快速戦闘編 16
本日は一月一日、元旦である。彼女達にとっては何も特別な事のない普通の一日という感覚。それでも友達と会える事に楽しみを抱いてはいるようだ。朝食は雑煮とお節。さすがにお節までは作れないので商店街の総菜屋のものだ。
「美味しいんだけど、豪勢ではあるんだけど、質素よね」
「言いたい事は分かるが、そういうものだから我慢してくれよ」
食事中電話が鳴る。木村からだ。時間の打ち合わせかな? ナオに代わろう。
「十時に菊山神社に集合ですって。それと終わったら一旦皆でこっちに来たいって言うんだけど、大丈夫かしら?」
「ああ構わないよ」
いい時間になったので菊山神社へと向かう。道中三人には髪の色を変えてもらう。かなりの人出が予想されるので、その中で目立ってしまうと騒動になりかねないとの判断だ。三人も私の説明に納得し、了承してくれた。
「本当に人だらけね。ちょっと工藤さんこれ、ビーコンなので持っていてもらえます? 大丈夫だとは思うけれど、もしもはぐれた場合はそれで位置を把握するわ」
差し出されたのは小さな赤いビーズのようなもの。いつか見たものと同じだ。
「あーいたいた! おーい!」
飛び跳ねながら大袈裟に手を振る女の子がいる。中山だ。横には木村もいる。
「あけおめー」「あけましておめでとうございます」
「ねえねえナオちゃん、あけましておめでとうって意味分かってる? 年が明けたから鯛が食べられるって意味だよ」
「二人ともあけましておめでとう。あい子は相変わらずね。残念だけど工藤さんから教わっているから引っかからないわよ。それで他の人は?」
「泉さんと相良さんは一緒に来るって。男子二人も多分そろそろ……あ、来た来た」
最上と一条も到着。本当に仲がいいな。
「お、いた。あけましておめでとうございます」「あけおめでーす」
男子が到着して数分で泉と相良も到着。
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」
「泉は固いねー。皆あけましておめでとう。変わりはない?」
「あけましておめでとう」
こちら三人と、ついでに私の声も揃う。
「わたしは……えへへ、装備と武器が一新されたの。二倍強くなったよ!」
「サイキが二倍なら私は三倍ね。まだ実戦では試していないけれど、かなりいい感じになったわよ」
「リタも戦力強化ばっちりです」
さすがに二倍や三倍は針小棒大だろうが、リタの説明でもサイキはあれで真価を発揮していなかったと言っていたし、もしかしたらそれに近いほどは強くなっているのかもしれないな。ナオは私と同じく皆にビーコンを配っていた。説明を聞いた友達一同は疑う事なく受け入れた。これで迷子にはならないな。
「ここがわたし達の始まりの場所なんだよね」
「この神社がなければ、私達の世界はとっくに滅んでいたし、私達もここにいなかったわね」
「そうなるとこちらの世界も滅んでいた可能性があるです」
感慨深げな三人。私と友達六人はそれを邪魔する事はない。三人にとっては特別な場所である事を皆知っているからだ。
「来て良かっただろ?」
「うん。えっと、ここにも、こっちの世界にも来て良かった。わたし達のルーツがここにあるんだから」
三人の表情は嬉しそうだ。
「参拝方法は朝練習した通り、二礼二拍手一礼な」
彼女達の番である。少々不安ではあったが、問題なく切り抜けてくれた。次は私の番。
(彼女達が皆無事で帰る事が出来ますように)
まあ当然である。
「ねーねー何お願いしたのー?」
「聞かなくても分かるでしょ」
やはり中山は一番に皆が何を願ったのか聞いて回っていた。その後、初詣といえばおみくじである。この人数なので反応が楽しみである。
「あたし中吉。微妙だー」「私は小吉。あい子は?」「うーん……吉!」
「だ、大吉引けました。やった」「おー泉ちゃんやるー。俺は小吉。最上は?」
「何で俺だけ凶なんだよ! 畜生木に縛ってくる!」
悲喜交々。さて三人は?
