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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 5

 フレンチレストランでお腹一杯フルコースを堪能し、結構な額にお財布が軽くなる私。三人には値段を見せない為に、店の外で待っていてもらっている。


 「あの……」

 合流し歩き出そうとした所でリタに止められた。何だろう?

 「実は、リタだけ元の世界に戻ろうかと思っているです」

 「え!?」「あんたここまで来て逃げる気じゃないでしょうね?」

 驚く我々。特にナオは脱落させないという覚悟があるので気が気でない様子だ。そんな我々を、しっかりと見つめてくるリタ。

 「えっと、リタ達の世界に一回戻って、中間報告をしようと思っているです。それに、こっちに持ってきた機材だけでは出来ない事もあって、今考えている構想を実現するためには、やっぱりリタの研究所に行く必要があって……。大丈夫、絶対に帰ってくるです。信じて下さいです」

 丁寧に頭を下げるリタ。我々は顔を見合わせてしまう。最初に動いたのはサイキだ。

 「うん、分かった。リタの事だから嘘は吐かないよね。でも早く帰ってきてね。二人だけじゃ大変になるんだから」

 溜め息混じりにナオも賛同する。

 「サイキが言うならば仕方がないか。いいわよ、リタの一時離脱を認めるわ」

 「二人が決めたならば俺も従わざるを得ないな。日程はどうするんだ? さすがに年末年始丸ごといないってのは困るぞ」

 「うーん、日程は明日までに考えておくです」

 そして何やら言いにくそうになる。

 「それから……二人の武器も一旦回収してから戻りたい……ですけど……」

 「さすがにそれは駄目よ。私達に丸腰で戦えって言うの?」

 強い口調になるナオだが、仕方がないか。


 「新しい武器だけならいいよ。いざとなったら私一人で戦う」

 「サイキ、本気で言ってるの?」

 「本気だよ。それに、私達の世界のためになるなら、それくらいはしなくちゃ」

 サイキの表情は真剣そのものだ。サイキは一人で乗り切ろうとしている。しかしそれは非常に危険な賭けになる。どうしようか、何かいい方法はないかな。

 「回収するのは新しい武器だけでいいです。サイキの刀と、ナオの改修した槍と、リタの64式と拳銃二丁。あとは渡辺さんに見せてもらったレプリカ。きっとこれらを持ち帰るだけでも、大きな戦力増強になるはずです」

 「……ああそれなら! リタ、ナオにショットガン渡してやれ。これなら二人で戦える。昼間の実験で、恐らくナオにもリタの経験が入っているはず。だとすればナオもショットガンを使えるはずだ」

 「ちょっと強引だけど……それならば何とかなるかな」

 「後は強い敵が出ない事を祈るだけだな。えーと、数日間の天気はどうだったか、帰ったら確認だな」


 話はまとまったので、ようやくイルミネーションを堪能。三人は戦闘中にも見ていたが、やはりゆっくりと見ていられる今のほうがいい顔をしているな。私達はあの時の事を思い出しながら歩いている。

 「……そして工藤さんの心が折れ始めたと」

 思い出話の最後にサイキが締める。

 「ははは。否定出来ないな」

 「でも、今思えばあの失策も私達のためを思ってだっていう事がよく分かるわ。周囲の、私達に対する恐怖心や懐疑心を取り除こうとしたのよね。亡くなった娘さんの代用品だなんて言われちゃったけれど、それでも私達のためを思ってくれていて、今も私達の為に尽力してくれている。これ以上有り難い話はないわ」

 「家族だからな、当然だろ。ナオは俺が何処まで逃げても捕まえて、引き摺ってでも帰ってくるって言ってくれたが、それは俺も同じだ。例えお前達が何かしらの理由で逃げてしまったとしても、長月荘がお前達の家である限りは、引っ叩いてでも帰らせるさ」

 「リタは絶対に帰ってくるので追いかけてくる必要はないです」

 「大丈夫、信じているよ」

 頭を撫でると耳をピコピコ動かす。既に周囲の目線など一切気になっていない我々は、既にマスコミの撤収した路地を抜け、無事我が家、長月荘へと帰り着いた。


 帰宅後、まずは天気の確認。大晦日までは二日、天気の崩れる日がある。

 「なるべく早い時期に往復したいです」

 「じゃあそうだな、二十六日から三十日までの四日間ならばどうにかなるかな。二度戦闘を挟むだろうけれど、来年に持ち越すよりはいいと思うぞ」

 「四日間……あの、リタに無理をする許可を下さいです。多分リタの構想を全部やろうとしたら、数週間は掛かるです。それを四日間で遂行するためには、無理をするしかないです」

 無理をしない事の大切さを認識している上でのリタの申し出だ。恐らくは止めても、私の見ていない所で無理をするのだろうな。

 「やれる自信はあるのか?」

 「はい! 勿論です!」

 間髪いれずの力強い返事だ。これだけの返事をしてくれるのならば不安などない。

 「ならば許可しようじゃないか。細かい時間設定は三人で話し合ってくれ。来た時のようにビーコンを使うならば、俺よりも二人と相談すべきだ」

 「じゃあわたし達はリタの部屋で作戦会議しますね」


 一人になった所で、昼間の総理大臣の会見についての情報を集める事にする。

 ……いや、集めるまでもなかった。それはそれはあちらこちらで大反響なのだ。そのどれもが歓迎であり、応援であり、「やっぱりな」という納得なのである。先ほどまでは”気にしない応援”のおかげで実感がいまいち沸いていなかったのだが、それを今改めてひしひしと感じている。

 私達は世間を味方につけたのだ。この国を味方につけたのだ。

 そして関連ニュースの中には、海外の反応も多数見受けられた。そしてそれらをまとめているページがあったので覗いてみる。おおよそ親しい国は協力をするという回答であり、逆にもめていたり世間的にも印象の良くない国は調査中である。

 一般外国人の書き込みの訳もあり「ジャポンのプレジデントはクレイジーだぜ」というようなものもあれば「まずはうちの国を戦争から救ってくれ」というような何とも言えないものもある。各国千差万別であり、参考にはならないかな、という感じである。

 長月荘SNSを覗くと、皆私の書き込みを待っている状態だった。これは失礼した。それでは一つ、私から心のこもったクリスマスプレゼントを贈ろう。

 「イブなのに暇な奴らを見つけた。彼氏彼女はいないのか?」

 一斉に書き込みが入り、そしてその内容が悲鳴に変わる。相変わらず乗りのいい面白い奴らだ。……一部本当に悲鳴を上げている奴も居る。

 「ともかく、皆の協力のおかげで長月荘の問題は解決出来た。心から感謝するよ。今年も残す所あと一週間、風邪には気を付けろよ」



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