【コミカライズ記念】浮気された次期宰相と公爵令嬢はいいからくっつけ
こちらは【続編】です。1話目はシリーズよりどうぞ
春の匂いを含んだ心地よい風が、王宮の一室に吹き込む。
そんな爽やかさを相殺するがごとく、デスクで頭を抱えていたグラントの口から重たい……それはそれは重たいため息が落とされた。それに返事をするように、誰もいないはずの部屋に耳当たりのいい声が響く。
「なにやってんだ、この世の終わりみたいなため息ついて」
驚いて顔を上げれば、レースがひるがえる窓枠から一人の青年が乗り込んでくるところだった。腰を浮かせたグラントは彼の名を呼ぶ。
「ティル!」
「よぉグラン。マジで王子サマだったのかよ」
「その前に3階だぞ、ここ」
今にも腹を抱えて笑い出しそうな青年は、隣国で風来坊ごっこをしていた時によくつるんでいた仲間の一人だった。甘いマスクに煌めく金髪を長い三つ編みにした優男。しなやかな片手剣を愛用していて、背中を任せて戦った記憶が蘇る。それと同時に、いつも狙っていた女のコを取られていたことも。
腐れ縁とも相棒とも呼べる彼は、するりと室内に滑り込んでくる。そうして無遠慮にこちらを頭から足のつま先までジロジロと眺めた。あの時とは違う自分の恰好に何となくバツが悪くなって視線を逸らす。
「……悪かったな、何も言わずに姿を消して」
「本当にな、おかげで色々と一人で片づけるはめになった」
まぁ、と拳を上げたティルは、こちらの胸をこつんと小突いてきた。
「あんがい似合ってるじゃないか。馬子にも衣裳ってやつか?」
「言ってろ」
笑い返していつものように肩を小突き返す。城の警備などあっさりとかいくぐってきた侵入者は、ソファに腰かけると頭の後ろで手を組んだ。
「で? 何を唸ってたんだ」
「そうだ、聞いてくれよ~」
思わぬ旧知の来訪に、次期王位継承者は目下の悩みを打ち明けることにした。情けない声を上げながら向かいの席に座る。
「王位に就くのは、まぁいい。今まで逃げ回って兄上には散々迷惑かけたし、責務と思って頑張ることにした」
「ほーん?」
「ただ、俺の嫁候補が居るんだけどよぉ、これが次期宰相とどう見ても相思相愛なのにくっつかねーの」
「グランの婚約者と次期宰相が……? なんだそれ、浮気か?」
「違うの! 二人とも浮気された同士なの!!」
「???」
どういう状況だと柳眉を上げるティルに、ここに連れ戻された経緯を細かく説明する。話している内にヒートアップしてしまったのか、だいたいの事情を打ち明けたところでテーブルに拳を叩きつけた。
「これで付き合ってねーの! 信じられる!?」
「嘘だろ、何で?」
「ナンデー!?」
頭を抱えて天を仰ぐ。脱力してソファに沈み込んだ王弟は、げんなりと言った様子で愚痴を続けた。
「マティアスが近寄るだけで真っ赤になってるんだぞ、朴念仁は朴念仁でそれを見て体調を心配するとかベッタベタな返しをするし。あの二人に挟まれて見ろ……こっちの方が間男みたいな気になってくらぁ」
「やだーうけるー」
「うけてんじゃねーよ! 他人事だと思いやがって!」
「悪い悪い」
愉快そうにクツクツと笑っていたティルは、よっと勢いをつけて立ち上がるとニヤリと笑いの質を変えた。
「よしわかった、昔のよしみだ。僕がそれとなく話を聞いてきてやろう」
「お前が?」
大丈夫かと一瞬よぎるが、そういえばこういった情報収集の類はいつもコイツ担当だったなと思い出す。事態を進めるために外部から協力を仰いでもいいのかもしれない。長年の付き合いで信用はおけるし。
「じゃあ、頼まぁ」
「貸し一つな~」
出て行こうとする彼に力なく手を振る。首だけ振り向いたティルはニッと笑った。それは何だか、とても懐かしい笑みだった。
***
「さて、城の中を一通り回ってきたわけだが――」
