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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 20

 「まずは今回の緊急記者会見においての題材であります、菊山市で最近起こっている一連の事件の真相からお話いたします」

 眩いフラッシュの焚かれる中、遂に内閣総理大臣山田誠二郎の記者会見が始まる。


 「九月下旬より菊山市で連続して発生している爆発及び襲撃事件ですが、これら全てには関連性が御座います。既に報道によりその姿を捉えられている三名の少女、そして異形の存在。この二つの勢力による戦いに、菊山市は巻き込まれています。そしてこの二つの勢力はどちらも、我々の存在するこの世界の住人ではありません。別の世界からの来訪者という事です。これは別の星、別の次元からという事ではなく、文字通り全く別の世界から来たという事であります」

 あまりにも突拍子もない話に、記者達からは笑い声すら上がっている。

 「信じられないのも無理はありませんが、しかしこれが真実であり、証拠もあります。更にもう一つ。異形の者達についてですが、彼らは我々の世界に、明確な敵意を持って侵略しに来た存在であります。従って現在我々人類は、滅亡の危機に瀕していると断言出来ます」


 記者が手を上げ、総理大臣自らそれを指名する。

 「その来訪者とは一体何者なんですか?」

 「そうですね、では先に彼女達を紹介しておきましょう。本人は先の事情により菊山市から離れられないので写真でご紹介します」

 三枚のフリップが用意される。まずはサイキ。

 「この赤い髪の子がサイキと言います。彼女達の話によれば、これは名字であり、名前は持っていないそうです。現在は居住している下宿屋のご主人から名前を取り、工藤サイキとして生活をしています。彼女は剣を持って戦うようですね」

 二枚目、ナオの番だ。

 「こちらの金髪、と言うよりは黄色ですかね。この子がナオ、と言います。この子も先程の赤い髪の子と同じく、名字だけで名前はないという事です。現在は彼女達の監視及びサポート役に就いている警察関係者の名前から、青柳ナオとして生活をしています。武器は槍を使い、投擲で敵を倒す事も出来るようです」

 最後に三枚目、リタだ。

 「そしてこちらの緑の髪の子が、セルリット・エールヘイムという名前です。先の二人とは違い、姓名が揃ってるのには事情がありますが、詳細は省かせていただきます。彼女が扱うのは銃器ですね。そして彼女の耳ですが、これは所謂付け耳ではなく本物であり、我々とは違う種族出身という話です」


 「この三人ですが、現在は菊山市内に揃って下宿しており、三人とも中学生として生活をしています。学校名などは周囲のプライベートにも関わる事なので伏せさせていただきますが、三人とも成績も生活態度も優秀であり、我々に対して敵意を向けた事は一度もありません。つまり、我々の味方であると断言してもよろしいでしょう。事実私の知り合いがパイプ役として何度か彼女達と接触しているのですが、何れも良い性格をしており、出来る事ならば孫にしたい等と……話が逸れましたね。それほど我々にとっては友好的な存在であるという事になります」

 時折記者からも笑いが起こっているが、これは嘲笑ではなく、面白くての笑いだ。

 「一方の異形の者達ですが、彼らは先も申した通り、明確な敵意を持った侵略者であります。既に何人もの方が亡くなり、怪我人も多数に上っています。そして現状判明している範囲において、彼らに対抗しうる手段を我々は持っていないと言えます。既に銃弾の全く効かない相手や、衝撃波で広範囲に建物を損壊させる相手等も確認されており、予断を許さない状況にあります。ただし現在までに、何故か悪天候の時にしか姿を現さないという制約があります。そして彼らには種族というよりも種類があるようで、一種の製品ではないかと考えられます。つまり我々は、彼らの親的存在によって、遊び道具として侵略されているという可能性が存在します。もしもそうであるならば、これは文字通り命を弄ぶ、許されざる行為に他なりません」

