快速戦闘編 1
総理大臣の記者会見。その同時刻、学園側での反応。
会見の様子を友達の携帯電話の画面で見る三人。そして先ほどまではそれを注意していた教師達も、既に学生に混じってその様子を見守っている。
「サイキどんだけ緊張してるのよ。震えてるよ?」
「だって、だって……」
サイキの肩を抱く相良。会見はまだ開幕を迎えたばかり。
「――別の世界からの来訪者という事です」
「リタちゃんやっぱりそうだったんだ」
「改めて言われると恥ずかしいです」
こちらは至って冷静だ。
「――異形の者達についてですが、彼らは我々の世界に、明確な敵意を持って侵略しに来た存在であります」
混乱する事はなく、むしろ「やっぱりな」という声が多い。自身が一度は危機に晒された生徒達は、侵略者に対しては既に敵であるという共通認識を持っている。
「ナオちゃん達の紹介だって」
「悪いように言われなければいいんだけどね……」
「……」
シーンと静まり返り、そこにいる全員が静かに聞き入る。
「サイキさんとナオさんって、本名が名字だけなの?」
「ちょっと事情があるです」
リタの紹介途中で他の学年から可愛いという声が漏れ聞こえ、リタの顔が赤くなる。
「――我々の味方であると断言してもよろしいでしょう」
「当然だ」
と声が上がる。その声の犯人は教師だ。最早その心は学生達と一体である。
「そうじゃなかったら今頃私達と一緒になんていないものね」
「そうね。そして一緒にいられるおかげで、私達の気持ちにも余裕が出来ているわ」
「――既に何人もの方が亡くなり、怪我人も多数に上っています」
「そう……ね。力不足を痛感するわ」
「大丈夫だよ! 根拠は無いけど!」
「ふふっ、あい子らしい励ましね。ありがとう」
「――遊び道具として侵略されているという可能性が存在します」
「マジかよ」「俺らモブじゃねーぞ」「あいつら有り得ない」
方々から怒りの声が上がる。
「そう考えると、わたし達の命の意味って……絶対に許せない」
「やられたらやり返すんだよ。何倍にもしてさ」
サイキの手を強く握る相良。
「――滅亡寸前であるという事です」
彼女達の世界の現状に絶句する学生達。
「――武器に関する知識も技術もゼロと言っていい彼女達の……」
「だからリタちゃん、狙撃の基本を知らなかったのか」
「うん。でも最上君のおかげで助かったです」
リタにそう言われ嬉しそうな最上。次に一条が感心したように口を開く。
「三人ともすげー重い使命を背負ってるんだなー。応援しか出来ないのがちょっと悔しいぞ」
「応援だけでも嬉しいわよ」
「一部には彼女達が侵略者を連れてきたのでは……」
「お前らがその一部だろうが!」「全くだ!」
罵声とも取れる声が上がる。
「――完全に否定が出来ます」
その一言に一斉に注視する一同。
「――サイキという子が来るよりも数週間も前に、侵略者の一部が我々の世界にやって来ていた事を突き止めています」
「うわっ、ぶねー」「知らないうちに危機一髪だった訳か」「三人が来てくれて本当に良かったー」
その声に少しだけ嬉しくなる三人。
「――各々別の方法で我々の世界への扉を開いたと言えます」
「別の電磁波、別の方法。もしかして……」
リタが一つ呟き、何かを考え始める。
「もしかしたら、もしかするかもです。でも機材が足らない……」
尚も静かに放送に耳を傾ける、体育館に集まった学園の一同。そして……。
「――日本国の長である、内閣総理大臣である私の名に賭けて断言いたしましょう。彼女達三人は、我々のヒーローであります!」
その瞬間一斉に歓声が上がる。そして三人は驚きの表情だ。
「ね、ねえ、今の、今の見たよね!?」
「ええ、見たわよ。有り得ない事が起こったわね。あはは」
「一瞬で、ほんの一瞬でエネルギーが満タンになったです……何が起こったのか見当もつかないです」
フラックを使用した小型の黒との戦闘で使い果たしていたはずのエネルギー残量が、瞬きをする間もなく満タンになった。過去経験した事のないその現象に、三人は驚きと高揚感を覚える。
「何三人とも目が潤んでるの? 感動しちゃった?」
「だって、わたし達の努力がようやく……」
「はいはい。でもまだ終わってないでしょ。最後まで聞きなさい」
