〆 第二章
校舎を出て、校庭を見るとB組が何やら応援の練習をしていたが、わたしたちは完璧に無視した。
感じ悪いカノコがいるし、下手に声をかけるとまた絡まれそうで嫌気がさしたのだ。
わたしは、一緒に歩いていた二人に、先程から気になっていたことを質問してみた。
「あの、カエデとソウタさんは仲がいいんですか?」
「うーん、そうだな。でもぼくは基本的に普通だよ」
ソウタさんはにこにこと微笑みながらなんとも微妙な返答をした。普通が何か解らない。はっきり言うと質問に対する答えとして適していないが。そう
言うのもなんなので、適当に相槌をうっておいた。
カエデはその後に続いて言う。
「俺も普通。でも、兄貴ってば超面白いんだぜ?外ではクールに振舞ってるけど、家の中じゃバカでバカで…」
彼はクククッと押し殺したような笑みを浮かべながら家でのソウタさんの言動について語り出した。その内容を説明すると。
カエデが寝る時ベッドに入ると、いきなり耳もとでセミの鳴きマネしてくるとか、ゴリラのマネしたりとか。上半身は普通に着衣してるのに下半身はパンツ一丁でなぞの踊りをしているとか…。
一瞬でイメージが崩壊した。今までのクールなソウタさんは何処へ行ったのだろうか。
話題となったソウタさんは少し顔を赤らめて、ずっとそっぽを向いていた。
改めて思ったことは、カエデが兄のことを結構好いているなーということだった。嫌いだったらあんなに楽しそうに話さない。
少しだけ、たそがれているとコンビニについた。緑と白を主調とした配色の、王手コンビニエンスストアである。
わたしたち三人は中に入った。自動ドア独特の音と共に、素晴らしく涼しい風が歓迎してくれた。とても気持ちいい。
カエデとソウタさんを入り口に残し、わたしは失礼ながらアイスコーナーに真っ先に駆けつけた。
二人は苦笑すると、スナック菓子コーナーへ行き、相談しながら商品をカゴにぽいぽいを放り込んでいた。
たくさんの魅力的なアイスの数々を前にして、わたしはいつも以上に真剣に悩んでいた。どれも美味しそうだ。でもあまり買いすぎると、暴食女だと思われてしまいそうで怖い。今なら四つはいけそうだ。
味は決めてある。バニラだ。疲れているときはバニラしか食べられないというなぞの性質をもっている。
と、そこへ灯火兄弟がやってきた。カゴはもうスナック菓子でいっぱいなのに…と思ったらカエデがもう一つもってきた。どんだけ食べるんだ。
ソウタさんが「どれにする?」と聞くとカエデがさっと全体に目を通し、素早くコレとコレと…と五つの商品をカゴに入れた。なんて素早いのだろうか。
「五つだと割りきれないから、一つ戻そう。じゃあコレとコレをぼくが買うから、コレとコレよろしく」
「了解」
二人はそそくさと決めてしまった。わたしも弟が一緒だったら無理矢理はらわせて全部食べてやるのに…。
誰かいないかー…と店内に目を配るわたし。なんてがめついのだろうか…。と思ったそのとき、視界に見覚えのある黒髪メガネが見えた!
