恥ずかしい!
赤羽は生まれて初めて会社をサボった。
そう、サボったのだ。仮病を使って。
上司には風邪と偽った。しかし、バレているだろ。赤羽が仮病を使ったなど、誰から見てもバレバレだから。
原因は一つ。
会社に行きづらいから。
何故行きづらい?青木を始め会いたくない社員達がいるから。
では、何故会いたくない?何故なら?会いたくないに決まっている。
あんなみっともない姿を晒して。
土下座の挙句に、ゴメンなちゃい!実は少し漏らしてもいた。多分、誰にもバレてはいないと思うが、もし、もしバレバレいたら?自殺ものだ。
しかも、いいところは全部、山崎が持って行きやがった。
山崎があんなに強いなんて知らなかった。
後で青木やリカが嫌がる山崎から聞き出した話だと、山崎は紫龍館と言う名前の空手道場に二十年近く通っているそうだ。
「紫龍館?!あの紫龍館ですか?超実戦空手流派、爆真会館全日本チャンピオン秋月浩二が独立して立ち上げた、超超実戦空手流派ですよね!」
青木が一気に捲し立てた。リカも憧れの眼差しで山崎を見つめる。
「やめてください。僕は、ただの山崎ですから」
山崎の謙遜はいつもと変わらない。謙遜も過ぎれば嫌味になる。
だが、今の赤羽には山崎を攻撃する元気も余裕もない。
何しろ土下座君の挙句のゴメンなちゃい!君なのだから。
その日、赤羽は逃げるように帰った。
翌日はサボってしまった。
さすがに大の大人が風邪で二日は休めない。
今日は出勤しなくては。
赤羽は緊張で気持ちが悪くなりながら、やっとのことで会社に着いた。
やはり辛い。
吐きそうだ。
いや、実際、駅のトイレで吐いた。
赤羽はそれでも勇気を振りしぼって出勤した。
会社には山崎も伊香保も青木もサユリもリカも出勤していた。
皆が普通に挨拶してくる。赤羽も返礼する。一日は普通に始まり、普通に時間も経過していく。
まるで針のむしろだ。
誰もが赤羽とは普通に接して来る。
だが、だがだが、皆は決して赤羽と目を合わさない。皆の目は笑っている。一昨日の事を全く話題にもしないのも白々しい。いつもなら、赤羽の廻りには青木やリカが常に纏わり付き、笑いが絶えなかった。
しかし、今日は誰も赤羽の近くには来ない。陰湿な無視とかではなく、ただ、来ない。代わりに青木やリカや伊香保までもが、山崎の廻りに侍っている。
赤羽は泣きそうになった。いや、事実、泣いていた。心の中で泣いていた。
赤羽は体調不良を理由に早退した。
45才独身貴族。
一人暮らしの赤羽は自宅でふて寝していた。
あれから、もう二日も休んでしまった。逆に会社に行き辛くなってしまった。いや、もう行けない。あの会社には二度と行けない。
これからどうしたらいいんだ。赤羽はベッドの中で頭を抱えた。
その日の夕方。山崎から電話がかかってきた。会いたいと言う。会って謝罪したいと言う。
電話口で、山崎は
「僕がカッコつけたせいで、赤羽さんに恥をかかせてしまいました。すみません」
と言った。
山崎の言葉に赤羽は内心激怒した。なんて嫌味な奴だ!謙遜にもほどがある。完全に嫌味だ。こいつの低姿勢は完全に人を馬鹿にしている。直に一言、言ってやる!赤羽は山崎を近所の居酒屋に呼び出した。
「やはり、空手など使ってはいけませんでした。赤羽さんに恥をかかせてしまいました」
「じゃあ、山崎はあの場合どうすればいいと思ったんだ?お前が暴れたお陰でみんな助かったじゃねぇかよ。俺もだけど」
「僕も赤羽さんと一緒に土下座すればよかったです。それをカッコつけてしまいました。修行が足りませんでした」
「土下座?おまえ、どんだけ嫌味な奴なんだよ。俺の事は内心笑ってるんだろ?土下座ヤロー!ゴメンなちゃい!ヤロー!って」
「まさか!他の人達はともかく、僕は赤羽さんのことは馬鹿になんてしてません!」
「どうだかぁ?ん?他はともかく?み、皆は俺のことを馬鹿にしているんか?な?どうなんだよ!教えてくれよ!」
「……残念ながら……」
「あぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、やはり!だと思ったぁぁぁぁぁぁ!」
「赤羽さん……明日は会社に来てください。お願いします」
「やだ!絶対に行かない!会社はもう辞める!」
「そんな!皆待ってます」
「皆が?嘘だ!」
「すみません、嘘つきました」
「そこは嘘つけよ!皆が言ってます、赤羽に会いたいなぁ。とか!」
「すみません。嘘がつけなくて」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そうだ、赤羽さん。うちの道場に来ませんか?」
「爆真会館に?」
「い、いえ、爆真会館から独立した紫龍館ってとこです」
「なんで?」
「いや、空手でもやれば元気になるかな?と思いまして。自信にもなるし。でも、すみません。興味ないですよね?はは」
「待て!行くぞ!」
「え?本気ですか?」
「本気だ!行ってやる!明日から行ってやる!案内しろ!」