茶化しに来た孝子先生に言われ、再度会見の様子に注視。
「――彼女達を国家としてサポートすべく、法整備を開始します」
「遂に国が出てきたぞ。凄い事になったな」
「あ……生活も今まで通りでいいってさ。これでクリスマスパーティー出来るよ。良かったな」
無言で何度も頷く三人。
「損害補償も国がするのか。災害認定って奴かな」
「おっ、やった! 報道規制入った! あの下宿前の奴らには本当に腹立ってたからなあ。マスコミだんまりでやんの」
男子二人が大盛り上がりだ。三人はそれを見て笑う。そして周囲も笑顔になる。
「――侵略される以前は外宇宙への渡航というのも日常的に……」
「天文学者の夢の世界だね。……ワープって瞬間移動でしょ? ナオちゃん達の世界行ってみたいな」
「リタに頼んでみれば?」
木村がリタに目線をやると、リタは親指を出してグーサイン。既に何かを掴んでいるのだ。
「――今現在もエネルギーを節約しながら……」
「ついさっきその心配はなくなったわ。これで本気を出していける」
「うん。皆のおかげだあ。でも私は無理しないけどね」
「当たり前よ。あれだけは本当に使わないでよ?」
「分かってますって。もう工藤さんにあんな顔はさせないもん」
「リタだって、やる時はやるです」
三人ともいつになく気合が入っている。
「――日本国の国民の皆様と彼女との絆を結んであげたいと思い……」
「ありがとうございます。聞こえないでしょうけど。ふふっ」
「――この案件につきましては、彼女達すらも知らない事となります」
「えっ!?」「私達も知らない私達の秘密って事かしら」「気になるです」
ざわめくその場を学園長が沈め、三人は真剣な眼差しでそれに聞き入る。
「……こんな共通性良く見つけたわね」
「菊山神社だってー。あ、ねえ皆で初詣行こうかー」
「あい子後にして!」
ナオに怒られる中山。その真剣さに、さすがの中山も沈黙。
「――神隠しに遭ったという話があります。それが約百年前」
「百年前って、侵略者と武器の概念の……」
「――別世界から来た三人と、神隠しに遭遇した三人の子孫の方とで、DNA鑑定を行ってみました」
「いや、まさか……よね?」
懐疑心に一杯になる三人だが、その表情はどこか期待をしているようだ。
「わたしだ……わたし、う、嘘……」
「こんなの信じろって言うの? 無理があるわよ!」
「リタも……なん……」
「――つまり、約百年前に菊山神社で神隠しに遭遇した三名は、彼女達の世界へと渡り、武器の概念を発生させ、そして今、その子孫である三名の少女達が、我々の世界を救う為に帰って来たという事です」
再度上がる歓喜の声。しかしその声は学園だけにはとどまらず、学園の外からも聞こえてくる。
「ああそうか、工藤さんが隠していた事ってこれね! すっかりやられたわ! あの耄碌爺さん、帰ったらただじゃおかないんだから!」
「あはは、ナオそんな事言ったら怒られるよ」
すると三人の耳には聞き慣れた声が。
「……聞こえてるぞ」
「えっ!? 工藤さん? いつのまに」
リタがニヤけている。犯人はこいつだ。
「どうだ、この日になったのは偶然だが、俺達からのクリスマスプレゼントは気に入ってもらえたかな?」
「うん、うん。何ていうか……うん……」
「ははは。サイキお前また泣いてるのか。覚悟はどうした」
「嬉し涙はいいの!」
「私からも、本当に心から感謝しています。未だに信じられないんだけど、私達はこっちの世界の血を引いているって事でいいのよね?」
「ああそうだよ。最初にこれらの繋がりに気が付いたのは青柳だ。あいつにも精一杯感謝しろよ。それだけじゃなく、今回関わった全員にも感謝を忘れるなよ」
「はい。勿論ですとも。長月荘の皆にも、学園の皆にも、この街の皆にも……多過ぎて感謝しきれる自信がないわ」
「リタからも感謝するです。エネルギーが満タンになったし、新しい道筋が付いた気がするです。リタの本気はこれからです」
「そうか、それは楽しみだ。リタ、俺はお前が鍵を握っていると思っている。お前の持つ技術力を遺憾なく発揮してくれよ」
「任せるです!」
「はい皆さん、そろそろ教室へ戻って下さい。先ほども言いましたが、三学期、誰一人欠ける事なく、また皆さんの笑顔を見られる事を、楽しみにしていますよ」