快速戦闘編 7
クリスマスパーティーの準備開始。大人三人は台所へ、子供三人は物置から引っ張り出したクリスマスツリーの飾り付け。十五年ぶりに出したツリーだったが、電飾も問題なく点灯した。
「まさかここでケーキを焼く事になるとは思わなかったなー」
「孝子先生ガサツっぽいからどうだろうと思ったんだが、上手いじゃないか」
「ガサツって酷いなあもうー」
「ははは。まあでも、これならいい嫁さんになれるんじゃないか? なあ、青柳」
「私に振らないで下さい」
途中、スポンジの焼けるいい匂いに釣られてリタが様子を見に来た。その表情はまさに子供そのもの。目をキラキラさせ、鼻をひくひく、耳をピコピコ、そして背伸び。いや、これだと子供というよりも子犬か。
「そういえばお前達の世界だとこういう料理はないのか? サイキ達は兵士だから仕方ないとしても、お前さんは一般人だろ?」
「どちらかといえば兵士さんのほうが料理を知っているです。あくまで戦時中なので、一般人は控えめに生活してるですよ。でも、だからこそリタも料理を覚えたいです」
「うーん、サイキくらいの年齢になれば教えてやるんだけど、それまではやっぱり危なっかしいからなあ」
「成長促進装置は存在するですよ?」
「いや、そういう意味じゃないぞ」
何が? とでも言いたげなきょとんとした顔でこちらを見つめてくる。精神的なものだと言うと納得したように戻っていった。
料理中、呼び鈴が鳴る。私が動く前にナオが出た。
「お邪魔します。早めに来て手伝おうかと思ったんですけど」
おっと、サイキの男友達の最上が来た。気持ちは嬉しいが、特にする事はないぞ。
「あれ? 何で先生もいるの?」
「私もここの出身だからねー。今日は私がケーキ焼いたげるから、感謝しなさい」
そんな孝子先生に、見事なほどの疑いの目線を送る最上。
「君こそ家の事はいいのか?」
と聞くと、ちょっと気まずそう。
「いやあ、実は……一週間前から妹と喧嘩中で、その妹が当て付けに家に友達集め始めたものだから、逃げてきちゃいました」
「あっはっはっ、そうかあ。でもそれきっと、仲直りしたいがためだと思うぞ。帰ったらお前さんへのプレゼントもあるかもな。帰りに何処か寄って用意してやったらどうだ?」
「うーん、そうですね。実を言うと、初めての兄妹喧嘩だから勝手が分からなくて」
そう言う最上は少し嬉しそうだ。なるほど、妹さんとはかなり仲がよろしいと見える。
その後は皆早めに到着、午後六時半にはパーティースタートとなった。
「誰が音頭取るんだ?」
大方の予想は付いていたが、一斉にサイキに視線が集まる。全会一致である。
「え? わたし!?」
意外と思っているのは本人だけ。
「最初に来たし、一番強いからね」
「ついでに言えばリーダーは赤って決まってるからなー」
ナオはともかく一条の理由はよく分からん。囃し立てられ観念した様子のサイキは、立ち上がり一つ咳払い。
「えっと、わたし達がこの世界に来て三ヶ月、本当に色々ありました。辛くて心が折れそうになった事もあったし、飛び跳ねちゃうくらい嬉しい事もありました。そして今日はこんな素敵なパーティーが出来て、わたしも、ナオも、リタも、大満足です。皆、本当にありがとう。この先も色々あると思いますが、これからもよろしくお願いします。それじゃあ、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
子供達はそれぞれ思い思いに会話を弾ませ、大人達はそれを見守る。宴もたけなわといった所で、プレゼント交換へと移行した。
「男二人はパスね。俺らにそういうの選ぶ才能ないから」
「大人三人もパス。女の子七人でやってくれ」
しかしこちらの三人が、そういうものを用意していた記憶はない。また自作したか、私にも知られないうちに隠したか……と思ったら後者だったようだ。三人それぞれいつも通りの取り出し方をするが、もう誰も驚かない。慣れとは恐ろしいものだな。
交換後、それぞれが中身を確認。さすが年頃の女の子、全員が身に着けるものだった。
「子供の買うものだから高いのはなさそうだね。教師としてちょっと安心。今の子供ってね、ブランドもののバッグをねだったりするんだよ? 親の顔が見てみたいわ」
そんな親に君達もなるのだよ、とは言えない。
時刻は九時を回った。子供達はまだまだ元気だが、そろそろ解散させるとするか。
「そのまま泊まってもいいよー」
「いや、さすがにご家族が心配するだろ。こっちも色々あるし」
どうにか言い聞かせる事に成功。恐らくは今年最後となるので、皆名残惜しそうだ。
「ねーねー、次は初詣も行こうよー」
「所で、はつもーでって何よ?」
「やっぱりそこからなんだ」
どうやら来年も予定がぎっしり詰まりそうだ。
「ああそうだ、家が遠い子は青柳に送ってもらえ。あと不審者には気を付けろよ」
「不審者見つけたらナオちゃん達に連絡すればいいのー?」
「そこは私達じゃなくて警察に通報しなさいよ」
目の前に刑事がいる事をすっかり忘れている様子の中山。本当にこの子は遠慮がなくて、それがまたいい味を出していて面白いな。青柳はまず家の方向が同じ男子二人と女子二人を乗せて出発。一旦戻ってきてから更に相良と孝子先生を乗せて帰るそうだ。二往復もご苦労様。二人にはその間片付けを手伝ってもらう事にする。
「残りは泉ちゃんだけど、三人で送って行ってもらおうかな。暴漢に出くわしたら死なない程度に痛みつけていいぞ」
「手加減出来なかったらどうしよう、なんちゃって」
冗談めかして笑うサイキだが、お前が言うと冗談に聞こえないぞ。
三十分ほどで全員解散し、三人も無事に泉を送り届けて帰宅。ちなみに私は未だ皿洗い中。サイキが手伝いに私の横に並んでくれた。広いシンクで良かったと心底思った瞬間だ。おかげで倍の速さで皿洗い終了。気が付くと居間の片付けも終わっていた。時刻は夜十時を過ぎた頃。
「そうだ、リタはナオに銃の扱い方を教えておけ。例え撃てても臨機応変に切り替えられなければ駄目だからな。それが終わったら早めに寝ておけよ。お前の事だから帰省したら不眠不休で開発に徹するんだろ?」
「大丈夫です。リタの最高徹夜作業記録は六日間です」
「そういう事をするから背が伸びなかったのよ? 規則正しい生活は健康の基本よ」
リタを叱るナオだが、現状を考えるとそうそう強くも怒れないようだな。リタの授業は十分ほどで終了し、私の言い付け通り早めに部屋へと入っていった。
「不安がないかって言うと嘘になるけど、リタの決めた事だもん、わたし達が後押ししないと」
「そうね。でもきっと大丈夫よ。だってあのリタですもの」
あのリタだ、という根拠のない自信が妙に心強い。問題はリタよりもこちらの二人だろうな。さて何もなければいいのだが。