〆 第一章
「ふぅ~…終わった…」
演説を終えたわたしたちは、生徒会室に戻ってきていた。
生徒会室はC棟三階の、二年G組の隣に位置する。風通しは最高、設備は完璧なわたしたちのオアシスだ。
会議用の長机、役員用と来客用の椅子、エアコン、扇風機×四、ヒーター、ふかふかソファ、ミニテレビ、冷蔵庫全て完備されている。
冷蔵庫の中には常にコーラとオレンジジュースとスポーツドリンク、紅茶、お茶の五種類が揃っている。
だが会長がエアコンのリモコンをなくしてしまったので、エアコンは使えない。もうすぐ夏が来るというのに。
「暑いー、だりぃー」
会長はふかふかのソファに腰掛け、ぐでーんともたれかかると愚痴をこぼした。
それを苦笑しながら見つめていたアヤリは、自分の定位置に足を組んで座り、冷蔵庫から取り出したのだろうコーヒーを一口すすった。
彼女は幸せそうな表情をつくり、至極の一時を満喫していた。
しかしふと何か思い出したような表情になると、わたしたちを見まわして言った。
「そういえば、何か活動しなくちゃ…。そうだ、何かイベントを創りましょう。それも伝統行事にできるような」
「春のイベントぉ?」
同じように暑さにうだっていたユウは顔をあげて、ため息をついた。
「春といえば…入学式ですね。もうすぐ新一年生が入ってきます」
「確か来週よね」
入学式というと、どこの学校にもあるごく普通の行事だが、それをどう盛り上げていくかが生徒会執行部の役目である。
わたしたちの代から、入学式を伝統的にこうする!っていうのを決めたとすると、なんだか歴史の一部になったみたいで嬉しい。
先程のアヤリの問いかけにショウが頷き、来週行われる入学式について話し合う事が決定した。
わたしたち生徒会は、とても仲が良い。わたしとユウは幼馴染みでもある。
一年生の時に全員が出会い、それぞれが伝統をつくりたいと思い始めた。
そのためには、この学園の生徒のトップである生徒会にならなくては始まらない。と思ったわたしたちは個々で努力し、二年生の年度末に、生徒会執行部に
立候補した。その結果、努力の甲斐もあったのか、こうして当選することができたのだ。
ものぐさのカエデが、トップのトップである生徒会長に立候補したのにも驚いたが、全員で伝統をつくりあげたいと願ったのは事実だから、わたしは会長として彼についていくことに決めた。
勿論、生徒会長に立候補したのはカエデだけではなかった。もう一人強力なライバルがいた。
それは三年B組所属、宝代カノコだ。彼女は成績優秀で、大企業の社長の娘といういいポジションについている。だがこの学園の全員を自分の下僕だと
思い込んでおり、少し残念な女子生徒だ。
だがカエデは、生徒たちから圧倒的な人気を誇るスターだ。男子からはその人望を、女子からはその容姿の端麗さを買われ、見事生徒会長に就任したのだった。当選結果が出た時のカノコの悔しみようときたら、今にもカエデに殴りかかりそうな勢いだった。
それ以来、カノコはカエデを敵対心バリバリで見るようになったのだ。ちなみにわたしやユウは、他の立候補者と僅差で勝利した。
こうして、今の生徒会ができたというわけだ。ここからが勝負!頑張らないと。
アヤリがしばらく悩ませていた頭をあげ、提案した。
「なんかこう…パーッとしたいよね!」
「じゃあ…おい、パーティーしようぜ!」
「なにその某サッカーアニメみたいな言い方。パーティーはいいんだけど、何するの?」
カエデが両手をわーっと挙げて、猛アピールをする。が、冷たいアヤリの切り返しを受けて彼は真面目な顔になった。
「ゲーム」「却下」
カエデの提案は瞬殺されてしまった。いつもの光景なんだよ。
わたしは真剣に考え、呟いた。
「一年生が喜ぶこと…喜ぶこと…」
「そうね、スズ。一年生は初めて高等部に来るんだからね…それをヒントに」
同じようにアヤリも呟く。するとユウが人さし指を立て、一つ提案した。
「じゃーさ、部活紹介とか。部活動についてなんか面白いことしたらいいじゃん」
「……いいと思う」
ショウも頷く。
「いいわね!じゃあ、活躍した部活ランキングとかをつくれば?」
「……いいと思う」
またもやショウは頷く。わたしたちも彼と同意見だった。
なんだか生徒会が一つにまとまった感じがして嬉しい。
「先生から時間貰っとく」
「よろしく!」
ユウが雑用を引き受け、あとは全員で調べ物をして映像を作成すれば完璧だ。
「さあ、決まったことだし、早速―――…」
(すぅ…すぅ……ぐがー…)
雰囲気をぶち壊しにする寝息といびきが聞こえた。音の発信源は会長ことカエデだ。見なくても解る。
「……まずは、こいつをどうにかすることが必要だな」
ショウは、皆の気持ちを代表して呟いた。
その後カエデは袋叩きにされ、涙目の彼は無理矢理活動に参加させることになったのだった。