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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
快速戦闘編
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快速戦闘編 2

 教室に戻るも興奮冷めやらぬ一同。しかし中山が外の異変に気が付いた。

 「あ、雪だ! ホワイトクリスマスだー」

 「三人って雪は見た事あるの?」

 相良からの素朴な疑問。

 「わたしはあるよ。一箇所に留まらないで色々渡り歩いていたから」

 「私は南国の部隊だったからないわ。でもこれも雨の一種だから、侵略者には警戒すべきよね」

 「リタはそもそも箱入り娘です。箱入り? 研究所入り? ともかく外に出た事がなかったです」


 孝子先生が入ってきて二学期最後のホームルームが開始……とは行かなかった。侵略者の襲撃だ。空には今までで最大規模のゲートが開く。

 「ちょっ、でかくね?」「空飛んでるし、あれ倒せんの?」「三人ならいけるよ!」

 三人の表情には若干の焦りと、それと十分な気合が見える。

 「行ってきます」

 屋上へと走り出そうとする三人。すると孝子先生が教卓を叩き三人を制止。

 「ちょっと待った! 相良そこの窓開けな! サイキ、ナオ、リタ。今回だけは許す! 一番格好良く出撃しなさい!」

 顔を見合わせる三人。すぐさま笑顔になり「はい!」と一言、開かれた窓へと向かい走り出す。プロテクトスーツへと着替え、大きく翼を広げ飛び立った。その光景に誰もが声援を送っている。

 「写メ取っておけばよかったなあ。っていうかここ特等席だわ」

 意外とのん気な孝子先生。


 工藤、青柳と三人はすぐさま接続開始。

 「あのでかいのは何だ? 下から見ても数百メートルはあるように見えるぞ。エイみたいな形をしているが、爆撃なんてしてこないだろうな」

 「あれは大型の深紅で浮遊型の侵略者です。飛んではいるけど大型の定説通り本体はあまり動かなくて、周囲に十体いる、丁度深紅の子供のような姿形の中型種が攻撃と防衛を担っています。そしてあの大きさは、わたしが見た中でも最大級の深紅。……狩り甲斐がある相手、ちょっと燃えてきたよ! 二人とも、本気出すよ!」

 「当たり前じゃない、今の私達に敵う奴なんていないわよ! サイキは本体を集中攻撃、私とリタで周囲を掃除するわ! 迅速に、かつ派手に行きましょ!」

 「リタ了解です!」

 次に青柳の通信が入る。その声は冷静沈着そのものであり、子供達にも安心感を与えている。

 「出現場所は街のほぼ中心のようですね。空中にいるあんな大きい敵では、我々は一切無力です。皆さんに我々の世界をお任せしますよ」

 「任されました!」

 サイキの力強く、そして少し嬉しそうな声が響く。そしてリタが何かに気が付いた。

 「おかしいです。エネルギーが消費されていない……。回復しているんじゃなくて文字通り消費すらされていないです。これじゃあ100%の力が出し放題になっちゃうですよ!」

 「いいわね、乗ってきた! 一気に行くわよ!」

 戦意に溢れる三人の下では、街の住人達も見上げながら声援を送っている。最早菊山市全体が彼女達の味方である。


 三人は戦闘を開始。まずは周囲防衛網の破壊から。

 中型種は地上への攻撃よりも本体の防衛を重視し、三人へと光弾を飛ばして攻撃してくる。しかし三次元機動の可能な空中戦においては、より小回りの利く三人が有利だ。

 「そんな攻撃当たる気がしない! 私は本体に取り付くから後はよろしく!」

 高速飛行で防衛網を易々と突破し、本体への攻撃を開始するサイキ。

 「エネルギー消費がない今、リタにとっては演習も同然です。今こそリタの戦闘、見せるです!」 

 その勢いの通り、敵との距離や位置で次々に武器を持ち替え撃ちまくるリタ。あっという間に三体撃破である。

 「素人のリタには負けたくないわ!」

 槍の攻撃範囲の広さと投擲回収範囲の改良を背景に、ナオも次々と攻撃を当て倒していく。

 「素人じゃないです! もうリタはちゃんとした戦力です!」

 言い合いをしながらも着実に数を減らす二人。一方サイキも深紅本体の砲台を次々と破壊していく。

 「ねえ、一つ試したい事があるんだ。中型を全部落としたら合図頂戴」

 「何するのかは知らないけど、サイキの事だからやり過ぎないでよ?」

 「任せておいて!」


 半数以下まで減った中型種に、エネルギー消費のない三人の相手など務まるはずもなく、丸裸にされていく深紅。捌き切るのも時間の問題だ。

 「よし中型あと一体! リタそっちに行ったわよ!」

 「蜂の巣にしてやるです!」

 敢えて二丁拳銃へと切り替え、最後の中型に近接戦闘を挑むリタ。

 「おいリタ無茶は……何だ!? お前そんなに動けたか?」

 「分からないけれど、見えるです。体が動くです。これでも余裕です!」

 文字通り中型を蜂の巣にし、最後の一体を撃破。


 「サイキ! やっちゃいなさい!」

 「了解! 一回やってみたかった、100%全開のFA行くよ!!」

 深紅の正面に立ち、大きく刀を振り上げる。

 「うおりゃああーーーっ!!」

 腹の底から絞り出すような、気迫に溢れる雄叫びを上げ、垂直に振り下ろされる刀。その勢いに、サイキ自身もその場で縦に一回転。全力全開のFAで刀身は眩く輝き、とても長い光の刃が現れる。それは元の刀身の長さの何十倍にもなり、残像を残しながら全長数百メートルにもなる最大級の深紅を見事に真っ二つに切り裂いた。光の刃は地上にも着いているが、そちらには不思議と何も痕跡はなく、完全に侵略者のみにダメージを与えていたのだ。数秒後、大型深紅は大きな爆発音と共に四散、そして中心へと向かい圧縮され消滅。

