表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第0頁 出会い(前編) 続き②

 「……んっ」

 スケジュール帳が完全に開くまで、俺は両目を閉じていた。ちょっとした癖だ。

 それは俺がそのスケジュール帳が開かれるまでの期待を表してる。

 そして、


 「……あ、あれ⁉」

 目を開いたら俺の期待はすべて打ち砕かれたことを理解した。

そのスケジュール帳は真っ白なメモ紙の部分や、カレンダー、自分のプロフィールを書き込める部分など、基本的に必要なスケジュール帳の要素はそろっていた。はっきりと言えば、ごく普通のスケジュール帳のそれだった。

 「俺の、あの期待を返してくれ……」

いや、そんなのを俺は期待していたわけでは……、と自分に嘘を吐こうかとも思ったのだが、普通に考えてみればこの機能が無いスケジュール帳は、もうスケジュール帳とは呼べないだろう。

そうすると俺がここへ来た本来の目的を失ってしまうことになる。それは何の意味も無いことだ。また店を探して買い直すなんてもっての外だ。

「(仕方ない……、諦めよう)」

 そこは諦めるような問題でないことぐらいは分かっている。分かっているんだけど。

 ……ん?それじゃあどのスケジュール帳を取ってもいいんじゃないか?って。

いや、それは違うと俺は思うな。

 「(そうだよな、俺)」

 俺は黒いスケジュール帳以外を選ぼうとは思わなかった。

「これにしよう。

いや、あの状況から、これ以外のスケジュール帳を選ぶ選択肢なんてあるだろうか。

これはきっと何か、運命的なものなのかもしれない!」

 最後の言葉は正直、頭おかしいんじゃないかと思われるかもしれないが、このときの俺の気分はとてもよかったから、別に誰が悪口言ったところで平気だろう。

 そんなことを俺が想像していると、

 「あ、あのー、すみませんがお客様?」

 あ、すっかり忘れていた。店員の存在に。

 今の俺にしたら購買の店員なんて、このスケジュール帳のオマケでそこら辺にある背景の一部ぐらいにしか思ってなかったよ。

 そんなことを考えつつ、少しばかり店員に申し訳ないとは思いながら、俺は段ボールの中に白い方のスケジュール帳のみを戻し、


 「あ、すみませんでした!

この段ボール、もういいです。

  ありがとうございました」

 「はい。

  お買い上げありがとうございました」

俺はその黒いスケジュール帳を取り、店員に残りのスケジュール帳が入った段ボールを返した。

黒いスケジュール帳は真ん中の方にあったので変に空きが出来ていたけど、俺は一番手前のヤツを取ったように律儀(?)にずらした。

 俺はこういった細かいところも気にするような奴だった。

「(まあ自分の好きな商品を選ぶくらいどうってことないしな)」

そして、段ボールを店員に渡した後に気づいたが、この俺が行った作業は何の意味も無かったと思った。ほら、もうスケジュール帳を店に並べているし。


そうして俺は、そのスケジュール帳を持ってレジに向かった。

 レジには、さっきまで俺がお世話になっていた(?)男性店員ではなく、女性だった。

 まあ、店内で店員が一人しかいなかったと考える方がよっぽど不自然だ。この場合、このような店には、バイト生のような人が数人はいると考える方が自然だ。

 「(そうなんだけどな、実際……)」

 そうではあるんだが、俺はさっきまで中年の男性店員(よくよく考えてみれば、あの人が店長だとも考えられるな)としか、店内で会っていなかったからか、他の店員がいたということに俺は驚かされた。


 「(あれはバイトの人だろうな、きっと)」

 そのレジの女性店員は俺と同じか、一つ下のような雰囲気の小柄で童顔の女性だった。

 俺は自分の性格から、その女性店員に対して、特に感情がどうこうするようなことはなかったが、彼女は可愛いという部類に間違いなく入る容姿だと感じた。

 たぶん俺の数少ない友人(?)である、呉羽雅隆(俺は普段はマサと呼んでいる)ならば間違いなく「俺と付き合ってください!」だの、色々と彼女にアタックをしかけるだろう。

 マサはそういう人間だということを、友人である俺は知っているつもりだ。

 もちろんマサ以外に、彼女を狙う男の輩は多いだろう。それほどまでに彼女は可愛かった。

 「(俺がこんな性格じゃなかったら、俺もマサと同じだったかもしれないな。

まあそんなこと有り得ないだろうが)」

 そんなことを考えながら俺はレジの目の前まで来ていた。

 さっそく俺はレジに並ぼうとすると、その女性店員の声が聞こえた。


 「こちらのレジにどうぞ」

 「あっ、はい」

 ピッ

 「スケジュール帳一点で、980円になります」

 「じゃあ1000円からで」


 ……


「なんか良い買い物ができた気分だな」

俺のテンションは上がっていた。

ただ、一つ気にかかったことで、レジでの精算時の女性店員の頭上に?マークが浮かんでいるように見えたことが少し気がかりではあったが、今のテンションがそれなりに高い俺にはどうでもいいことだった。

だがよくよく考えてみると、やはりあの店員の様子は異常だったのかもしれない。

店員からしてみれば俺の方が異常だと思われているだろうが。


―それはまるで俺が黒いスケジュール帳なんて買おうとしてなかったかのように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