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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 11

 年の瀬も押し迫った十二月三十日。我々は少し落ち着かない。

 「大丈夫かな? ちゃんと元気にしてるかな? 忘れてなんていないよね?」

 サイキに関しては落ち着かない所の話ではないな。カフェは今日から翌年三日までお休みなので、ゆっくりと彼女の帰りを待つ事が出来る。朝食を食べ終え、それでも中々落ち着かない二人には、冬休みの宿題を強制させてみよう。

 「手持ち無沙汰よりは気が紛れていいわね。ついでだから三学期も五教科満点目指そうかしら」

 その何気ない一言につい、溜め息が出てしまう。

 「はあ、ナオにはがっかりだな」

 「え? なんでよ?」

 「ついでって何だよ。お前何のために必死に勉強して百点取ったんだ? お前の言い方だと、勉強は覚悟を決めるための使い捨て道具だと聞こえるぞ」

 「……使い捨て、ね。そう考えているのは否定しないわ。ごめんなさい」

 難しい表情で謝るナオだが、頭は下げない。そこには否定が出来ないのではなく、自ら否定する事を拒否しているのだという感情が読み取れる。いつか私の手の届かないあちらの世界へと帰って行くのだから仕方ないだろう、という諦めにも似たその表情に、私は心底がっかりしてしまう。

 「せめて嘘を吐いてほしかったよ」

 「……ごめんなさい」

 私とナオとのやり取りの内容を理解していないサイキは、ぽかーんと頭上にクエスチョンマークを掲げている。


 十一時半、青柳が来た。今までの経験上、三人のゲートの開け方では爆発が起こるので、念の為また待機するという。

 「所でリタはどこに出てくるんだろうな。ちょっと予想してみようか」

 街の地図を出してきて皆で予想してみる事にした。

 「リタなら長月荘を狙って出てくると思うよ。だからわたしはここ」

 「私もそう思うわ。だってあのリタですもの」

 子供二人は長月荘をポイントとして示した。

 「私の予想はお二方とは全く違いますね」

 「俺の予想も二人とは違う。多分青柳と全く同じ地点を一点で示すぞ」

 「でしょうね。完璧に一致するはずです」

 大人二人の自信に子供二人は驚く。


 突然ナオが賭けようと言い出す。その内容に否が応でも巻き込まれるサイキ。

 「工藤さんと青柳さんの二人の予想が当たったならば、私達二人は一つ言う事を聞くわ。代わりにリタが長月荘の上空にゲートを開けたならば、私達の勝ちで何でも言う事を聞いてもらうわよ。それ以外ならば賭けは不成立。どう? そこまでの自信があるならば勿論乗るわよね?」

 「お前そういうのは……」「警察に賭けを申し込むとはいい度胸です。乗りましょう」

 止めようとした私を遮り青柳が決めてしまった。しかもかなり本気の力強い口調でだ。やれやれ、全く面白い奴だよお前は……。

 「それじゃあ俺達の予想するポイントはここだ」

 指で一点を示す。青柳にも確認を取る。

 「ええ、間違いありませんね」

 「特に何もない場所よ? そんな所に出てくるとは……」

 我々の自信の強さに次第に弱気な表情になるナオ。サイキは諦めの表情。

 「じ、じゃあ私とサイキはそこのポイントで待機してやるわよ! 外したら指差して笑ってやるんだから!」

 「やれるもんならやってみろ」「負ける気がしませんね」「ナオのバカあ!」

 さあ煽りは充分、残り一分。


 「ビーコンは長月荘前で打つよ。それくらいは有利にしてもらわないと巻き込まれ甲斐がないもん」

 十二時の時報が鳴り、二人が目を合わせ無言で私と青柳の示したポイントへと飛んで行く。何も言わない辺り、賭けを申し出た事を後悔しているのだろうな。二人とは事前に接続状態にあるので、後はリタの帰還を楽しみに待っているだけだ。

 「ポイントに到着。あそこのビルの屋上で待機します」

 「……やっぱり賭けはなしにならないかしら?」

 「ナオが言い出したんだから責任は最後まで取る!」

 「はい、すみません」

 完全に関係が逆転しているな。上空を見上げ、今か今かと待つ我々四人。


 「……負けました。工藤さんと青柳さんの勝ちね」

 「リター! おかえりー!」

 二人の目線では確かにゲートが開いた。しかし何事もなく静かなもので、爆発など起こらない。今までのは何だったんだ? するとすぐさまリタとも接続する。

 「到着を確認したです。……えっと、工藤さんは何処ですか?」

 「はっはっはっ。さあ三人揃って帰ってこい! 早く顔を見せろ!」

 横を見ると青柳が手を出している。勿論だ。軽く手を上げパチンとハイタッチをする大人二人。青柳の表情は相変わらずだが、私の表情は恐らくまるで、単身赴任の父親を迎える子供のように笑顔だっただろう。

 数分後、目線映像に長月荘と私達が映る。私達の目にも三色の光を引く三人が映る。無事に帰ってきたぞ、リタが帰ってきた。我々の眼前へと着地する三人。


 「えっと、ただいまです」

 「ああ、おかえり。待っていたぞ」

 みるみる表情が崩れ、私に抱きつくリタ。私のやる行動は一つだけ、リタの派手な緑の頭を撫でてやるのだ。リタは無言で何度も頷いている。

 涙を拭う動作をして、改めて私の顔をまっすぐに見つめたリタ。

 「……まず寝たいです」

 一瞬固まる我々。そして一同大笑い。そりゃそうだ、目の下にクマが出来ているし、髪もボサボサだ。

 「あっはっはっ、よしよし、本当にずっと不眠不休だったんだな。いいぞ、話は後で聞いてやるから今は自分の部屋でじっくり眠れ」

 「そうするです。ふわあぁーぁ」

 大あくびをして長月荘へ。全く、可愛い奴だなあ。色々と積もる話はあるが、リタをさっさと寝かせる。

 すっかり安心した我々は昼食を済ませ、そのまま談笑し気が付けば日が落ちているのだった。



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