調査から2日ほど経ち、再び部屋に現れたティルは淡々と結果報告を上げる。
「公爵令嬢ロザリンドちゃんの方は彼女のメイドから話を聞けた。どうやら自分を救ってくれた次期宰相への恋心は自覚してるみたいだな。けれど『自分は今、グラント殿下の婚約者なのだから、浮気をしたら自分を裏切った元婚約者と同レベルになってしまう』と、気持ちを押し殺してるみたいだ」
「お、おう……」
予想通りの報告に一つ頷く。続けて~と、指を一本立てた調査員はこめかみの近くで円を描くようにそれを動かした。
「次期宰相のマティアス。どうにも彼は、自分がロザリンドちゃんの相手になれるとは端から思ってないようだ。小さい頃から『国の為』と厳しく教育されてきたのが枷になってる。あれはもう女神崇拝に近いぜ、無自覚にベタ惚れだ」
「……つまり?」
「見事なまでの、両片思い状態」
知ってた。頭を抱えたグラントに追い打ちをかけるが如く、ティルは要らん情報まで付け足してくれる。
「ついでに周囲も探ってきたけど、もう二人の気持ちはバレバレ。王宮全体がヤキモキしてて『はよくっつけ』状態だな。なんならおまえが二人の恋路を邪魔する悪役ポジになってた」
「俺が……悪役令嬢に……!?」
「ははっ、ドレスと金髪縦ロールのカツラでも用意するか?」
それはそれで見たいなと十分に楽しんだティルは、ニィと猫のような笑みを浮かべてこんなことを言い出した。
「いい方法がある、強制的にでも堅物メガネに自覚させればいいのさ」
「って言ったって、どうやって――」
「まぁ見てろって」
その時、部屋をノックする音が響き、噂の『堅物メガネ』が顔を出した。その後ろから公爵令嬢もヒョコリと顔を出す。
メガネ――もといマティアスは、不審者の姿を認めるとため息をついて眼鏡のツルを押し上げた。
「ここ数日、城内で見慣れぬ人物がうろついているとの報告が上がっていましたが、その当人がどうしてこの執務室に居るのです?」
「いや、それはな……?」
明らかに自分へ向けられている怒気に、次期継承者は視線を泳がせる。助けを求めるようにふり返ると、ティルは笑顔で手を広げながら立ち上がった。
「やぁやぁ! 僕の名前はティル。このグランとは旧知の仲でね、隣国でよく一緒につるんでいたんだ」
そこでロザリンドに目を留めた彼は、顔を輝かせると無遠慮なまでに距離を詰めた。
「初めまして美しい人! 君がグランの婚約者か。なるほど噂通り気品に満ちあふれている」
「あ……ロザリンド・アドニスと申します。お見知りおきを」
「もちろん。この城に咲いた、一輪の華麗な薔薇にご挨拶を」
洗練された動きでロザリンドの手を取ったティルは、気障ったらしく手の甲に軽く唇を落とした。彼は非常に整った甘い顔立ちをしている。若い娘なら誰しも黄色い声を上げそうな挙動に、さすがの公爵令嬢もわずかに頬を染めた。それを見ていたマティアスの眉間に皺が刻まれる。
(なるほど、嫉妬で自覚させる作戦か)
相棒の意図に気づいたグラントはつい口の端を上げてしまった。すさまじい形相でマティアスに睨まれたが、あえて静観するぜとそっぽを向く。
「しかし本当に美しい人だ、その小鳥のような声で紡がれる僕の名を聞いてみたいというのは過ぎたる願いだろうか」
「え、あの」
押されるままタジタジになっていたロザリンドだったが、その時ふいに目を見開き動きを止めた。違和感を探るように相手の顔を覗き込み、二人は至近距離で見つめ合う。
「なにかな? 紅薔薇ちゃん」
その肩を引き寄せ、華奢な腰にティルの手が伸びそうになった時、ついに痺れを切らせたマティアスが動いた。
「いい加減に……!」
ところがその手首を掴んだ瞬間、今度はマティアスまでもがハッとしたように止まった。自分よりやや低い位置にあるティルの顔を――とりわけ瞳を覗き込む。
「……」
「……」
