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母の子守唄、星になったお母さんへ  作者: エリナ
第4章
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母になる日

つわりで苦しい朝も、お腹の中に新しい命がいると思うと、不思議と幸せだった。


ダビドと結婚して一年。小さいながらも二人だけの家を構えて、ささやかだけれど温かい日々を送っていた。そして今、私のお腹の中で小さな命が育っている。


「調子はどう?」


ダビドが心配そうに背中を撫でてくれる。優しい手の温もりが、気持ち悪さを和らげてくれる。


「大丈夫。赤ちゃんも元気よ」


お腹に手を当てると、まだ小さな膨らみだけれど、確かに命がそこにいるのがわかる。


「男の子かな、女の子かな」


「どちらでもいいわ。元気に生まれてきてくれれば」


でも心の中では、もし女の子だったら、私が感じられなかった母の愛をたっぷりと注いであげたいと思っていた。


お腹が大きくなるにつれて、不安も大きくなっていった。私は母親になるのに、母親の記憶がほとんどない。うまく育てられるのだろうか。


「大丈夫よ、エリナちゃん」


村の女性たちが励ましてくれる。


「お母さんなんて、みんな初めてよ。愛情があれば、きっとうまくいく」


愛情なら、お腹の子に対して既に溢れるほど感じている。この子のためなら、何だってできる気がした。


陣痛が始まったのは、雪の降る夜だった。


「痛い…」


これまで経験したことのない痛みが、波のように押し寄せる。ダビドが慌てて産婆さんを呼びに走った。


「がんばって、エリナちゃん!もう少しよ!」


産婆さんの声に励まされながら、私は必死に耐えた。お母さんも、こんな痛みに耐えて私を産んでくれたのだろうか。


「お母さん、力をください」


心の中でお母さんに祈った時、あの温かい手のひらを感じた気がした。


「生まれたよ!元気な女の子よ!」


産婆さんの嬉しそうな声と共に、赤ちゃんの泣き声が響いた。私は安堵と喜びで涙が止まらなかった。


「リナ」


私たちは娘にそう名前をつけた。私の名前から一文字をとって。


初めて娘を胸に抱いた時の感動は、言葉では表現できない。こんなに小さくて、こんなに温かくて、こんなに愛おしい。


「こんにちは、リナ。お母さんよ」


娘は小さな手をぎゅっと握って、まるで私を認識しているかのように見つめてくれた。


夜中の授乳も、おむつ替えも、全然苦にならなかった。娘の寝顔を見ているだけで、幸せで胸がいっぱいになる。


二年後、今度は息子のトムが生まれた。男の子は女の子とまた違った可愛さがあって、毎日が発見の連続だった。


「お母さん」


リナが初めてそう呼んだ時、胸が張り裂けそうなほど嬉しかった。


「はい、お母さんよ」


娘を抱きしめながら答えた。私にも「お母さん」と呼んでくれる子がいる。この幸せを、かつて夢に見ることがあっただろうか。


「お母さん、トムが泣いてる」


リナがよちよちと歩いて教えてくれる。まだ三歳なのに、もうお姉さんの自覚があるのが微笑ましい。


「ありがとう、リナ。お姉ちゃんね」


トムを抱き上げると、すぐに泣き止んだ。きっとお腹が空いているのだろう。


夕方、二人の子供を膝に抱いて子守唄を歌った。


「ねんねんころりよ おころりよ お空のお星さま 見てござる お母さんが歌う 子守唄 やさしいお声で 眠りましょう」


リナは目をきらきらさせて聞いている。トムはうとうととしながら、私の胸にもたれかかっている。


この子たちには、私がもらえなかった温かい記憶をたくさん作ってあげたい。お母さんの声を、お母さんの手の温もりを、しっかりと心に刻んでもらいたい。


「お母さん、お母さんのお母さんはどこにいるの?」


ある日、リナがそう尋ねた。もう五歳になって、いろんなことに興味を持ち始めている。


「お母さんのお母さんは、お空の上にいるのよ」


「なんで?」


「リナが生まれる前に、お星さまになったの。でもいつも見守ってくれているわ」


リナは空を見上げて、小さく手を振った。


「おばあちゃん、こんにちは」


その無邪気な姿を見て、涙が出そうになった。私の母は、孫の顔を見ることもできなかった。でも今、きっと空の上から二人を見守ってくれているはず。


「リナもトムも、お母さんがしっかり守ってあげるからね」


夜、寝静まった二人の顔を見つめながら誓った。この子たちには絶対に、私のような思いはさせない。


ダビドも本当に良い父親だった。仕事から帰ると、疲れているのに子供たちと遊んでくれる。


「高い高い!」


トムを宙に放り上げて、キャッキャッと笑わせている。リナも「私も!私も!」とおねだりしている。


こんな普通の日々が、こんなにも幸せだなんて。


私は台所で夕食の支度をしながら、家族の笑い声に耳を傾けた。温かい夕陽が窓から差し込んで、この小さな家を優しく包んでいる。


「お母さん、今日は何のお料理?」


リナが台所を覗き込んだ。


「今日は野菜のスープよ。リナの好きな人参もたくさん入ってるの」


「やったあ!」


娘の喜ぶ顔を見ていると、料理を作るのも楽しくなる。この子たちの「おいしい」という言葉が、何よりのご褒美だった。


夜、家族四人で食卓を囲む。これが私の願っていた家族の形。愛する人がいて、可愛い子供たちがいて、みんなで同じ食事を分け合う。


「いただきます」


みんなで手を合わせて、感謝の気持ちを込めて言う。


この幸せがずっと続いてくれることを、心から願っていた。



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