「吉。いいのかな?」「私は……大吉よ」「リタは中吉です。工藤さんは?」
「……凶だな」
納得出来るのが悔しい。しかしこれを反面教師としてやっていけば良いのである。
さて帰るかといった所で神主さんに声を掛けられた。あの演説を見ており、三人と菊山神社との浅からぬ縁を感じ、顔だけでも見てみたかったのだという。それはそれは目を皿のようにして探していた様子で、我々を見つけるととてもいい笑顔で手を振っていた。
菊山神社と彼女達との縁は深く、その事について三人も深く感謝をしており、神主さんにお礼を言い頭を下げている。
「本当に不思議だよね。あの三人がこっちの世界の血を引いてるなんて、未だに信じられないな」
「信じられないけど、なーんか納得出来るんだよねー」
木村と中山の会話に、神主と会話中である三人以外、全員が賛同する。勿論私もだ。この出会いを全て偶然で片付けてしまうのは勿体ない。
「お、あれ見ろよ! 青柳さんと孝子先生だ。あの二人ってやっぱり……」
「本人達から発表があるまでは誰にも言うんじゃないぞ」
といってもこの人込みだ、本人が言わずとも我々以外にも目撃者がいるだろうな。
私を含めた十人で長月荘へ。
「あれ、壊れちゃったんですか?」
「ああ目の前で襲撃されてな。だが被害はここのガラスだけだから大丈夫だよ」
到着後、ほんの少しのお年玉として、皆に五百円硬貨を一枚ずつ渡す。おまじない効果付きだ。
「今のご時世五百円じゃお菓子くらいしか買えないだろうからな、おまじないとしてそのまま持っているほうが価値が高いかもしれないぞ」
「おまじない? って、どういう事ですか?」
珍しく? 泉が質問をしてきた。こういうのは中山の専売特許だと思っていたのだが。
「お金にならない功労者にはおまじないとして俺からそういう風に硬貨を渡していたんだよ。人との”縁”とお金の”円”を掛けてな。するとそれをもらった住人にいい事が起こり始めたと。それをもらって大物になった住人もいるんだぞ」
「総理大臣とか? なんちゃって」
冗談めかした一条だが、残念ながら正解。ちなみに三人には後で更に少し渡すつもりだ。
「ねーねー、武器新しくしたんでしょ? 見せてー」
そしていつもの中山のおねだり攻撃だ。三人はどう出るか。
「いいわよ、見せてあげる。庭に行きましょ」
結構ノリノリだった。というか、新しい武器を自慢したいのだろうな。そこら辺はやはり子供だ。順番は珍しくリタが最初。食いついたのは最上だった。
「おっ、スナイパーか。ってかこれ対戦車ライフルじゃないのか?」
「形状自体はリタのオリジナルです。ただ、モデルガンや写真を参考にしたので特に何を狙うためというのは気にしていなかったです」
「こんなものを振り回すのか。ははは、リタちゃん怖いな」
リタの耳が完全に最上を向いているな。しかし単なる大きいスナイパーライフルかと思っていたのだが、まさか対戦車ライフルなどという仰々しい代物だったとは。
「はーい次私ね」
ナオの取り出した旗付きの槍に歓声が上がる。したり顔のナオ。
「旗のデザインも考えたの?」
「これは私の所属している部隊の旗よ。槍自体のデザインは私が考えたんだけどね。それともう一本。こっちはリタ考案。投擲用ね」
「こっちは騎士の槍っぽいなー。あれよりは先端が小さいけど」
「……また私の知らない知識が出たわね」
一条に説明を乞うているナオ。リタもその話に興味津々。
「うーん、それは私には合わないかな。私はこういう振り回すのが好きなのよ」
少し皆と離れ、槍を振り回すナオ。すっかり手馴れたもので、まさに踊っているかのようだ。皆も魅了されている。やはりナオは元から目立ちたがりの気質があったのだろうな。
「最後にわたし。えっと、こっちから先にしようかな」
まずは日本刀型を取り出す。やはり食いついたのは相良だ。
「あはは、まんま日本刀の形で作ったんだ。いいね、ちょっと持たせてもらえる?」
「うん、重量があるから気を付けてね」
サイキが素振りをするより先に相良に手渡される。
「これもリタちゃんが作ったんでしょ? やるねえ、本物よりは少し軽いからサイキにも扱い易いだろうし、重心も取れているから威力も出るよね。あたしの感覚だと最初のよりも倍くらいは強いんじゃない? ただ相変わらず鞘がないんだね」
「かなり強いよ。エネルギー消費なしで青鬼を倒せたもん。それと鞘はわたしには必要ないかなって。持ち運ぶ時は消しちゃえるし」
「あんた居合いを知らないのかー。今度父さんに頼んで見せてもらいなさい」
「う、うん、何か分からないけど、ごめん」
まだまだ相良家にはお世話になりそうだ。
「そしてもう一つが、これだよ。大きいでしょ」
最後にリタ考案の長大な両手剣。これには男子二名大興奮である。
「うおおでかいなあ」「大剣はロマンだよなー。俺も振り回してみたいなー」
「あはは、でもこれはさすがに預けられないよ。慣れている美鈴さんでもちょっと危ないし、こういうのを持った事がないなら尚更なんだ」
恐らくは私でも持て余すだろうな。それほど大きい。地上で振り回すよりも、障害物のない空中戦で真価を発揮しそうだ。
「あ、この模様ってもしかして……」
泉が何かに気が付いた様子。何だろうか。
「この、一番上の黄色い丸いのは満月ですよね。これってナオさんがモチーフなんじゃないかな? 暗闇を照らして道を示してくれる満月。ナオさんにぴったりだと思うんだけど。赤い花びらはサイキさん。ひらひらと舞い踊り、人を魅了する。一番下の緑はきっとリタちゃんで、大地を示しているんだと思う。二人を支える役目かな」
「なるほどなあ、そう言われれば一つの絵として見られるな。剣の形も長方形だし、まるで掛け軸に書かれた日本画みたいだな。……で、リタ。答えはどうなんだ?」
私の確認に、リタは少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「……えへへ。泉さん大正解です!」「やったあ大吉の効果が早速出たあ!」
小さな二人はどちらも大喜びである。リタにとっては早く正解して欲しかったのだろうな。鈍感な大人で申し訳ない。
「ただ一つ、つばの銀の装飾を忘れているです。これはリタ達を守ってくれる工藤さんを示しているです」
「俺も入っているのか。嬉しいじゃないか」
全員合わせて長月荘の剣か。いや、相変わらず命名が酷いなあ。誰か代わりにいい名前でも付けてくれればいいのだが。こういう時に格好つけたがりがいい案を出してくれないものかな。
「え、俺? うーん、月下美人って感じかな」
「はい決定ね」「ナオ早いなあ。でもいいね、それ」「異論なしです」
という事でこの長大な剣の名前は”月下美人”となった。
「美人か……」
「何か?」
「いえ、なんでもありません」