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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 13

 リタからの報告は続く。まず前半で武器の改良、新規製作、装備の改善と追加、エネルギー効率の最適化の話が出た。後半ではどういう話が出るのだろうか。


 「リタがこちらの世界に帰還した時に、今までのゲートとの違いに気付いたですか?」

 「ああ、静かだったな。ゲートを改良したか?」

 少し考えているリタ。私の問には答えず、別の話を始める。

 「えっと、持ち帰ったものの中に、青柳さんから貰った侵略者の残骸があったですよね。研究所に戻った事であの物体の解析が出来たです。以前にリタ達のスーツに使っている特殊素材の話はしたですよね?」

 「確か、かなり不安定な素材で、無闇に触れるのは危険だという話でしたよね」

 青柳の確認に頷くリタ。私もその話は覚えている。大学で自爆した侵略者の残骸を青柳が持ってきた時に、とても真剣な表情でリタが話していた。彼女達の特殊なスーツが三着しか作れなかった原因でもある。

 「あの残骸は、その特殊素材ととても似た性質を持っていたです。しかも素材としての安定性が段違いに高く、今回着替えたリタ達のスーツにも早速適用しているです」

 「それって私達でも気が付くレベルの変更点なの?」

 「一番大きいのは、ゲート通過中に酔わないです」

 「それは大きいわね」

 我々には分からない話だな。


 「スーツに新素材を適用出来た事でゲート通過がスムーズになり、更にある大きなヒントのおかげで、自然にゲートを開く事に成功したです。おかげで爆発も爆縮もなく、誰にも被害を与える事がなくなったです」

 あるヒント、これが大きな鍵を握っている訳だな。

 「その大きなヒントとは、総理大臣の演説中にあった、リタ達と侵略者とでは別の電磁波を観測し、別の方法でゲートを開いたというものです。サイキとナオは、リタ達の到着時を知っているですが、リタは最後だし、周りを見る余裕なんてなくてすぐ逃げてしまったので、その状況を知らなかったですよ」

 「あの時は中々見つからないから、新型侵略者じゃないかと焦ったなあ」

 「既に懐かしい気持ちになりますね」

 リタがこちらを見ている。話を続けていいものかといった感じだな。頷くと話を続ける。

 「結論から言ってしまうと、観測された電磁波と侵略者の残骸の解析結果、そしてゲートの通過方法の違いを総合的に判断し、ゲート開放の方法を変更、最適化したです。例えるならば、リタ達は扉を押し壊し、侵略者は引っ張り壊していた。でもその扉の正しい開き方は工藤さんの部屋のように横開きだった、という感じです。大回りしてしまったですが、後はゲート通過適性の問題さえどうにかなれば、本当に工藤さんをリタ達の世界に招待する事も可能になるです」

 それは楽しみにしなければ。しかし私の期待に反して何故か三人の表情が一瞬曇った。

 「ん? どうした?」

 「ううん、何でもないです」

 何か怪しい感じがあるが、それを追求した所で口を割らない気がするので、それ以上は聞かないでおく。

 しかし口には出せないが、恐らくはそれが実現する頃には、私はもうこの世にはいないのではないだろうか。後数年で実現可能という話ならばまだしも、いつ実現するか分からない話に、五十八歳の爺さんはそれほど大きな期待など持てないのだ。


 「それと、もう一度リタ達の世界の話に戻るですが、帰還前に受けた報告を通達するです。武器の製造は順調であり、早ければ三ヶ月以内に全部隊に武器が支給されるです。またサイキのおかげで作れた統合姿勢制御装置の配備も開始され、大幅な戦力増強が確認出来たです。特に槍撃部隊への投擲教示の反響が大きく、一部では剣士隊の総撃破数を上回った戦場もあったようです」

 「本当!? あはは、凄い! サイキ聞いた? 槍が剣に勝ったわよ!」

 苦笑いのサイキだが、このナオの喜び具合からして、やはり槍撃部隊は剣士隊よりも下に見られているというのは本当だったのだな。ナオからしてみれば、自分の見つけた新発見によって下克上が出来たのだから当然の喜び様か。

