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母の子守唄、星になったお母さんへ  作者: エリナ
第7章
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残された者たち

「お母さん、まだかな」


トムが窓辺に立って、暗くなった道を見つめていた。夕食の準備は終わっているのに、お母さんが帰ってこない。


「きっとすぐ帰ってくるよ」


リナは弟を慰めるように言ったけれど、心の中では不安が膨らんでいた。お母さんは約束を破る人じゃない。「すぐに戻る」と言ったのに。


「お父さん、お母さん探しに行こうよ」


「もう少し待とう。きっと…」


ダビドの表情も曇っていた。エリナが薪拾いでこんなに遅くなったことはない。


夜が更けても、エリナは帰ってこなかった。


「お母さん…」


トムがとうとう泣き出した。リナも不安で胸が苦しくなった。


翌朝、村の男たちが総出で森を捜索した。そして午後、彼らが見つけたのは、落ち葉に埋もれた冷たい体だった。


「エリナちゃん…」


村人たちの悲しみの声が森に響いた。


家に戻ったダビドの顔を見た瞬間、リナは全てを理解した。


「お母さんは…」


「お母さんは…もう帰ってこない」


ダビドが震え声で言った瞬間、リナの世界は崩れ落ちた。


「嫌だ!お母さん!お母さん!」


トムが泣き叫んで、家中を走り回った。


「お母さん!どこにいるの!」


リナも涙が止まらなかった。昨日の朝まで、あんなに普通にお話ししていたのに。「早く帰ってきてね」って言ったのに。


お母さんの匂いがする台所。お母さんが最後に作りかけていたシチューの材料。お母さんが使っていた椅子。すべてがお母さんを思い出させて、胸が張り裂けそうだった。


お葬式の日、リナは小さな手でお母さんの冷たい手を握った。


「お母さん、起きて。リナだよ」


でもお母さんは二度と温かい笑顔を見せてくれることはなかった。


「エリナは本当に良いお母さんだった」


村の人たちが代わる代わる声をかけてくれる。でもどんな慰めの言葉も、この胸の空虚感を埋めてはくれなかった。


その夜、リナはトムと一緒にお母さんのベッドにもぐり込んだ。お母さんの枕は、まだお母さんの匂いがした。


「お母さん、どうして行っちゃったの」


トムが小さな声でつぶやいた。


「お母さんは、お空のお星さまになったのよ」


リナは涙を拭きながら、お母さんがよく言っていた言葉を繰り返した。


「でも、寂しいよ」


「私も寂しい。でも…お母さんは見守ってくれてるって」


本当は、リナも怖くて仕方なかった。この先どうやって生きていけばいいのか、わからなかった。


でも、お母さんが最後に歌ってくれた子守唄を思い出した。


「お母さんが歌う子守唄、やさしいお声で眠りましょう」


リナは小さな声で歌い始めた。トムが静かに聞いている。


「お母さんの声じゃない」


「でも、お母さんが教えてくれた歌よ。お母さんの愛が込められてるの」


その時、窓の外を見ると、一つの星がとても明るく輝いていた。


「あの星、お母さんかな」


「きっとそうよ」


リナは星に向かって小さく手を振った。


「お母さん、見守っててね。リナもトムも、がんばるから」


風がそっと吹いて、カーテンを揺らした。まるでお母さんが返事をしてくれたみたいに。

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