第0頁 出会い (中編)
現在、俺はコンビニでチョコパンを買って食べながら登校中。行儀悪いだって?別にこの通学路は、人自体そんな通るようなところでもないから別に関係ないと思っている。
どうせ誰も見てないだろうし、見たとしても注意なんてする人はいないだろう。
今のところ特に変わったことも無いし、スケジュール帳に書かれていたことがやっぱり嘘だったと信じ、俺は普通にパンを食べながら通学路を歩いていた。
そして数分歩き、俺が十字路にさしかかる時にそれは起きた―
一人の女子生徒が横断歩道を渡っていた時、一台のバイクがなぜか赤信号なのに無視して運転しているのが見えた。
「おいおいあのバイクちょっと危ないだろ……」
と俺はあることを思いだした。
「まさかな……」
そして、俺の考えていたあることが現実となるかのように、バイクの運転手の声が聞こえた。
「ちょっ…、おい、危ない!って、あああっ!」
「えっ……⁉」
キィィィィイ、ドン!
「きゃあああああ!」
「な⁉」
何かがぶつかったような鈍い音とほぼ同時に、一人の女性の悲鳴が聞こえた。いや、正確には横断歩道を渡っていた女子生徒の声であることは容易に認識できた。そして、鈍い音も何が原因であるのかくらいすぐに理解できた。
「マジで事故りやがったぞ……」
バイクがその女子生徒に接触したらしい。俺は目の前で人が事故っているのを見て驚きが隠せなかった。そして、俺はその場を立ち尽くすことしかできないでいた。
「おいおい、冗談だろ?」
俺はその場に立ち尽くしてしまった。助けをよぶか?いや、救急車でも呼ぶのがこの場合は懸命な判断かもしれない。ただその時の俺は何も出来なかった。いや、あんな事故現場を実際に目の当たりにして動ける人間なんてそうはいないだろうと俺のネガティブな思考が、結果として、俺の行動すべてを封じた。
俺がそうこうしているうちに―
ブォオオオン!
「なっ!」
しかも、女子生徒を轢いたバイクは、何事もなかったかのように体勢を立て直して、被害者である女子生徒を見捨ててその場を去っていった。
「ま、待ちやがれ!…、ってもう行ってしまったか」
俺の声は虚しく、ただ奇声をあげた人のようになってしまった。
そして、俺は肝心なことを忘れていた。
「あ、あのバイクのナンバープレートの記憶忘れてた……」
俺は轢いたバイクのナンバープレートですら、記憶しておくことを忘れてしまっていた。
「しまったなあ、こりゃマジで困ったぞ」
今、この事故現場の周りには、轢かれてしまい道路上で倒れている女子生徒とチョコパンを食べている俺しかいなかった。
はあ⁉
え、何この状況?ふざけてんのか⁉
今、新たな被害者が生まれました。それはもちろん俺のことだけど。
「とりあえず誰でもいいから、許してください……」
一応もう一度、事故現場にいる人の確認として、今この場にいるのは……、女子生徒と俺のみ。
おい、ふざけんなよ!絶対他に誰かいるだろ!
俺はこの現実に納得いかなかった。
そして、轢かれた女子生徒だが、よほど打ちどころが悪かったのだろうか依然として横断歩道から動けそうにない、というか動いていない。まさか逝っちゃった?
冗談でなく、もしかすると意識がないのかとまで思えてきた。
そこで俺は女子生徒を横断歩道の上にいる事があまりにも危険だと感じたので、様子を見に行くことにした。
「とほほ、なんでこんなことに……」
と一人嘆きながら、その女子生徒の下へ行った。
とりあえず怪我がないかどうかは確認したけれど(もちろんその女子生徒に触れちゃいない。触れるなんて勇気も好奇心すらも無い)、特に目立った外傷はないようだ。そして、その女子生徒を起こそうと俺は声をかけた。
「あ、あの……、大丈夫ですか?」
見事に気合の抜けた小さい声だった。
実際、どちらが重傷なのかと考えてみると、コミュニケーション能力的な問題で言えば、明らかに俺が重傷なのかもしれない。
ああ、俺の役立たずぶりに涙が出そうだよ。
「ああ、もう……くそっ!」
こっちの方が声大きかったな。本当に情けないな、俺。
その後も何回か声をかけたが、女子生徒の意識は一向に戻らなかった。
そこで、俺は時間もないので強硬手段を取ることにした。俺はその女子生徒を不器用ながらもしっかりと両手で抱えて横断歩道を渡った。
ここの横断歩道を渡り終わればもう学園はすぐそこってくらいの距離だ。その為、女子生徒をここで置いて放置することも考えたが、それは今の状況であまりに冷徹すぎる。
それで彼女を俺の背中におんぶして学校にいくことも考えたが、もし俺がおんぶしていく途中で、さらに被害が重度になって、彼女が足とかを骨折してしまうなんてことがあったりしたら、それは俺としても責任を負うなんてことは出来ないし、可哀そうだと思った俺は、ある結論に至った。それは、俺にとってかなり癪にさわることだった。
でも、そんなことを言ってはいられないと感じた俺は決心した。それは―
彼女をお姫様抱っこしていくことだった。
俺はその女子生徒を抱えたまま歩くことにした。
そんなことよりも学園に向かうことを最優先していた俺は、今の状況なんてこの際、どうでも良かった。
「ああ、絶対遅刻だな。はあ」
しばらくして俺と女子生徒は何とか学園に着いた。
そして、すでに校門の近くには誰もおらず、クラスごとの朝礼が始まる五分前に、俺は見ず知らずの女子生徒(意識不明)を抱いて登校した。何とか登校時間には間に合ったようだ、とりあえず安心……、というわけでもないか。
「さて、彼女をどうするかなあ……」
そんなこと考えてどうする、俺!馬鹿か!
そして俺はその女子生徒を保健室に連れて行き、養護教諭の先生に事情を説明した。
ただ俺がバイクのナンバーを記憶していなかったことが最悪で、なぜか人助けしたはずの俺が謝る羽目になってしまった。
世の中、いや社会のルールってものはなんてこんなに難しいんだ
「だから人と関わるなんて嫌だったんだ……」
そうして一連の問題が片付いて、俺がクラスに入った時には既に、朝礼が終ってクラスの人たちは一限の用意をしていた―