第二章:新たなる誓い
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「アギャタ・ジャヴィダン、ヴィジャヤの騎士として昇格を認めます!」
その瞬間、王立学院の大講堂が拍手と歓声に包まれた。
だが、アギャタ・ジャヴィダン、十七歳――
その顔に感情はなかった。
彼にとって、この日、この称号は……
ただの通過点に過ぎない。
【俺の本当の目的は、六年前に見つけた“黒い球体”の謎を解き明かすこと。そして、最強の戦士になることだ】
壇上に上がった彼の前に、精巧な剣と勲章が差し出される。
それを静かに受け取り、一礼する。
彼の心は、どこまでも冷静だった。
――
式が終わり、学院の門をくぐったとき。
「アグマナ! 待ってよ!」
後ろから聞こえたのは、聞き慣れた少女の声。
振り返ると、幼なじみのマヤが息を切らして走ってきた。
「ねぇ、今聞いたよ! おめでとう!」
「……ありがとう、マヤ」
アギャタはわずかに口元を緩める。
「もう、もっと喜びなよ。せっかく騎士になったのに」
「これは……まだ一歩目に過ぎない」
「出た、いつもの真面目発言。でもね、私も魔導士推薦、通ったんだから!」
「当然だな」
その言葉に、マヤはニッコリと笑い、アギャタも小さな笑みを返した。
「さて、次は王国事務局だな。正式な登録が必要だろ」
「そうだね! 一緒に行こ!」
――
王国事務局は、白い大理石で作られた巨大な建物。
その輝きは、まるで神殿のようだった。
中に入ると、受付の女性が丁寧に出迎えてくれる。
「すみません。アギャタ・ジャヴィダンと、こちらはマヤです。騎士と魔導士としての正式登録に来ました」
「こちらの書類にご記入ください」
二人は並んで椅子に座り、記入を始める。
名前、生年月日、戦闘分野――
次に、家族情報の欄が目に入った。
父:無職
母:死亡
そして、兄:____
そこで、アギャタの手が止まった。
【兄は……死んだのか? 違う。違っていてほしい】
彼はゆっくりと「行方不明」と書き込む。
横でマヤが静かにその様子を見ていたが、何も言わなかった。
――
提出を終えて外に出る。
「やったね! これで私たち、正式に戦士になったよ!」
「……ああ。家に帰って、祖母たちに伝えよう」
――
家に着くと、木の扉が開き、祖母が笑顔で迎えてくれた。
「アギャタ、学院はどうだった?」
「……俺は、ヴィジャヤの騎士になった」
「よくやったねぇ……」
その言葉に、アギャタは少しだけ目を細めた。
中に入ると、父が窓辺に座っていた。
「ただいま、父さん」
「おう。結果はどうだった?」
「上出来だったよ」
父は静かに頷いた。
「わかってたさ。お前なら、やれると」
その直後、祖母が昼食を準備し始める。
彼らは、食卓の前で静かに祈りを捧げ、祖先への供物を並べた。
――だが、その場には沈黙が漂う。
【ここには……もう一人、必要なはずの存在がいない】
その空白が、心を重くする。
そのとき、突然――空から雨が降り出した。
「洗濯物が……!」と祖母が立ち上がる。
「俺が取ってくる」
アギャタは席を立ち、裏庭へと向かった。
――
外はすでに土砂降りだった。
【さっきまで晴れていたのに……おかしいな】
雨の中、彼は服を手早く回収していく。
だが、足元に何かが落ちていることに気づいた。
――一冊の本。
革の表紙には、何の文字も刻まれていない。
アギャタが拾い上げると、それは信じられないことに――乾いていた。
【……これは、なんだ?】
心臓が高鳴る。
運命が、再び動き出そうとしていた。
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