり期待するんじゃないぞ。在庫処分品も混ざっているからな」
例年はハズレ品は住人へと回しているのだが、今年は子供三人が相手だ。余ったら青柳やはしこちゃんに回そう。さて袋を開け、商品をテーブルに並べる。
「……で、どうなのよ?」
「うーん、まあ予想通り普通だな。ああでもお肉引換券は当たりだな。これは俺でも着られるから……まあ普通だ」
「普通なのね」
「普通だ」
良くも悪くもない。子供達にも好きなものを持っていかせようと思ったのだが、三人とも悩んだまま固まってしまったので後回し。
「次にサイキのはどんなだ?」
「うーん……部屋で見てくる」
いかにも楽しそうな足取りで部屋へと向かっていった。確かに開封が一番の楽しみ所だからな。
「いいなあ、私も買えば良かった」
「今から行って買ってくればいいじゃないか。ただあの人の数だともうなくなっているかもしれないけどな」
物凄く熟考した結果、サイキの中身を見てから決める事にした様子。そしてほどなくサイキが降りてきた。
「三千円だもんね、こんなものかな。お菓子が中心だったよ」
「だそうだぞナオ。買いに行くか?」
「いえ、やっぱり三千円分自分の好きなのを買うわ」
賢明な選択だな。しかし、もしまた商店街に行くのであればお肉引換券を頼もうと思っていたのだがなあ。明日行けばいいか。