 記者がざわめく。自分達の置かれている立場にようやく気付き始めたのだ。


 「彼女達とその侵略者との関係ですが、これには彼女達がこちらの世界へとやってきた目的が関係します。彼女達の証言によれば、彼女達の世界は、この異形の侵略者達にほぼ全て侵略され尽くし、滅亡寸前であるという事です。唯一彼女達の生まれた惑星一つだけが残っており、どうにか侵略者達に対抗している。そのような状況が約百年間も続いているとの事です。そして何故彼女達の世界は侵略されてしまったのか、という話に繋がります。彼女達の世界には、我々には考えられない事なのですが、武器という概念が存在しなかったそうなのです。これは彼女達の言葉を借りれば、項目にゼロがあるのではなく、項目そのものが存在しない世界だという事です。なのでもしも武器となるものがあったとしても、それが何なのか理解出来ないという話です」

 「武器が存在しないのに対抗しているというのはおかしいのでは?」

 「そうですね。これが不思議なのですが、約百年前の侵略開始と同時期に、唯一彼女達の生まれたその惑星にだけ、武器の概念が現れたそうです。これについては彼女達も、何故そうなったのかは分からないとの事です。彼女達が手にした武器の概念は、剣と槍と銃でした。しかし元々概念のない、つまり武器に関する知識も技術もゼロと言っていい彼女達のその武器だけでは、既に限界へと近付いている事を悟ったそうです。そして彼女達は我々の世界へと赴き、新たな武器とその技術を入手し、元の世界へと帰還する。それが彼女達の目的であります」


 「一部には彼女達が侵略者を連れてきたのではないかという声もありますが?」

 「これについては、完全に否定が出来ます。既に我々の調査において、最初の来訪者である赤い髪のサイキという子が来るよりも数週間も前に、侵略者の一部が我々の世界にやって来ていた事を突き止めています。更に、彼女達及び侵略者の出現したポイントには、特殊な電磁波が発生する事が判明しておりまして、その電磁波の種類が彼女達と侵略者とでは全く異なるという事が判明しています。つまり各々別の方法で我々の世界への扉を開いたと言えます。従って彼女達が穴を開け道を作り、それを通って侵略者が来ているという説も否定出来ます。これは当時の監視カメラ映像を見ても明白であり、緑の髪の子が菊山駅前に現れた時は、外側への爆風を伴っていたのに対し、侵略者は逆に内側へと吸い込む形で出現しています」

 「つまり彼女達は侵略者とは全く別の存在であり、我々の味方であるという解釈でよろしいのでしょうか?」

 「はい。その通りです。日本国の長である、内閣総理大臣である私の名に賭けて断言いたしましょう。彼女達三人は、我々のヒーローであります!」

 記者達から野太い歓声が上がる。既に誰もが、そうである事を望んでいたのだ。


 「そして彼女達を国家として全面的にサポートしていく事を宣言致します。まずは法整備を開始します。次に彼女達を日本国の国家特殊機関として配置します。とはいえ彼女達の生活が変わる事は断じてありません。これは国外からのスパイやスカウトを規制する事が目的となります。彼女達の大きな力を軍事に転用する事を目論む国もあるかもしれません。そのような人類の歩む先を考えない、短絡的な外的要因を排除する事が最重要と考えます。我々人類同士で争っている場合ではないのです」

 「次に戦闘での被害を国が全額補償致します。これは特別に施行以前、政府が認識する最初の戦闘行為まで遡って適用されます。ただでさえ命を賭けて戦いに挑む小さな彼女達の、心的ストレスを少しでも和らげてあげたいのです。恐らくは膨大な額になると思われますが、国民の皆様にはご理解をお願いしたい」

 「そしてもう一つ、報道規制を敷かせていただきます。彼女達はあくまでも中学生としての普通の生活を望んでいます。そこに今回のような大規模な押しかけ報道などされては、彼女達のストレスは増大するばかりです。従って今後は戦闘行為又は政府及び彼女達自身からの発信がない限りは、彼女達のプライベートを侵略するような報道行為は禁止とさせていただきます。タレントのような扱いも禁止、どうしてもと言うのであれば、政府を通していただきます。よろしいですね」

 顔を見合わせる記者達だが、誰も反論はしない。


 「彼女達の持つ技術というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか?」

 「私が報告を受けている限りでは、侵略される以前は外宇宙への渡航というのも日常的に行われており、所謂ワープというものも存在していたようです。そして我々には一切解明不可能なエネルギーを使用する事で、自由に空を飛んだり、大きな破壊力を有したり出来ているようです。専門家曰く、我々が数千年かけてようやく彼女達の装備の一部を解明出来るようになるのではないか、との事だったので、現在の我々の技術力では到底解明出来ない代物です。そもそも別の世界への渡航が出来るという時点で、超技術を有しているというのは明白ですね」

