初登場
「僕に恨みでもあるのか!」
「いいや、恨みなんか何もないさ。ただ、顔を見てる」
「家に帰ったって警察にも誰にも話すつもりはない!君の顔も忘れる!本当だ、信じてくれ!神に誓うよ!」
「俺は神なんか信じてないんでね」
「頼むよ……おい、それは何だ?」
「ガソリンだよ。アンタにもたっぷりと被ってもらう」
「やめてく……うわっ…」
「後は火を付けて、俺は逃げる。アンタは火ダルマになって死ぬ。俺は無事に逃走、金を手にする」
「そんな!どうして殺されなきゃならない!?」
「だから、俺の顔を見たからだよ」
「そんな…」
『ジョン、生きたいか?』
「…何だ?」
「何?」
『死にたいか?それとも生きたいか?』
「一体誰なんだ!?」
「…頭がおかしくなったか。金ありがとよ」
『さぁどっちだ!答えろ!』
「生きたいに決まってるだろ!」
「そいつは残念だったな、あばよ」
「あがぁぁあアぁァあァアァッ!!」
「何だコイツ!全身から血が噴き出しやがった!」
「あぁアあぁァァァアあぁァァァァァぁッ!!」
「燃やすまでもねぇ!うわぁっ!」
「Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」
「ち、近づくな!テメェはガソリン被ってんだぞ!?俺のライターで火を付けた瞬間にテメェはすぐに燃え上がるぞ!」
「ピーピーうるせぇんだよアホが!パッと見たところ…お前は悪人のようだな…」
「何だよお前ッ!さっきまでと人が違うみてぇに…」
「人が違う?うぅん…惜しい!惜しいけど違うんだよな」
「なッ!?いつの間に背後に!?」
「まぁ人の身体ん中入ってるからほとんど人みたいなモンだけどな。あれ?人間の身体って水分がほとんどなんだっけ?」
「し、知るか!さっさと失せろ!」
「思い出した!確か六十パーセントぐらい水分だ!つまり」
「ヒィッ!?また後ろに!?」
「この身体の半分は俺で出来てるってことだ。俺は悪魔だから、人間の食い物じゃあ栄養が摂れないんだよな。分かる?」
「さっきから何が言いてぇんだ!頭がおかしいのか!?」
「つまり、俺の主食は」
「がッ…」
「悪人の魂だから、お前の魂を食うって説明してやるつもりだったんだけど。悪ィ、待ち切れなくてもう食っちまった。ご馳走様」
「あ、血液と水分だとニュアンス違うか。聞こえてねぇだろうけど、一応訂正。な」
「って感じになったんだが、どうだ?」
「どうって、これはボツだ」
「なんだって?次は何が気に入らないんだ」
「あのさ、俺が前に言ったコト覚えてる?」
「あぁ。『悪魔を書くなら格好良く』って言ってたな」
「その通り。これのドコがカッコいいの?」
「わからないのか!?」
「俺には全然わからないね。大体最初の登場だってのに、最初なんだぜ?インパクトのある掴みが大事なんだ」
「視認出来ないスピードで動きまわって、背後から心臓を右腕で貫き刺す!格好良いだろう!」
「だから心臓じゃないんだって言ってるだろ。心臓から右上四十八度、三センチ七ミリ上だ」
「ほとんど同じじゃないか。それより何が不満なんだ。格好良いだろう?」
「圧倒的に強い相手が…そうだな、猫がネズミを捕まえるのを見てカッコいいってアンタは思うのか?」
「思わないが」
「つまりそういうことだよ」
「なんだって?」
「つまり、悪魔と人間では、猫とネズミの関係同然なんだよ」
「君は少し人間をバカにし過ぎだ。『窮鼠猫を噛む』って知らないのか?」
「それより、こんな戦闘中にペラペラ喋るのはダサいって」
「事実として、君がやったことじゃないか」
「なぁ、それよりジョン。俺は腹が減ったんだけど」
「話を逸らすのか。いいよ、じゃあ悪人探しに行こう。歩きながらこの小説についての議論を続けようか」
「やっぱり決め台詞とか、登場する時の演出とかさ。あと、武器と乗り物が欲しいな」
「メアリー、ちょっと散歩に行ってくる。あぁ、大丈夫だ。一時間もしないで帰ってくるよ」
「それからヒロインだな。飛びっきり美人の…」
「バカを言うな。メアリーがいるじゃないか。美人だろ?」
「三十代のヒロインじゃあ、いくら何でも厳しいぜ」
「他には何だって?乗り物とか武器だったか?」
「そう。シルバーのドクロとかさ、そういうイカしたデザインのついたバイク!カッコいいだろ?」
「君は子供か?コミックじゃあるまいし、僕は好きじゃない」
「なんだって?これだからオッサンは…」
「それから、バイクに乗るならしっかり法廷速度を守ってもらうぞ。スピード違反で捕まりたくない」
「あぁ、アンタなんかと契約したのが失敗だった」
「僕だってあの時君を乗せたのが失敗だったよ。そうだ、決め台詞でも作らないか?」
「それは賛成だよ。何がいいかな…」
助けてーっ!
「悲鳴だな。近いぞ」
「悪党が多くて助かるよ。餓死する心配ないからね」
「そういえば君は魂を食うんだったか?」
「そうだけど?」
「こんなのはどうだ?」
「ディナーの時間だ!」
「カッコ悪いだろ、それ」
「そうか?僕はイカしてると思うが…」
End