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私の彼は忍者  作者: 紅葉
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初詣

 ピロリーンとメールの着信音がパーカーのポケットの中で鳴った。


 2学期の終業式が終わった、冬休み。

 相変わらず部活、バイト、そして舞台のための忍者アクショントレーニングと忙しい日々を送っている。

 家に帰れば、お母さんに頼まれて、窓拭き、お風呂掃除、買い物のお付き合い……。

 はぁぁぁぁ。

 

 今は、お母さんと一緒にスーパーマーケットに鏡餅と注連飾りを買い出しに来た……はずなんだけど、お母さんの押すショッピングカートには、それ以外にもみかんだの、餅だの金時人参だの、色んなものが乗せられている。

 重いものを優先的に私に持たせるつもりなんだ……。

 げんなりしながら、ポケットから携帯を取り出す。


 携帯のメール画面を確認して、思わず頬が緩んでしまった。

 だって、涼先輩からの初詣のお誘いだったんだもん♪

 楽しみ~♪



 元旦。

 振袖に襟巻姿の私は、涼先輩の家の近くの神社で待ち合わせをしていた。

 はあ、振袖って歩きにくい。

 ちょこちょこ小さい歩幅で歩くから、なかなか待ち合わせ場所に着かない。


「涼先輩、もう待ってるかなぁ~」


 急ぎたいけれど、やっぱりちょこちょこと小走りにしか、走れないのだった。

 

 神社の鳥居が見えてきた。

 境内の細かい砂利が、草履と足袋の間に入り込んで痛い。

 時々立ち止まって、脚を少し持ち上げて、砂利を出す。


「理沙」


 砂利を踏む足音と共に声を掛けられた。

 顔を上げなくても、誰だか分かる。


「涼先輩。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」


 お互い、はにかみながら年始の挨拶を交わす。


「理沙、着物姿可愛い……」


 涼先輩が目を細めて褒めてくれた、嬉しい~。


「えへへ」


 照れ笑いを返してしまう。


「お参りしようか」


 涼先輩の手が、籠を持っていない方の手を握る。

 手を繋ぎ、歩調を合わせて、ゆっくりと境内歩く。


 御手洗で手を清め、拝殿に進む。

 神社には大勢の参拝客が来ていたけれど、知っている顔が来てるかな~と、ついキョロキョロしてしまう。

 別に悪い事をしている訳じゃないけどね。


 順番が回って来たので、軽く拝殿にお辞儀をし、コロンとお賽銭を入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼……で良かったかな。


(今年も藤波涼先輩と仲良しでいられますように。今年こそ涼くんって呼べますように!!)


 しっかり神様にお願いをして、拝殿を離れた。


 その後、御神籤を引いてみる。

 小吉……微妙だな~。


「涼先輩、何でした?」


 先輩の手の中の御神籤を覗きこむ。


「わわっ。大吉! いいなぁ~」

「理沙は?」

「私は小吉でした~」


 しょんぼりして告白すると、涼先輩がクスっと笑った。


「これから運気が上がってくるんだよ。心配無い」

「そうかな~、それならいいんだけど」


 お母さんに頼まれた破魔矢と今年の受験の為に学業のお守りを買って、神社を後にした。


「理沙、うちに寄っていく?」


 ドキン。


「え? いいんですか」


 声が上擦っている気がする。


「いいよ。今日は、お爺さんも母も皆いるから、心配しなくていいよ」


 本心を見透かしたみたいに、クスクス笑われる。

 う……。

 クリスマスを思い出して、顔が熱くなる。あの時は未遂だったけど。

 いいんです、先輩となら。

 クラスのお友達でも経験しちゃった話も聞くし、興味はあるんです。

 でも、ちょっと怖い……。

 それより、ご家族全員集合の所に顔を出す方が、緊張します~!!


 あれよあれよという間に、涼先輩の家に到着。


「お邪魔します~」


 大きな声で挨拶すると、まず先輩のお母さんと真梨子さんが玄関で出迎えてくれた。


「まあまあ! 可愛らしい事!! 理沙ちゃん、いらっしゃい」

 と、先輩のお母さんが褒めてくれた。


「明けましておめでとうございます~」

 と、年始の挨拶を交わす。


「明けましておめでとうございます。今年も涼をよろしくね。ふふっ」

「姉さん……」

 いつ見ても華やかな真梨子さんと、ちょっと恥ずかしそうにむくれた先輩のやりとりが面白い。


「お義父さん、理沙ちゃん来てくれたわよ~。さあ、どうぞ、入って入って!」

 と、先輩のお母さんが内に声を掛けて、家の中に招き入れてくれる。

 お爺さんに、先輩のお父さん、それにお兄さんに篠原さんも集まっていて、とても賑やかだ~。


 みなさんに年始の挨拶をしてまわって、ちょっと疲れた……。


「理沙、疲れただろ? 俺の部屋に来る?」


 先輩が気遣って声を掛けてくれた。


「涼!! 女の子部屋に連れ込むなんて、や~らし」


 お屠蘇で顔がピンクになった真梨子さんがからかう。


「そんなんじゃないし。こっちの方が落ち着かないだろ」

「えっと、私も涼……くんの部屋見てみたいかも」


 どきどきしながら、初の『涼くん』呼びしてみました!!

 先輩の目が、少し見開きましたよ。ふふっ。


 案内された先輩の部屋は、モノトーンで統一された男の子らしい部屋。

 ベッドと、勉強机、コンポなどはあるものの、忍者のポスターが貼ってあったり、手裏剣が飾ってあったりはしない。なあ~んだ。

 お。でも、竹刀は置いてありますね。……って、私の部屋にもあるけど。


 異彩を放っているのは、勉強机の上に飾られた、ピンクの水玉シーサー……。

 全然調和が取れていない!! 

 男の子の部屋にピンクはないわ~。

 すごく、すごく、先輩に申し訳ないような気持ちになってきた。

 

「先輩、ごめんなさい!!」

「どうしたの、急に」


 先輩がキョトンと不思議そうに聞き返す。

 だって、だって!!


「私があげたお土産、変すぎます~!!」


 聞いた途端、先輩がブハッっと吹き出した。

 ひとしきり笑い止むまで、羞恥に耐える。


「それは、気付いてなにより……いや、気持ちは嬉しかったよ」

「先輩~!! 全然フォローになってません~」

「それより理沙、また『先輩』に戻っちゃったね」


 先輩の双眸が妖しく光る。


 あ。


 手首を掴まれたと思ったら、重なる唇。

 

「『先輩』って言ったら、罰にキスするから」


 え~!!


「『涼先輩』はセーフですか~?」

「そうだね、学校のときは『涼先輩』でいいよ」


「うぅ……分かりました」


 満足げな先輩は、さっき2回言ったからって、もう一度唇を重ねてきた。

 鍵の掛かっていないドアの向こうが気になるけど、幸せなドキドキで胸がいっぱいになる。

 先輩……罰ゲームになって無いですよ。

 


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