お出掛けデート 5 映画村でも忍者修行しました♪3
後ろから誰も来ていないのを確認して、赤く塗られた鉄製のはしごを昇る。
丸くくり貫かれた壁を、ヨイショとすり抜ける。
そうして、奥へ、上へと登った先に宝物はあった。
千両箱が積まれた小部屋に置かれたスタンプ台。
その上には金色のインクと、巻物(5)と記されたスタンプが置かれていた。
自分で、巻物スタンプを用紙に押す。
後は、ゴールを目指すだけですね。
足許に気を付けながら、先輩の背中を追い掛ける。
はしごを降りる時は、私から最初にと、譲られる。
板を跨ぐときには、手を貸してくれる。
先輩は変わらず優しいのに、目が合わないとか、交わす言葉が少ないとか、そんなことが気になって、私の心の中に澱が溜まっていく……。
出口が見つかって、外に出る。
「お疲れ様でしたーー!!」
スタッフさんに明るい声で出迎えられ、6つめのスタンプを押してもらった。
……あと、2つ、か。
楽しい気持ちが、空気の抜けた風船のように萎んでしまっているのが分かる。
このままじゃ、ダメだ!!
「……先輩、あの……」
表情は、きっと強ばっている。
「理沙、続き廻りたい?」
先輩が、静かな声で問う。
……。
無言のまま、俯いて首を横に振った。
「そう……。じゃあ、そろそろ出ようか」
「はい……」
差し出された手を握る。
……もう帰るのかな。
……もう少し一緒にいたいな。
……こんな雰囲気のまま別れたくない。
そう思うのに、どうしていいか分からない。
手のひらから伝わる体温に鼻の奥がツーンとして、泣きたくなってくる。
泣いたら駄目だ。ウザいだけだよね。
「理沙、最後にアレ、乗ろうか」
先輩の声に顔を上げると、
『漆黒の魔界ツアー』の看板のかかったアトラクション。
……ホラー系のライドですか?
「先輩、ちょっと怖いのは……」
引きつった表情でお断りするも、グイグイ引っ張られて、入場ゲートをくぐらされる。
夕方の時間帯もあって、待たずに案内される。
気分は断頭台に送られる囚人のものだ。
生きて帰って来れないかも知れません……。
ベルトコンベアに載せられ、ゆっくりと流されてきたペアシートに並んで座り、頭の上からガシャンと安全バーが下ろされた。
安全バーが要るようなアトラクションなの!!?
いやーー!! 怖いのいやーー!!
入口から騒ぎ続ける私に、強引に連れ込む先輩。そんな様子を見守っていたスタッフさんが、微妙な顔で送り出してくれた。
洞窟の入口のような、真っ暗な闇にライドは次々吸い込まれていく。
前のライドにも、後ろのライドにも誰も乗っていない。
人気無いんじゃないの、これぇ?
止めようよ〜!! 帰ろうよ〜!!
『ハハハハハ……』
お腹に響くような低音の笑い声に迎えられ、ライドは進んでいく。
時おり、キーー、キーーと、コウモリの鳴く声が聴こえた。
ビクビクして、先輩の腕にすがり付く。
「理沙、こっちを向いて」
先輩の声のするほうに顔を向ける。
身体を横から抱き締められる感覚。
冷房の効いた室内で、先輩の体温が気持ちいい……。
うっとりと抱き締められるままに、身体を預けていると、顎を指先ですくわれて、上を向かされた。
途端に塞がれる唇。
真っ暗なのに、目を閉じてしまう。
先輩の唇の温かさ、先輩の体温……。
唇も舌も柔らかい……。
ドキドキが止まらない……。
アトラクションが恐怖を煽って盛り上げている音も、自分の心臓の音に掻き消されて、耳に入らない。
やがて離れる、先輩の唇……。
ボーッとしたまま、アトラクションが出口に向かう。
「お疲れ様でした〜〜!!」
スタッフさんの明るい声に、パチンと現実に引き戻される。
ライドから降りる時に、ふらりとよろけそうになった。
先輩に支えて貰って、何とか降りると、スタッフさんの顔が見られなくて、そそくさと出てきてしまった。
先輩のお陰で怖くは無かったけど、絶対アレ! 監視カメラとかで見られてるよねーー?
わーーん!!
恥ずかしいよぉ!!
ぷぅ、と頬を膨らました顔で先輩を見れば……アレ?
機嫌が直りました?
何だかスッキリした表情になった先輩は、面白そうに私の頬をつついてきた。
「理沙のほっぺたを見てたら、たこ焼が食べたくなった……」
「私も!! たこ焼、食べて帰りましょう!!」
「クスクス。そうだね」
楽しそうに笑う先輩に、機嫌が直った事を確信して、「良かった」と、胸を撫で下ろす。
「先輩、さっきまで何を怒ってたんですか?」
冗談を混ぜっ返す風を装って、聞いてみた。
「ん? 怒ってないよ」
「でも……」
言い淀む私の耳許に先輩は口を寄せて。
「あんまり煽るとお仕置きだよ」
ニヤリと笑って、離れていった。
はい?
意味不明な台詞に戸惑いつつ……、約束通りに映画村を出た。
京都駅に戻ってから食べたたこ焼は、九条ねぎがたっぷり載っていて、美味しかった。