沈黙が流れ、何事かとグラントが怪訝な顔をしたその時、背中を向けたままのティルが突然口を開いた。
「……なぁグラン」
「な、なんだよ」
「隣国でお前が踏み倒した飲み屋のツケ代、僕が立て替えてるんだ。返してくれないか」
「今ぁ!?」
後でもいいだろと言いかけたところで、マティアスからも厳しい意見が飛んでくる。
「行って下さい。一国の王が食い逃げなどと、国民にバレたら信用が地に落ちますよ」
「元はと言えば、お前が俺をさらったりするからだろうが!」
簀巻きにするのはいいのかよ! などと喚きながらグラントは自室へ財布を取りに戻ることにした。出がけに振り向くと、たしなめるように指をさして叫ぶ。
「おいティル、あんまり二人を困らせるなよ! 俺はお前もマティアスたちも大事なんだからな!」
慌ただしく出ていく次期王を見送った後、ふーっと息をついたマティアスは一歩引いて頭を下げた。
「知らなかったとは言え、手荒な真似を」
「いいや、まさか気づかれるとは思わなかった。さすがは次期宰相だな、うちの国に欲しいくらいだ」
(えっ、と?)
美貌の青年は、先ほどまでの軽薄な雰囲気は消し去ったものの、やけに尊大な態度を崩さない。
どこか呆れたような顔でマティアスが説明しようと振り返る。
「ロザリンド嬢、安心して下さい。こちらの方は――」
「ええと、女性……ですよね?」
おずおずとロザリンドが尋ねた瞬間、今度こそ驚いたように二人は目を見張った。腰に手をあてたティルが苦笑しながら言う。
「驚いたな、まさかそっちにまで見抜かれていたとは」
「なんとなく、直感ですけど……」
やれやれとでも言いたげなマティアスが額に手をやりながら話を次ぐ。
「紹介します、こちらはティリアレナ・イル・アーデンロー殿」
「…………ア、アーデンローってまさか」
王妃教育を勤勉に収めたロザリンドだからこそ、その家名が持つ意味に気づく。一度頷いた次期宰相は『腐れ縁ティル』の正体を明かした。
「ええ、隣国の第三王女であらせられます」
まさかそんな高貴な身分の方だったとは。言葉を失うロザリンドをよそに、ニィと笑ったティリアレナは一目置くように二人を眺めた。
「大当たり。ちなみに次期宰相くんはどこで気づいた?」
「まず手首の細さ。それから目です」
「目?」
言われて見れば、彼女の瞳は一見すると緑なのだが、光の加減によってところどころ深い青が入り混じる。
「表立っては知られていませんが、人前に滅多に姿を現さない第三王女は特殊な虹彩を持っているとか。以前、確かな筋から情報を入手したことがありまして」
「何その情報網、こわい」
本当に国のトップぐらいしか知らないはずなんだけど……。と、ぼやくティルに次期宰相は情報の上乗せをする。
「さらには金髪で身軽。剣の腕は騎士顔負け、田舎で過ごした幼少期はまるでサルのようだったと。それらをつなぎ合わせた上での判断です」
「悪かったなお転婆で」
その横でロザリンドは混乱したように目を白黒させている。
「えぇ……と、いうことはお一人で国境を越えこちらに? 護衛も付けず? グラント様はこの事をどこまでご存じで――」
「おっと」
その時、廊下から誰かが戻ってくる音が聞こえて来た。シーっと口元に指を立てたティルは片目をイタズラっぽくつむってみせた。
「その話はまた改めて、ね」
***
数日後、ロザリンドの実家であるアドニス家のサロンにて、話しの続きのためにお茶会が開かれていた。ティルことティリアレナ王女が優雅に腰かけるその様は、一度女性と分かれば男装の麗人にしか見えなかった。彼――いや、彼女は出会いの場から語り始める。
「5年……くらい前だったかな? 隣の国から王弟がお忍びでやってくるって言うのを聞いて、興味本位で僕から近づいたんだ」
自身もカップを手に取ったロザリンドは、三方に向かい合わせた椅子の一つからそちらを見やる。
