第0頁 出会い(前編) 続き①
しばらくして例の店員が在庫の確認から戻ってきた。
「(やっとか……)」
そして店員は何やら小さめの段ボール箱を持っていた。
「(どうやら例のもの、あったみたいだな)」
どうやら俺の探していた商品があったようだ。すると店員が俺に言った。
「あのスケジュール帳の方なのですが、在庫の方がありましたので今お出しします。少々お待ちください」
「は、はいっ……」
それなら先に商品を並べといてくれ、と思ったが口には出さなかった。
そして店員がテープを剥がして、段ボールを開いて商品の棚に並べようとした時―
キイィーン!
「うっ!」
何かが音を発し、一瞬光ったように俺は感じた。
「(なっ、なんだ⁉)」
そして、その音はまだ微かだが聞こえている。
俺はわずかな音を頼りに、その音が聞こえる辺りを見渡した。
すると状況を俄かに信じがたかったのだが、どうやらその音は店員が持ってきた段ボールの中から聞こえているようだ。
「(なんであの箱の中から聞こえるんだ⁈
ありえんだろ……)」
俺はその音が本当に段ボールの中で聞こえているのがあまりに非現実的過ぎて信じられなかった。でも、
その音の正体をなぜかその時知りたくなった俺は店員に頼み、一度商品を並べる前にその段ボールの中に入っている商品を見せて欲しいと言った。(こういうことを聞いているところとか、地味に変な奴だとか思われるだろうが)
今の不可解な状況下において、どうでもいいことだった。
店員はどうぞと言った感じで段ボールごと俺に渡してくれた。
俺は段ボールの中を見た―
「こんなことって……」
箱の中には一ダース分のスケジュール帳があったのだが、その中の光景は間違いなく不自然だった。
一個だけ色が他のスケジュール帳と違って存在感があった。いや、正確には光り輝いていた。俺はそのスケジュール帳を右手に、ごく普通なスケジュール帳を左手にとってみた。
「……右手の方のスケジュール帳、やたらかっこいいな。
でも何故これだけ違うんだ?
ま、まさか⁉
これって運命とか!
……いや、さすがにそれはないか、ハハハッ」
❘ボソリ
「……あ‼」
俺の気づいた時は遅かった。しまった。
今の俺のつぶやきから派生してのテンションの高さに店員は、「なっ!なんだあの生徒、なんか危ないぞ……」とか思っているかもしれない。
とにかくあの独り言はいろいろとだめだ。
俺はこの失態からすぐに逃亡をしようと決意したが、それは俺の手に持っているスケジュール帳の存在で一瞬に打ち砕かれた。
そういうわけで、俺は手に取っていた二個のスケジュール帳をもっと詳しく見ることにした。
その二個を比べてみて、俺は明らかにデザインが違う事に気づいた。
普通のスケジュール帳らしき方は、白を基調とした清潔感のある、言い換えれば、どこにでもあるシンプルなデザインのスケジュール帳であるのに対し、俺が注目した存在感のあるスケジュール帳の方は、黒を基調にシルバーのラインとよくわからないマークがついていた。この黒い方のスケジュール帳はどこかのブランド物のコピー商品のようにも考えられたが、さすがにこのマークは俺の知っている有名ブランドのどのロゴを真似して作られた物でもなさそうだ。
俺はこのマークを知らない……、きっと。
でもそのデザインを妙に気に入ってしまう自分がいた。
「(好奇心で動くところとか、俺、まるで子どもだな)」
俺はそれを口には出さなかった。
事実、俺には昔から、子どもっぽいところが抜けてない部分があることを自分でも自覚している。
それはスケジュール帳を買うことだって、例外でない。
俺は中学の頃よりも社会人みたいな気分になれそうだと思い、高校からスケジュール帳を使い始めたのだ。
実際、スケジュール帳を使ってみた一年間で感じたことだが、スケジュール帳のそれ自体は役に立つ。しかし大人っぽいという感じが付与されるなんてことはなかった。
当たり前だ。浅はかだった。
―という、俺にはちょっと変かもしれない、いや、むしろ似合わないとでもいえばいいだろうか、少し人とは変わった性格があるのだ。
この性格については幸い、俺以外の誰もが知らないだろう。俺はこの性格のことは、俺の数少ない友人にも、俺の両親にだって話していないことだからな。
だから全員、俺のことは暗い人っていうイメージしかないだろう。
まあ俺のそういう印象と真逆の性格が今、現在進行形で発動しているんだがな、
ゴクッ
俺は好奇心から、その黒いスケジュール帳を開いてみることにした。
やばいな。この感覚は心臓に悪い。
「(まだ開く前だっていうのにもうドキドキしているぞ、俺。本当に子どもだな)」
そして―
ぺらっ