第五章:挑戦者
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突然——アギャタの方へ一本の矢が飛んできた。
一瞬だけ体がすくんだが、反射的に、彼はその矢を二本の指で掴み取っていた。
「……っ!」
カン、とガラスの音が響く。
その音を聞いて、祖母が慌てて駆けつけてきた。
「アギャタ! どうしたの、それ!」
アギャタは咄嗟に矢を背中の後ろに隠し、平然と答えた。
「な、なんでもないよ、おばあさん。外で子供たちがボール遊びしてて……
そのボールが、たまたま窓に当たったんだ。」
祖母は眉をひそめて言った。
「この時間に? じゃあ、そのボールはどこ?」
偶然にも、アギャタの近くに革のボールが置いてあった。
彼は迷いなくそれを手渡した。
「これだよ。」
祖母は息をつき、怒ったように呟く。
「まったく……どうせあとで取りに来るんだろう。その時、しっかり叱ってやらないと。」
祖母が部屋を出て行くと、アギャタは静かに矢を取り出した。
矢の先には、何か紙が巻きつけられている。
彼はそれをゆっくりと開いた。
> 『今すぐ、シャーヒー寺院の裏の広場に来い。剣を持って。』
「……はぁ?」
怒りが胸の奥で燃え上がる。
——誰だ?
たった一つの挑戦のために、矢なんか撃ち込むやつがいるか?
しかも、俺が大事な書物を読んでいる時に……!
だが、アギャタには一つの信念があった。
どんな挑戦であっても、逃げない。絶対に——。
だからこそ、彼は行くことを決めた。
剣を取ろうと立ち上がった瞬間、彼の目が窓の外を捉えた。
そして、言葉を失った。
夜の闇。
空には雲ひとつない——それなのに、ついさっきまで雨の音を聞いていた気がした。
「……なんだ、これ……? 時間の感覚が……?」
彼は祖母の言葉を思い出す。
> 『この時間に?』
あの時、彼はてっきり「雨のせい」だと思っていた。
けれど、今は——まったく違う。
「……ま、いい。まずは行こう。」
心を静め、彼は剣を掴んで部屋を出た。
* * *
広場に着いた時、そこには誰の姿もなかった。
ただ、夜風だけが草を揺らしていた。
「……遅いな。」
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そう呟いた瞬間、闇の中に人影がゆっくりと現れた。
アギャタは声を上げた。
「挑戦しておいて、自分が遅れてくるなんて……どういうつもりだ?」
月明かりに照らされ、相手の顔がわずかに見える。
「お前は……誰だ?」
影の向こうから、低い声が返ってきた。
> 「俺の名は——……」