「では、そのお姿もその時から……?」
「うん、僕は城の中でもちょっと特殊な立ち位置でね。国民には顔が知られていなかった。ちょうどいいからこれを機に世間でも見て回るかって飛び出したんだ」
「それで男装とは、呆れて物も言えませんよ」
「えへへ、サマになってるだろ?」
もう一つの椅子からマティアスも苦言を呈するが、どこ吹く風でティルは笑う。昔を懐かしむように目を閉じると、回想を続けた。
「グランのやつ、最初は諜報活動でもしてるのかと警戒してたけど、本当にただ放浪しに来ただけと分かって拍子抜けしたなぁ。僕とおんなじ王族のクセに、どこまでも自由で、楽しそうなんだ。まぁ、何年も顔を突き合わせてるのに僕が女だと気づかないのはどうかと思うけど」
まぁ、あの人ならそうでしょうねと呟くマティアスに、良心の残るロザリンドは曖昧な笑顔を浮かべるに留めた。今ごろ彼は一人、くしゃみを連発しているに違いない。
ここでスッと目を開けたティルは穏やかに笑う。窓からの陽の光を取り込んで煌めく不思議な瞳は、柔らかな色を浮かべていた。
「でもさ……グランはすごくいいやつなんだ。アホで大酒呑みで、いびきはうるさいし、やることなすこと大ざっぱだけど……。だけど仲間は絶対に見捨てないし、いつの間にか人を惹きつけている魅力がある」
「ティリアレナ様……」
「弱い立場の人にも寄り添えるから王サマにもきっと向いてる。困っている人には迷いなく手を差し伸べられる男だ。聡明な君たちが両脇から支えてくれるなら、この国はもっといい国になるだろう」
何かを言いたげなロザリンドから視線を外し。ティルはこの国に来た本当の目的を打ち明ける。
「実を言うとさ、僕がこっちに来たのも、もしアイツがつまらなそうだったらまた旅に出ようぜって誘うつもりだったんだ。でもこの数日、城の様子を見てわかった。この国はグランを必要としているし、彼自身もそれに応えようと頑張ってる。余計なお世話だったみたいだ」
ここでふぅと一息ついたティルは、どこか切なそうに笑った。
「寂しくなるな、もう僕だけの相棒じゃないんだ。グランをどうかよろしくね」
「……」
マティアスは何も言わない。ところがその隣でプルプルと震えていたロザリンドは、急にガバリと顔を上げると感動したように両手を握りしめた。
「素敵ですわ! まさかティリアレナ様が、そんなにグラント様を深く愛していらしたなんて!」
その言葉にしばらくポカンとしていたティルは、突然ブッと吹き出した。片手を振りながらケラケラと笑い飛ばす。
「アハハハハ、愛ぃ? 冗談やめてよ。なんで僕があんなクマみたいな男」
「違いますの?」
「当然だよ、僕はただ元相棒として心配してただけで……」
さも面白い冗談を聞いたように笑っていたティルだったが、意外そうに首を傾げたロザリンドの次の言葉にピタリと動きを止める。
「あんなに愛おしそうな顔をして彼のことを語っていましたのに? もしかしてご自分では気づいていらっしゃらない……?」
「へ?」
完全に無自覚だったのだろう、頬を染めた王女は慌てたように手を振る。
「い、いやいやいや、人として! 尊敬できなくもないから! ねっ?」
「そうですか? ですが、ティリアレナ様がわたくしに迫って来たのも 『自分になびくようなら、お前なんか認めないぞ』という鋭い牽制のようなものを感じたのですが……」
あの時漏れ出た感情の機微を読みとったからこそ、ロザリンドは彼女が女性だと気付くことができた。
「牽制……って」
自分でも気づいていなかった事実に、ティルは今度こそ完全にぴしりと固まった。ぎこちない動きで前のめりに沈んでいき、青ざめた顔を両手で覆ってしまう。その指の隙間から、くぐもった声が零れた。
「いや違う、あれが嫉妬だなんてそんな、よりによってアイツなんかに……。うわ、あの時も」
