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第六章:挑戦

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第三章:挑戦者ちょうせんしゃ


月の光が、静かな広場を照らしていた。

その冷たい銀色の輝きの中で——アギャタはようやく相手の顔を見た。


年は、自分とほとんど同じくらい。

月明かりにかすかに光る軽い鎧を身につけ、手には一本の槍を握っていた。

片方の耳は裂けており、その黒い瞳がまっすぐアギャタを射抜いている。


静寂を破るように、低い声が響いた。


「……俺の名は、ヴィール。」


アギャタは目を細めた。

「ヴィール……なぜ俺に矢を放った? もし他の誰かに当たっていたら、命を落としていたかもしれない。」


ヴィールの表情は微動だにしない。

「もしその程度で死ぬなら——俺が“ライバル”と呼ぶ価値もねぇ。」


「ライバル……?」

アギャタは小さく呟いた。


彼は静かに息を吐く。

「人の命を……そんな理由で賭けるのか? 俺を強いと思ってるからって——」


「黙れ!」

ヴィールが怒声を上げ、アギャタの言葉を遮った。

「説教するな! お前、いったい何様のつもりだ!?」


アギャタは驚いたようにまばたきをした。


ヴィールは一歩前へ踏み出し、怒りを込めて叫ぶ。

「いつだってお前が先にいる! 勉強でも、戦いでも……友情でも!」


アギャタは首をかしげる。

「つまり……嫉妬か? それに友情? 俺の友達は一人だけだ。」


「そうだ!」ヴィールが言い返す。

「マヤ——学校で一番有名で、美しい女の子。お前の友達だろ。」


アギャタは黙り込んだ。


ヴィールは槍を少し構える。

「俺はお前に挑戦しに来た。もし俺が勝ったら——マヤから離れろ。」


「……くだらない。」

アギャタは冷たく言葉を返す。

「そんな下らない理由で、俺の時間を無駄にしたのか。」


怒りが湧き上がる。

アギャタは一瞬で剣を抜き、構えを取った。

その瞬間、空気が鋭く張り詰めた。


ヴィールも槍を構え、低く言う。

「じゃあ……条件、受けるのか?」


アギャタは静かに答えた。

「受けない。」


「……なに?」

ヴィールの顔に驚きと困惑が浮かぶ。

「お前が挑戦を断る? そんなこと、一度もなかっただろ!」


アギャタの視線は強かった。

「マヤは“賭け”の対象じゃない。彼女は俺の友だ。」


その言葉と同時に、アギャタの体が動いた。


次の瞬間、風が裂けた。

アギャタが一歩踏み出す——その速さに、ヴィールの息が止まる。

気づけば、アギャタの姿が消えていた。


「っ——!」


気がついたときには、冷たい刃が喉元にあった。

月光の中で、アギャタの黒い瞳がヴィールを射抜いている。


「……今すぐ降参しろ。」

低く、静かな声が響く。

「さもなくば——命を奪う。」


その瞳は本気だった。


汗がヴィールの頬を伝う。

恐怖で手が震え、唇がかすかに動いた。


「お、おれは……負けを認める。」


その言葉を聞くと、アギャタは剣を下ろした。

ヴィールはその場に崩れ落ち、荒い息を吐きながら膝をつく。


静かな夜に、二人の呼吸だけが響いていた。


* * *



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