快速戦闘編 3
「ただいまー!」
「おう、おかえりー」
「工藤さあーん!」
三人とも一目散に飛びついてきた。どうだ私の計画は。途中想定外の事態はあったが、この子達の満面の笑顔を見れば、そんな事はどうでもよく感じる、
「ようやく長いトンネルから抜け出せたな。よく耐えてくれた。もうこれで何も心配はなくなったぞ」
「はい。えっと、色々言いたい事は一杯あるんですけど、これだけは言わせて下さい」
三人並び、姿勢を正した。
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、心からの感謝を示す三人。
「俺からもな、いつもありがとう」
「早速だけど今回の戦闘で幾つか報告があるわ。一つ目にエネルギー消費そのものがなかったの。リタも首をかしげていたけれど、この状態がずっと続くという保証はないので楽観視は出来ないわね。次に工藤さんも言っていたけれど、リタの動きが何故か凄く良くなっていた。最後にサイキのあの特大FA。100%全開で使ったらああなったらしいけれど、これも私達には分からない事ね。本当、自分達の事なのに分からない事が多過ぎて困っちゃうわ」
困るといいつつ、嬉しさがにじみ出ている。他の二人も同様だ。
「最初のはエネルギー消費してもすぐ回復したんじゃなくて、消費そのものがなくなったっていう事か?」
「リタが確認したです。一瞬で回復するのであれば、消費が発生した証拠があるはずですが、それがない。という事で、消費そのものがなくなってしまったと考えるのが妥当です。一見悪い事ではないように見えるですが、大切な場面で消費が再開したら作戦が総崩れになるので注意が必要です」
「うーん、そもそも俺にはお前達の使うエネルギーそのものが何なのか理解出来ていないからなあ。銃弾にも翼にも精神防壁にすらも使えるって、用途広過ぎだろ」
「多分、こちらの世界で完全に理解出来る人はまだ存在しないと思うです。幾つもの段階を踏んで作られる理論を、いきなり最後だけ学ぼうとしても無理なのと同じです。今は何にでも使えて変幻自在の燃料と考えてくれればいいですよ。それに、実はリタ達も完璧に理解している訳ではないです。代用手段がないので使っているという事です」
結局の所はこちらの世界の技術力では何一つ分からないという事だな。
「リタが動けるようになった事については心当たりがあるぞ。フラックだ」
「フラック……」
リタの顔が少し暗くなる。やはりいきなり全てを受け入れるのは難しいか。
「さっきはフラックなんて使ってないよ?」
「いや、フラックの性質の中に、経験すらも共有してしまうってあっただろ? という事はもしかしたら、学習装置として使えるんじゃないかってな」
私の予測を、三人とも真剣に考えている。特にリタは開発者であるので真剣そのものだ。
「つまりはこういう事? フラックで一度経験を共有した事で、私達の身のこなし方を体が覚えた。だから意識しなくても私達のように動けるようになった?」
ナオの表情は懐疑的だな。しかし今ある材料ではこれが一番あり得る結論だと思うのだ。
「可能性としては一番高いと思うぞ。でなければ突然リタが覚醒したかだな」
「……だったら逆もあり得るはずです。サイキ、ちょっとこれを撃ってみるです」
リタからサイキにショットガンが渡される。突然なので困惑気味のサイキ。
「わたし、銃なんて撃った事ないよ? 持った事すら……」
「だからこそ実験に丁度いいですよ。今は出力は最低限まで絞ってあるですから、それなりに安全です。えっと、的を用意するです」
喜々とした表情になり的を得ようと周囲を見渡すリタ。
「何でもいいなら空き缶を使え。ただし外でやれ。屋内でそんな物騒なもの撃つな」
庭に出てブロックの上に空き缶を置き、それに狙いを定めるサイキ。引き金を引くと見事一発でど真ん中を撃ち抜いた。
「よし次は缶を投げるからそれを撃ってみろ。これが成功したら俺の予想は当たってると考えていいだろ?」
「検証は不十分ですが、可能性としてはあると思うです」
サイキには隠し、敢えて空き缶を二つ放り投げてみる。
カーン! カーン! と二度いい音がした、見事二つとも撃ち抜いた。
「やった! 体が勝手に狙いを定めてくれる感じがあったよ。これがリタの経験からの体の動きなのかな?」
「うーん、ここまでやられると認めざるを得ないです。フラックが短期間学習装置としても使えるだなんて……想定外です」
「よかったな。お前の作った欠陥品には別の使い道があったという訳だ。無駄にはならなかったぞ」
少し嬉しそうなリタ。頭を撫でてやると、顔を隠し涙を拭う素振りを見せる。
後はサイキのFAだが、彼女達にも分からない事が私に分かるはずもない、というだけで話が終わった。
「よし、昼飯食べて少ししたら、遂に街に繰り出すぞ」
「ようやく自由に出歩けるようになったものね。あ、そうだ! カフェの仕事も再開出来ないかしら! あとサイキの習い事も!」
とても嬉しそうに私に迫ってくるナオ。二人も追従し目がキラキラと輝いている。
「ははは。そうだなあ、青柳に許可を取れば……」
「もしもし青柳さん?」
言い終わる前に既に青柳に連絡を入れるサイキ。どれだけ楽しみだったんだよ。
「許可取れました! あと、今日試しに服以外そのままで出歩いてみてもいいって! リタの耳も解禁だよ!」
「うわあ、あいつ思い切ったなあ」
三人の髪の色とリタの耳をクリスマスイブの街中で堂々とお披露目するのだから、キッチリ服装は決めていかないと。一応不審者には気を付けろと言ったが、むしろ不審者が倒されかねないな。
「あと戦果報告は明日にしたいって。やっぱり範囲が広かったみたいで、時間が掛かるそうです」
「ああ、分かったよ」




