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母の子守唄、星になったお母さんへ  作者: エリナ
終章
8/13

未来への歌声

あれから一年が過ぎた。


リナは十一歳になり、トムは九歳になった。お母さんのいない生活にも、少しずつ慣れてきた。でも時々、朝起きた時に「お母さん」と呼んでしまうことがある。


「リナ、お父さんの手伝いしようか」


トムが言った。お父さんは最近、仕事と家事の両方をこなそうとして、とても疲れて見える。


「そうね。私たちにもできることがあるはず」


リナは台所に立って、お母さんから教わった料理を作ってみた。最初は上手くできなかったけれど、だんだんとお母さんの味に近づいてきた。


「美味しいよ、リナ」


お父さんが嬉しそうに言ってくれる。


「お母さんみたいな味」


トムも笑顔で食べてくれる。


その言葉が何より嬉しかった。お母さんの味を受け継げているということが。


ある日、リナは村の小さな子供たちに本を読んであげることになった。お母さんがよくやっていたことだった。


「むかしむかし、あるところに…」


子供たちが目を輝かせて聞いている。リナは読みながら思った。お母さんは、こんな気持ちで私たちに本を読んでくれていたのかな。


「リナお姉ちゃん、また読んで」


小さな女の子がリナの袖を引っ張った。


「いいよ。今度はどんなお話がいい?」


お母さんのように、子供たちを大切にしたい。お母さんが村の人たちに愛されていたように、私も誰かの役に立ちたい。


夕方、家族三人で夕食を囲む。お母さんの椅子は空いたままだけれど、もう泣かずにいられるようになった。


「リナ、トム、お前たちは本当にお母さんに似て、優しく育ってくれている」


お父さんが、しみじみと言った。


「私たちは、お母さんの子供だもの」


リナは胸を張って答えた。


「お母さんの愛情を、いつまでも覚えているからね」


夜、ベッドの中でトムと話した。


「リナ、僕たちはどんな大人になるのかな」


「きっと、お母さんのような大人になるのよ。強くて、優しくて、みんなに愛される」


「僕もそうなりたい」


「なれるよ。お母さんの愛が、私たちの心にちゃんと残ってるもの」


窓の外で星がきらめいている。あの明るい星が、今夜もお母さんのような気がした。


「お母さん、見ててね。私たちは大丈夫」


リナは心の中でお母さんに語りかけた。


「お母さんが教えてくれた愛を、今度は私が誰かに分けてあげる。お母さんの優しさを受け継いで、強く生きていく」


そして、お母さんがよく歌ってくれた子守唄を、小さな声で歌い始めた。


「ねんねんころりよ おころりよ お空のお星さま 見てござる お母さんが歌う 子守唄 やさしいお声で 眠りましょう」


トムも一緒に歌った。二人の声が重なって、小さな家に響く。


この歌声が、きっとお母さんにも届くだろう。そしていつか、リナも自分の子供にこの歌を歌ってあげるのだろう。お母さんから受け継いだ愛を、次の世代へと繋いでいくために。


復讐の連鎖を断ち切って、愛の連鎖を紡いでいくために。


月明かりが二人を優しく照らし、新しい希望の朝が、静かに二人を待っていた。

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