「あ―――っ!リノ!」
「へ、スズ?」
救世主だ。救世主が現れた!ちょうど彼女もアイスを購入しようとしたところだったらしい。
「あのさー、リノ。これ、買ってくれない?もちろんあげるから」
「なんていう卑怯な…じゃあこれも買ってよ」
「くっ…お主、なかなかやるな。仕方ない」
これ以上ネバると、買ってくれなさそうな雰囲気だったから、リノが手渡してきたソフトクリームも購入することにした。
このときのわたしは、ソフトクリームも買った時点で結局値段は同じくらいだという事に気づかなかった。
わたしはスキップしながらレジへ向かった。
コンビニの外では、ヤンキーのようにたむろした灯火兄弟がアイスをほおばっていた。
突然、リノが腕を肘でつついてきた。ハッと我にかえり前をむくと、動かないわたしに対してレジのお姉さんが困っていた。
急いでアイスを渡し、お姉さんがバーコードリーダーでバーコードを読みとり、「五百二十五円です」と、笑顔で事もなげにお金をこそぎとろうとしてくる。
高いな。バニラアイスとソフトクリームの値段としては普通かもしれないが。
わたしは泣く泣く財布からお金を出し、レジ袋を断り、店を出た。
無料の営業スマイルも、時には悪魔の微笑みに見えてくるから困る。
そのままたむろしている灯火兄弟の隣に腰掛け、アイスを開封して食べた。
バニラの風味が口いっぱいに広がり、さきほどのショックからも立ち直れそうだった。何ともいえぬこの味がなぜか憎い。
リノもわたしの隣に座り、ぺろぺろとソフトクリームを食べている。
食べ始めると一瞬だった。気づいたらカップの中には溶けたものしか残っておらず、絶望に打ちひしがれた。
それでも名残惜しく、蓋までぺろぺろしちゃおうかなとか思っていたけど、視線を感じたのでやめた。危うく犬になるところだった。
「じゃあね、スズ。また今度」
「お疲れ様、頑張ろうね」
灯火兄弟はわたしに手を振ると、楽しそうに談笑しながら帰ってしまった。
二人と別れた後、わたしとリノも家へ帰る。
「スズー、あれからどう?ユウと進展した?」
「ぶふぉっ!……ないない、急に何?」
そう、わたしはユウのことが好きだ。
最初はあのね…泣きそうな顔に惚れた。内緒でお願いします。
ツンデレなところとか直球ど真ん中ストレートだし、小さめの身長とかたまに見せるかっこいいところとかが好きだ。
正直言うと、進展もなにも、関係は逆に過疎してきてる気がする。ただのお友達になってきてるっていうか。
なんとも微妙に笑うわたしを見て、リノは心配そうに顔を覗きこんできた。
「なんか全然進展なくて、見てるこっちもつまらない感じでして」
「いや面白がられちゃ困るんだけどね…」
「ユウを見て『きゅーん』としたことないの?」
「べべ、別に?ないけど?」
実はさっきあったばかりだとは死んでも言えない。
「ホント?嘘じゃないよね?」
「嘘つくわけないでしょー、あはっ、あははは…」
「そっか」
うう、罪悪感が…親友のリノに嘘をつくだけで自分を戒めたくなる自分の弱さに絶望するよ…。
リノはまだ疑わしげな表情をしていたが、それ以上詮索するのをやめてくれたようだ。助かった。
いつもの歩道橋でわたしはリノと別れ、家に着いた。
「ただいまー」
誰かが返事をしてくれるわけではないが、習慣というものがついているせいで、挨拶が口からこぼれる。
二階に上がる途中、弟と出会ったが、彼はゲーム機を抱え込んだまま無視して階下へ降りて行ってしまった。最近つれない。ちょっと寂しい。
部屋にはいり、鞄をベットに放り投げて自分も倒れ込む。
過疎してきているユウとの関係を深めたいとも思わないし、かといってこれ以上悪くなっても困る。どうも曖昧なこの感情をどう表せばいいのか解らなくて深いため息をついた。
そのとき、カバンの中でおなじみのメロディーが流れた。携帯がメール着信を知らせてくれている。
わたしは小ポケットの中からドラフォンを取り出し、新着メールを開く。アヤリからだった。
『お疲れ様~!明日の休み時間も使って練習するから、学ランはもってこなくて大丈夫だよ。
休みの日は、ソウタさんも練習に付き合ってくれるみたい。残り一週間頑張って練習しよう!』
実に気合いの入った内容のメールだった。
『了解です。頑張りましょう』と返信すると、わたしは携帯の電源をおとした。
それから、一応今日の動きの復讐をしておこうと立ち上がり、覚えている限り、鏡の前で一人で踊ってみた。皆が居ないと虚しい。
予想以上に疲れている。お腹はすいていない。さっきアイスを食べたからかな。しかもまぶたは閉じかかっている。
あ、もうだめだな。と思ったとき、わたしは既に深い眠りにおちていた。