これまでの行いを反芻していたのだろう。次に顔を上げた時、その顔は耳まで赤くなっていた。ちらりとマティアスの方を見やると泣き出しそうな顔で一人呟く。
「最悪だ……どうしてそっちじゃなくて、僕が自覚させられてるんだ……」
「?」
的中したことで嬉しそうに手をパンと合わせたロザリンドは、涙目のティルに力強く宣言した。
「ティリアレナ様! わたくし応援いたしますわっ。グラント様の隣から去る必要はありません」
「え?」
「あなたが王女として、隣国からこちらに輿入れすれば良いのですよ!」
まさかの提案にティルはカクンと口を開ける。それにも構わず、現在の婚約者は歌でも歌いそうな勢いで話を続けた。
「そうですわ、王女であれば公爵令嬢であるわたくしを退けるのに身分は十分。ですよねマティアス様?」
「確かに、友好国である隣国との結びつきを深める意味でもアリですが」
次期宰相までもが冷静にそう判断を下す。とんでもない方向に話が転がり始めるのを感じたティルは青ざめながら二人の目を覚まさせようとした。
「む、無理だよ。僕ガサツだし、社交界とか避けて来たし……剣術しか出来ない」
「わたくしが教えますわ!」
フンス、と鼻息荒く拳を握りしめる公爵令嬢は、自分が学んできた王妃教育をすべて叩き込まんばかりの勢いだった。
「素材は抜群ですもの。磨けば光ります!」
「無理だって!」
「ですがロザリンド様、それでよろしいのですか?」
暴走しかける令嬢を冷静に止めたのはマティアスだった。真剣な顔をした彼は、きょとんとするロザリンドにこう尋ねる。
「確かに実利のある政略婚ではありますが、そうなればあなたは王族から二度も婚約を解消された形になってしまいます。あなたが泥をかぶる必要は無いと申し上げたではないですか。それとも、本当はあの方がお嫌なので?」
「えっと、グラント様が嫌いなのではなく、その……」
まさかこの場で『あなたと結ばれたいから』とは言えずロザリンドは口ごもる。スッと立ち上がったマティアスは彼女の傍らまで行くと跪き、その手を取って真摯に訴えた。
「お願いですから気持ちを呑み込まないで下さい。私は国の発展を願ってはいますが、それ以上にあなたの幸せを願っているのです」
「っ、」
「あなたはもう十分すぎるほど傷つきました、私はその心をいかなる悪意からも守りたい」
仕事に関しては『冷徹』とまで言われるマティアスの、心から感情が込められた言葉にロザリンドは固まる。それをまっすぐに見つめ続けるマティアスと、二人の世界を外から見つめる隣国の王女が一人。
やがてティルは、引きつった笑みを浮かべながら観念したように申し出た。
「あー……うん……、わかったよ。僕がんばってみるから。だからさ、そこの次期宰相さん……」
「なんですか?」
「……なるほどこれは」
生真面目な顔で振り返るマティアスに、巻き込まれる形になった王女は痛む頭を押さえて自嘲するように呟いた。
「グラン、笑ってごめん。僕も当事者になっちゃったよ……」
自覚のない甘さを全力投球する朴念仁に、あと一歩が踏み出せない公爵令嬢。
空を仰いだティルは、どこかげんなりとしたように苦笑いを浮かべ、呆れたように呟いたのだった。
「君たちほんとさぁ……」
おわり
前話からぴったり1年ぶりの投稿です。お久しぶりです
今回「浮気された次期宰相と公爵令嬢は結ばれるわけにはいかない」を短編アンソロジーとしてコミカライズして頂ける運びになり、その記念も兼ねてあの後の話をちょっとだけ続けてみました。
漫画ですが、担当して頂いたさくら夏希先生に素晴らしい出来栄えにして頂きました。
明日15日よりまずは電子として単話配信いたしますので、ぜひともチェックしてみて下さい。その後、1月ほどおいて紙での単行本が発売される予定です。詳細は活動日報にて