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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 17

 サイキが早速命名された”月下美人”を構える。子供達は、サイキがあの長大な剣をどう振り回すのか興味津々である。昨日の時点では簡単な素振りで済ませていたので、まあその程度ではあろうが。

 「じゃあちょっと振るよ」

 何となくだが、子供達を下がらせた。最初は普通に振っているだけだったのだが、やはり乗ってきたようで動作が大きくなる。二連撃になり、三連撃になり、体を大きく動かし始めた。子供達を下がらせたのは正解だったな。

 「おお風が来る」「調子に乗るパターンだね」「失敗したら危ないよー」

 子供達の反応は様々。男二人はノリノリ、相良と木村は冷静に分析。中山と泉は心配そうである。

 サイキの動きが変わった。今までは振り回され気味だったのが、剣を一瞬で止めるようになる。剣に内臓されているアンカーを使い始めたのだろう。すると不思議な動きをした。大きく横に振った剣を止めると、それを軸として自身が滑るように円運動を描きそしてまた横方向への薙ぎ払い動作へと繋げる。剣と自身で交互に半月を描いているようだ。

 「あれはトラバーサーを上手く使ったのかな。もしも今の動きをこの一瞬で考えたんだとしたら、あの子やっぱり化け物だわ」

 「勝てる気がしないってか?」

 「前までならばね。今はいい所まで行けると思うわよ? それくらい今回の更新は大きい。ブースターやサーカスは載せていないけれど、それでもサイキとほぼ同じ装備になったんだもの。同じ土俵に上がってしまえば私だって負けていられないわ」

 話の途中でサイキが停止し剣を仕舞う。拍手が上がり、照れくさそうにしており可愛い。ナオの話では、二人もサイキ並に強くなったという事になるのか。


 「子供達は昼飯どうするんだ?」

 「あたし食べてくるって言っちゃったけど」「私も」「俺も」

 皆長月荘で昼食のつもりだったか。まあ賑やかなのでいいだろう。ただしサイキと最上には台所を手伝ってもらう。

 「いっそ二人に作らせちゃえば?」

 という相良の提案。うーん、それも面白そうだな。

 「よし、そうしたら二人に完全に任せよう。食材はあまり使い過ぎるなよ」

 台所を二人に任せて子供達の輪の中へ……は入れないな。さすがに四十五年もの歳の差は埋められない。しかし子供達の話の中では面白い話が出ていた。

 「リタちゃんの銃と、サイキちゃんの剣を組み合わせれば銃剣になるだろ、ナオさんの槍と銃を合わせればガンスだろ」

 「でも器用貧乏になる気がするです。発想はいいけれど、実戦向きではないと判断するです」

 「あら、そうかしら。試しに作ってみるのもいいんじゃない? そのために私達がいるんでしょ?」

 リタは大きく唸っている。これはいっそ画像でも見せてみたほうが良さそうだな。パソコンを自室から持ってきて子供達に渡す。やはり現代子、私の操作よりも数段早く該当の画像を見つけてきた。

 「ついでだからお前達の知る限りの画像を色々見せてやってくれ。少しでも情報は欲しいからな」


 「お昼ご飯出来ましたよ」

 運ばれてきたのはいかにもカフェで出そうなランチメニュー。はしこちゃんの所にもありそうだな。

 「えへへ、実は真似しました。簡単に大量に作れるからいいかなって」

 なるほど、経験が生きたか。味は上々であり、これならば若夫婦でカフェを開けそうだ。

 「そういうのっていいですよね」

 「泉さんは料理しないのー?」

 「本当は色々お料理をしたいんだけれど、親が包丁を握らせてくれなくて。だから料理の出来る女性っていうのに憧れがあります」

 「ははは、全く同じ事を考えている奴を知っているぞ。な? リタ」

 泉の顔を見て頷くリタ。その意味を理解し笑っている泉

 ナオも似たような夢を抱いてはいるが……別世界だから仕方がないな。

 「何見てるのよ」

 まずい、気付かれたっ!


 昼食後、談笑している九人の中学一年生達。

 「あ、工藤さん一つ聞きたいんですけど、嫌ならば答えなくてもいいんですけど、あたしとサイキって親戚じゃないですか。ナオちゃんとリタちゃんの親戚ってどんな人なんですか?」

 戸惑う質問が来たなあ。二人の顔を見ると興味がありそうだが、中々難しいな。うーん、何処に住んでいるか程度ならば大丈夫かな。

 「ナオの親戚は隣街の金辺市にいて、リタの親戚は市内にいたよ。どちらも昔の職業とは関係のない、ごく普通の方だ。でもこれ以上は俺の口からは言えない。先方からの了承も貰わないといけないからな。すまんな」

 「いえ、それだけ分かれば充分よ」

 「いつか出会えたら一番いいですけど、そこまでは迷惑はかけられないです」

 「俺もそのうち会わせてやりたいけれど、色々と難しい問題なのは理解してくれ」

 二人頷く。サイキは相良と目が合う。

 「わたし達みたいには上手くは行かないよね」


 昼の一時前には解散する運びとなる。帰り際、最上に話しかけられた。

 「クリスマスの時に妹と喧嘩したって言いましたけど、あの後プレゼント買って帰ったら見事に仲直りしました。アドバイスありがとうございました」

 しっかり頭を下げてくる。何だかんだで皆礼儀正しい子達なのだ。

 「ははは、やっぱりな。兄妹仲も一層深まったんじゃないか?」

 「そうですね。髪留めをプレゼントしたんですけど、あれ以来毎日付けています」

 嬉しそうな表情の最上。よきかなよきかな。

 「それじゃあお邪魔しました。本年もよろしくお願い致します」

 「いたしまーす」

 そして友達の中では一番礼儀正しい泉と、それにに続く一同。やはり泉は司令官が似合いそうだな。本人に自覚はないようだが、会話を見ていると結構な頻度で自然にまとめ役になっているのだ。


 皆手を振り帰って行く。玄関ドアが閉まるとナオが一言「お正月もいいものね」との事。

 「お前達が無事任務達成したら、暦にお前達の事が載るかもな。世界奪回記念日、みたいな感じで」

 「さすがにそれはないと思うわよ。私達だって戻れば普通の兵士と技術者よ。正直、戻った次の戦闘で死亡なんていう事も有り得ますからね」

 「縁起でもない事を言ってくれるなよ。俺としてはお前達さえ良ければ……いや、これは言わないでおくべきだな」

 「もう言ったも同然じゃないの。気持ちは有り難いけれど、私達の背負っているものはそうそう降ろす訳にはいかないのよ」

 改めてそう言われると、彼女達が普通の女の子に戻る日が本当に来るのだろうかと、疑問に思ってしまう。恐らくはあちらの世界に戻ったとしても、当分はろくな生活が出来ないのだろうなあ。



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