 「……何か凄い事出来ちゃった! やったああーー! 何かすごおーーい!」

 「サイキ何なの今の!? あの深紅を完全に真っ二つにしちゃったわよ!?」

 「うん! よく分からない!」

 とてもいい笑顔でそう答える。

 「サイキ、エネルギー残量はどうなってるですか?」

 「全く変わらず100%を維持してるよ。凄いね。よく分からないけど凄いね!」

 テンション最高潮という感じのサイキ、そして二人も高揚している。街中から上がる歓声に三人も気が付き、お礼の代わりにそれぞれ大きな光の円を描いてみせた。


 「大喜びの所申し訳ありませんが、クラスメートがあなた方の帰りを待っていますよ」

 「待っててくれたんだ。急いで帰らなきゃ」

 校舎に近付くと、教室の窓という窓から生徒達が手を振っている。

 「このまま飛び込んじゃおうか?」

 「さすがに怒られるわよ……でも最後まで格好良く決めたいわよね!」

 「先生に言いつけるです。それでリタも一緒に怒られるです」

 飛び出してきた時と同じ、相良の横の窓へと順に飛び込む三人。窓をくぐった瞬簡に制服へと着替えるという芸当も見せる。

 「遅くなりましたが、無事帰還致しました。皆ありがとう。おかげで凄く戦闘が楽でした」

 深々と礼をする三人。しかしそこに学園長の魔の手が迫る。手に持った定規で順々に三人の頭を叩く。

 「うぉっ!」「あ痛っ!」「はぅっ!」

 「こら、そういう事をしては駄目だと約束したでしょう。今回はこれで見逃しますが、金輪際駄目ですからね。分かりましたか?」

 「すみません」

 「それから斉藤先生も、勢い任せで許可をしてはいけません!」

 「はい、肝に銘じておきます」


 「でも最後凄かったよー! ここから見たら赤い光の円が現れたみたいで、凄く綺麗だったー!」

 「えへへ。実はわたしもよく分かってないんだ。エネルギー全開で使った事なんて、今まで一度もなかったから」

 いつも通り一番に声をかけてきた中山の言葉に、笑顔が零れるサイキ。

 「リタから見ても初めての事が一杯で、有意義な戦闘だったです」

 「途中で工藤さんも言ってたけど、リタの癖に私達みたいにちゃんと動けてたのよね」

 「癖には余計です!」

 一笑いあった所で解散。帰ろうとしたサイキを相良が引き止めた。

 「ねえサイキさ、あんたのご先祖さんの事覚えてる?」

 「えーっと、佐伯トミさんだっけ。剣道場の師範だってね。やっぱりどこか繋がっているのかなあ」

 顔のニヤつきが納まらない相良。

 「ウチの剣道場ってさ、一回名前変わっているんだよね。前の名前、何だと思う?」

 「……嘘でしょ!?」

 「本当! あたし、あんたの従姉妹なんだよ! 驚いた?」

 「凄く驚いた! 驚いたけど……何か分かる気がする!」

 「あはは、あたしもー!」

 手を握り合い、飛び跳ねて喜ぶ二人。その光景にそこにいた皆が和み微笑んだ。


 放課後、三人は職員室で、放送室への無断侵入を怒られている青柳の元へ。

 「工藤さんから、青柳さんが最初に、私達も知らない秘密に気付いたと聞きました。本当にありがとうございます」

 「いえ、私はあくまでも侵略者の出現法則に気が付いただけですよ。あなた達の事について奔走したのは工藤さんです。菊山神社との関係に気が付いたのも、血縁者の元へと直接出向いて協力を仰いだのも工藤さんです。私はそのお手伝いをしたに過ぎませんよ」

 「やっぱりあの時色々と隠し事をしていたのは、このためだったのね?」

 「ええ、途中何度も冷や冷やさせられましたが、無事成功してよかった」

 珍しく、誰から見てもほっとした表情の青柳。

 「何で隠していたのよ? 先に言ってくれてもよかったのに。それならばあんな事はなかったと思うわよ」

 「もしも外れだった場合に、皆さんの心を傷付ける事のないようにとの配慮ですよ。例え病院での一件がなかったとしても、工藤さんはあなた方を第一に考えています。独り善がりで自分勝手には見えるかもしれませんが、それは変わりませんよ」

 深く頷く三人。

 「あの、今日はわたし達は歩いて帰ってもいいですか? まだ長月荘の前に取材の方がいるかもしれませんが、それでもゆっくり歩いて帰りたい」

 「ええ構いませんよ。私は先ほどの戦闘の調査がありますから、後ほど連絡を入れると工藤さんにお伝え下さい」


 実に十一日ぶりに歩いて校門を出る三人。その表情はとても晴れやかだ。



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