表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の彼は忍者  作者: 紅葉
8/64

そして、2 月14日 4

本日の部活終わりーー!!


「11ヵ月もやってて、まだ弦を回転させるなんてダサ〜」


と由希ちゃんに笑われた。


そうなんだけどね。


頭の中じゃ、凄い剣豪になったつもりでも、実際は結構不器用なのです……。


「理沙は努力型だから〜」


と慰めてくれる優理花ちゃん。


一連の礼の稽古の後は、防具をつけて、礼、蹲踞、打ち合い、蹲踞、礼……と対戦形式で稽古したのだった。


部室に戻って、剣道着から制服に着替える。


部室までの道々、後ろから追い抜かれて行った男子部員に、「チョコ、サンキュー」と声を掛けられた。

やはり、朝の内に当麻先輩によって既に友チョコは配られたのか……。


あぁ……私の本命チョコは何処へ。



着替えが終わって、部室の掃除を済ますと三人揃って部室を出る。

二年生の副部長が部室の鍵を掛ける。

……高校生ともなれば、携帯電話や財布も学校に持ってくるし、貴重品を置いていく部室の鍵の管理は厳重だ。

副部長が職員室に借りに行って、部活中は部室を施錠。

部活が終われば、責任を持って職員室に返す。


……休憩時間に部室が開いている訳はなかった。血迷って、冷静な判断を欠いていたことを今さら後悔する。



「お疲れ様でしたーー」

副部長に挨拶をして、ドアの前で解散。


隣の男子部室からも、掃除当番の1年と副部長の藤波先輩が出てきた。

ガチャガチャと鍵を掛ける先輩の手から目が放せない。


男らしい大きな手……長い指……。

部室の鍵が小さく見える。


ドキドキ……。


あぁ……その手で頭を撫でられたりしたいかも〜


「おーい。理沙、帰ってこ〜い」


由希ちゃんの声に、はっと現実に戻される。


女子副部長と藤波先輩は鍵を職員室に鍵を返しに行っていた。


待ち合わせ場所聞かなかったな……校門で待っとく?


「藤波先輩から伝言。『ここで待ってて』って」


にや〜と笑う由希ちゃん。


「校門まで行ったら、またファンの子に捕まるもんね〜」

と、優理花ちゃん。


そっか。


部室棟の階段に座り、しばし雑談する。

それにしても、今から憧れの藤波先輩にチョコを贈るっていうわりに、二人ともやけに落ち着いてるなぁ……。


はぁ……。


「おまたせ」


涼やかな藤波先輩の声が。


「お疲れ様でーす」


三人共立ってお出迎えをする。


いよいよですか。


由希ちゃんと優理花ちゃんが、スポーツバッグから取り出した可愛いラッピングを施したチョコを差し出す。

中はそれぞれチョコマフィンとブラウニー。


「藤波先輩、いつも応援してます。どーぞ」

と由希ちゃん。


「副部長お疲れ様でーす。これ、宜しかったら召し上がって下さい。」

と優理花ちゃん。


「……」

と、私。

朝のドタバタをフォローしようもなくて黙ってしまう。


「ありがとう。みんなも春の選抜、応援してるから頑張ってね」

と、藤波先輩。

優しい笑顔付きでのお言葉を賜りましたよ〜。

頑張りますとも!!

地方予選落ちは確実でも、先輩の応援があれば、一戦くらいは勝てそうな気がする。


「それじゃ、吉田、置いてきますんで、先輩よろしくお願いしま〜す」


へ?


優理花ちゃんと由希ちゃんは、さっさと帰ってしまった。

置いてきぼりにされた私は、ボーゼンと立ち尽くす。


は?


「……大丈夫? 」


先輩が私の顔を覗き込んだ。


や、やめてください。

きっと、今人生で一番アホ面してますからっ!!


「送るよ」

あ……はい。

ご迷惑お掛けします。


っていうか、一人でも帰れます、けど。


藤波先輩が先に歩きかけて、まだ突っ立ってる私に気付いて止まり、待ってくれている。


慌てて追い掛け、藤波先輩の横に並ぶ。

幸せかも〜、チョコもういいです。

このシチュエーションだけでご飯3杯食べられる……冗談だけど。


「……」

「……」


会話は弾みませんが……。

横で一緒の空気吸ってると思うだけで、心臓バクバク。


校門は予想外に人気が無かった。

一歩先に歩いていた藤波先輩がふと歩みを止めた。


「吉田、どっち?」


あ、右か左かですか。


「電車通学なんで、左です…」


「……」


黙々と歩く。だんだん状況に慣れてきて心臓が落ち着いてきた。


こんなシチュエーションもうないかも、と思うと勿体無い。

もうちょっと、一緒にいたいなぁ……。


駅が近くなってきた。


はあ、もうお別れかぁ。

いや、明日も午前中だけ部活あるけどさ……。


単線の小さい駅。

県立高校の最寄り駅だから、平日の登下校の時間帯は結構乗降客がいるけど、今は閑散としている。


その駅の簡素な改札の前で、終点。


はぁぁ〜、着いちゃった。


カンカンカン……

駅近くの踏切が知らせる警告音が聴こえた。アナウンスなんて洒落たものはなく、その音で間もなく電車が来ることを知る。

これを逃したら、1時間の待ちぼうけだ。


「……吉田、チョコありがとう」


先輩と向かい合って立っていると、突然お礼を言われた。


「いえ、いえ。いつも、お世話になっているので……」


……主に妄想で。


まさか、どんなチョコがお手元に?とか聞けませんしね、義理チョコが渡ったと考えるのが正解だよね。


藤波先輩はゴソゴソっと自分のカバンを漁ると、ちらっと透明のラッピングバッグをカバンの口から覗かせた。

そこには、規格外に大きいハート型が!!


神はいた!!

神様ありがとう。


「大事に食べるから」


はにかむような、控えめな笑顔にドッキュン。


あぁ……このまま先輩の制服の裾を掴んで引き留められたら……!!


無情にも電車がホームに滑り込んできた。


「また……明日」


そんな、にっこり微笑んで手を振られたら、改札を通るしかないよ~。


「送って貰って、ありがとうございました」


ペコリと礼をして、まだ見送ってくれている先輩に手をブンブン振って、電車に乗り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