 「彼女達には弱点はないのでしょうか? そこを突かれるとまずいのでは?」

 「弱点はあります。彼女達も生身の人間ですからね。それから彼女達の使用しているエネルギーですが、実はこちらの世界に来た時に性質と言いますか、回復方法に変化が生じてしまったようでして、今現在もエネルギーを節約しながらの戦闘が続いている状況であります」

 「具体的には?」

 「彼女達の世界での状態ならば、二十分ほどで満タンまで回復するという事でした。しかし渡航時に変化が生じてしまい、その回復方法が未だに完全解明出来ていません。現在までに分かっている事は……えー真に不思議なのですが”絆”だそうです。人との絆が結ばれる、絆が強くなる、絆の強さを再認識する、というような事でエネルギーが回復していくようです。なので私は今回、敢えて大袈裟に記者の方々を集め、この記者会見に臨みました。この会見を用いて、日本国の国民の皆様と彼女との絆を結んであげたいと思い、私はこの場に立っています」


 「さて、ここからは我々日本国政府が独自に調査した結果判明した、彼女達三名に対するとても重大な案件についてお話を致します。この案件につきましては、彼女達すらも知らない事となります」

 再度大きくざわめく会場。大型スクリーンが用意され、総理大臣自らがそれを操作する。

 「まずはこちら、菊山市の全体地図です。そしてこの青い点が彼女達三人の出現した位置。赤い点が昨日までの侵略者の出現位置となります。ここまではよろしいですね? 次に赤い点を全て満遍なく結んでみます。それがこちら」

 その瞬間、記者の中から「あっ」という声が漏れる。

 「もうお気付きの方も居られるでしょう。では不要な線を外します。……ものの見事に一箇所で交わっていますよね。次に青い点、彼女達の出現した位置も線で結びます。すると三角形の最も長い辺が丁度交わります。更に、駅前の点を交点まで伸ばすと、辺の中心を通ります。あまりにも出来過ぎているので驚きますが、これは紛れもない事実です」


 「そこには何があるんでしょうか?」

 「はい。ここには菊山神社があります。そしてここから核心に入っていきます。ここ菊山神社は、全国的にも珍しい魔寄せ、厄寄せの神社であります。魔を寄せ封印する事で周囲の安全や健康を祈願するという考えですね。侵略者の交点に魔寄せの神社。不思議なものを感じますね。しかし話はまだ終わりません。この菊山神社には、過去に神隠しが発生、三人の男女が行方不明になったという話があります。それが約百年前。つい先ほども同じような年代の話がありましたよね」

 一層ざわめく記者達。周囲の人間が静める必要があるほどだ。

 「この神隠しに遭遇した人物ですが、調査により身元が判明しています。それぞれ剣道の師範である佐伯トミさん。漁師の直嶋篤太郎さん、鍛冶屋の池田千鶴さん。もうご想像が付いている方も居られると思いますが、別世界から来た三人と、神隠しに遭遇した三人の子孫の方とで、DNA鑑定を行ってみました。専門家によれば、この場合は五割もあれば充分、七割を超えれば確実だとの話でした。それではその結果をお伝え致します」

 一転静まり返る記者達。皆息を呑んで聞き入る。大型スクリーンにその鑑定結果が映し出される。

 「まず、剣道場の師範である佐伯トミさんと、赤い髪のサイキさん。DNA鑑定による、血縁者である確率は75%。間違いないでしょう」

 記者達から小さな歓声が上がる。

 「次に漁師の直嶋篤太郎さんと、黄色い髪のナオさん。結果は73%でした。こちらも確実でしょう」

 その歓声は大きくなる。

 「最後に鍛冶屋の池田千鶴さんと、セルリットさん。こちらは68%でした。専門家によれば、種族が違うので低く出たのではないかとの事で、ほぼ間違いないとの事でした」

 拍手をする記者まで現れる。


 「つまり、約百年前に菊山神社で神隠しに遭遇した三名は、別の世界へと渡り、武器の概念を発生させ、そして今、その子孫である三名の少女達が、我々の世界を救う為に帰って来たという事です」



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