 「こちらの世界とは違い、小型中型が数百単位で押し寄せる戦場では、貫通力の高い投擲攻撃はそれ一回だけで複数体を仕留められるです。従って撃破数も大きく増えると推測出来るです」

 なるほどな。しかしこちらは一回の侵略者の数が少ないので助かっているが、あちらでは数百単位か。間違いなく三人だけではどうにも出来ない数だな。

 「最後に各隊からの報告を総括すると、一つ確実な事が言えるです。それは、このたった四日間だけで形勢はリタ達に傾いたという事です。リタ達には勝機が見えたです!」

 三人がお互いに目を合わせ強く頷く。ここから彼女達の、そして我々の逆転の始まりを予感させてくれる。


 「あの、工藤さん。折り入ってお話が……」

 改まってなんだろう? 真剣な表情になり、こちらを一点に見つめてくるリタ。

 「フラックを使った後に、リタがサイキに怒られた事があったですよね? あの時から心に決めていた重要な事があるです。無事に長月荘に帰還出来たならば、それを言おうと決めていたです」

 リタのこの表情と同じ表情を、私は二度見ている。従ってリタが何を決めていたのかは想像出来る。こちらからそれを聞く事は出来るが、やはり全てリタ自身の言葉で聞きたい。

 「リタは……自分の持ち得る全ての技術と知識を使って、この戦いを勝利へと導くです。リタ達の世界も、リタの技術によって平和にするです。そして、失敗はするかもしれないけれど、もうめげないです。前を向き続けるです! 進み続けるです! これがリタの覚悟です! そして、リタの贖罪です」

 「よし、よく決めてくれた。サイキ、このリタの贖罪ならば文句はないだろ?」

 「うん。文句の付けようがないよ。リタよく頑張ったね」

 サイキの一言にリタの表情が崩れ、袖で涙を拭う。

 「失敗はしても、もう死にたいだなんて言わないし、同じ過ちは犯さないです。そんな事をしたら亡くなった人達に指を差されてしまうです。だからリタは絶対に前を向いて進み続けるです」

 改めて思うと、この幼い子がこんな難しい覚悟を決めるのだから、私なんて到底追いつけないな。三人それぞれがお互いを羨ましがってはいたが、今三人を一番羨ましがっているのは私だろう。


 「それともう一つ、工藤さんにお願いしたい事があるです」

 「次はお願いか。何だ? 言ってみろ」

 「……工藤さんの車を、リタに直させて下さい!」

 姿勢を正し、頭を下げてくるリタ。これは本気だな。本気であれを、そして私を、私の心を動かそうとしている。

 「わたしからもお願いします。わたしも手伝わせて下さい」

 「私からもよ。出来る事は少ないかもしれないけれど、是非やらせて下さい」

 二人もか。……正直踏ん切りがついていないのも事実だ。この際彼女達の力を借りるべきだろうか。しかし最初の一歩だけは私自身で踏み出さなければ意味がない。

 「分かった、といいたい所だが、一晩考えさせてくれ。俺にはまずやらなければいけない事がある。大丈夫、お前達の本気を無駄になんてしない」


 リタの報告は以上だ。時刻は夜の十時を回っていた。話が終わると青柳は帰っていった。泊まるかと聞いたのだが、自分の家で寝たいとの事。枕が変わると寝られない類なのだろうか? リタも早々に部屋へ。存分に寝てくれ。

 「それで工藤さん、何でリタがあそこにゲートを開くのが分かったの?」

 「簡単だよ。菊山神社だ。侵略者の出現位置を結ぶと全て菊山神社を通っているっていう事はお前達も知っているだろ? あとはリタが来た時の駅前と、菊山神社を結んだ丁度反対側の地点に、出てくると予想した訳だ。まあ次お前達がゲートを作った場合には何処に出るのかは見当が付かないけれどな」

 「……そういう事ね。あ、そうだ。初詣はその菊山神社に行くのよね? 工藤さんも一緒に来て下さいね」

 お誘いを受けては断れまい。



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